第43話 だよね。鯛焼きを尻尾から食べる感じ出てるもん
格納庫に戻って来たプリンシパリティのコックピットから、麗華が降りて来てすぐにもじもじしながら恭介に訊ねる。
「恭介さん、や、野蛮な女子はお嫌い?」
「お疲れ様。ごめん、いきなり過ぎる質問でよくわからん」
「フォルフォルがレーススコアで私のレースは野蛮だって言うから…」
「フォルフォル」
予想以上に冷たい声が恭介からしたため、格納庫のモニターに現れたフォルフォルはビクビクしていた。
『な、なんだい?』
「デスゲームに拉致っといて野蛮もクソもないだろ?」
『私は恭介君と麗華ちゃんのレースを比較した感想を述べたまでで』
「デスゲームに拉致っといて野蛮もクソもないだろ?」
『いや、その』
「デスゲームに拉致っといて野蛮もクソもないだろ?」
『はい、ごめんなさい』
同じ言葉を冷ややかな声で三度繰り返され、フォルフォルはやり過ぎたと判断して謝った。
「謝るぐらいならやるんじゃない。それに、謝る相手は俺じゃないだろ?」
『麗華ちゃん、ごめんね。私はただ、恭介君と麗華ちゃんにくっついてほしくて私なりにアドバイスしたつもりだったんだ』
「俺と麗華の関係に口出しすんじゃねえ。わかったら消えろ」
『Sir, Yes Sir!』
背筋をピンと伸ばして敬礼したフォルフォルは、しばらく黙って見守ることにしてモニターから姿を消した。
フォルフォルに物申した後、恭介は以前麗華にやってもらったように彼女を抱き締めた。
「きょきょきょ恭介さん!?」
「俺は麗華を野蛮だなんて思っちゃいない。レースでもタワー探索でも、戦略ってのは人それぞれだ。麗華は確実に勝つために敵を倒した。それで良いと思ってるから、フォルフォルの言うことなんて気にするな」
「うん!」
麗華は恭介に自分のことを肯定して貰えたため、不安が解消されて笑顔を取り戻した。
それと同時に、自分から抱き締める分には良いけど恭介から抱き締められると恥ずかしくなり、麗華の顔が段々赤くなって来た。
「麗華? 顔が赤いけど大丈夫か?」
「大丈夫! 私は元気!」
「ん? そうか。それなら良いんだが」
急に自分は元気だと宣言し始めたので、無理していないか目で見て確かめてから恭介は麗華から離れた。
恭介が離れて残念だと思ってしまった麗華だったが、頭を横にブンブンと振るって気持ちを切り替えた。
「この後は10階層に挑む?」
「挑むのは午後にしよう。安全マージンのないレースで麗華も疲れただろうから、無理をするのは良くない。それに、さっき麗華が喜びそうな物をショップチャンネルで見つけたんだ」
「喜びそうな物? 何かな?」
「見てのお楽しみだ」
勿体ぶる恭介に頬を膨らませるが、ネタバレしないでいてくれたのだろうと思い直して恭介に続いて
○設計図
・ザントマンの設計図 5万ゴールド
・シルキーの設計図 10万ゴールド
・シーサーの設計図 25万ゴールド
・アラクネの設計図 50万ゴールド
・パワーの設計図 50万ゴールド
○鉱物マテリアル
・
・
・
・
・
○武器
・バルディッシュ(
・ヌンチャク(
・魔動鋸(
○魔石
・4種セット×10 1万ゴールド
・4種セット×50 5万ゴールド
麗華は設計図の欄にパワーの文字を見つけた。
「パワーの設計図がある! 50万ゴールド…」
自分の所持金で足りるか不安になり、麗華は慌てて計算した。
残念な事に足りないかもしれないという予感は的中してしまい、麗華はその場で項垂れてしまう。
「麗華、いくら足りない?」
「1万5千ゴールド。仮に足りてたとしても、午後に備えて
「俺が半額出そう。麗華が払うのは25万ゴールドで良い」
「…あぁ、…うぅ、…うーん、…ありがとう」
恭介が全額出すと言わなかったのは、麗華のプライドを考えてのことだ。
正直に言えば、50万ゴールドぐらい払ってやれるぐらいの蓄えが恭介にはある。
だが、麗華がいつも自分に奢られてばかりではプライドを保てないと思い、半額ならば納得してくれるだろうと申し出たのである。
実際、麗華も葛藤の末に半額支払ってもらうことに合意した。
半分出してくれたお礼は、タワー探索や代理戦争で働いて返すんだと決めて麗華は恭介に頭を下げた。
「麗華の場合、
「うん。任せて。恭介さんが困ってたら万難を排して助けるから」
恭介が優しく微笑むと、麗華は絶対に恭介だけは死なせないと覚悟を決めた。
パワーの設計図を購入した後、麗華は格納庫に戻ってゴーレムの調整を始める。
設計図をプリンシパリティからパワーに交換し、損傷のあった部位を修理すれば
麗華が搭乗するゴーレムが変わったから、恭介達は格納庫からそれぞれの私室に戻り、シミュレーターで10階層で出現するモンスターとの模擬戦を行う。
数回戦って勝ちパターンが決まったところで、恭介達は時間も丁度良いから食堂でランチ休憩に入ることにした。
「麗華は何にする?」
「シーフードBBQ定食かな」
「おっ、それ美味そうだな。俺もそれにする」
麗華が気になるチョイスをしていたものだから、恭介も同じメニューを選んでみた。
シーフードBBQ定食は網焼きされた魚介類がメインの定食だ。
帆立や蛤、栄螺だけでなく、焼いた𩸽や鮭が更に盛りつけられている。
ご飯と味噌汁はおかわり自由であり、恭介と麗華は茶碗1杯では足りなくてご飯をおかわりしていた。
「恭介さんって箸の使い方が上手だよね」
「そう言う麗華もな。親御さんに鍛えられたのか?」
「うん。色々と厳しい家だから」
麗華が遠い目をしているのを見て、子供時代に大変な思いをしたのだろうと恭介は心の中で合掌した。
2人が味噌汁を飲み終えたタイミングを見計らい、ロボットがデザートとして鯛焼きを持って来た。
「シーフードBBQ定食だからデザートが鯛焼きなのか」
「そうみたいだね。あっ、鯛焼きと言えば占いができるって知ってる?」
「どこから食べるかってやつだっけ?」
「そうそう。恭介さんって鯛焼きは何処から食べる?」
麗華の質問に身構えることなく、恭介は鯛焼きをどう食べるか思い出して答える。
「俺は尻尾から食べる」
「だよね。鯛焼きを尻尾から食べる感じ出てるもん」
予想通りだったと麗華は笑った。
それに対して恭介は首を傾げる。
「どゆこと?」
「慎重で用心深い性格。お金を使う時は吟味して使う。後は…、なんでもない」
「なんでもないってなんだよ」
「なんでもないったらなんでもないの!」
麗華は顔を赤くしてそう言った。
何故なら、鯛焼きを尻尾から食べる人はちょっと鈍感なところがあり、異性に好意を持たれても気づかないといったこともあるという恋愛傾向を彼女が思い出したからだ。
恭介の恋愛的に鈍感なところがあると思っていたのもそうだが、自分が恭介を恋愛対象として意識してしまったことで恥ずかしくなったのである。
「まあ、俺のことは良いや。麗華は何処から食べるんだ?」
「私は半分に割って頭から食べるよ」
「おぉ、そんな食べ方もあるのか。鯛焼きって奥が深いな。ちなみに、そのタイプはどんな傾向なんだ?」
そんな恭介の反応を見て、麗華は恭介が本当に鯛焼き占いを知らないのだと理解した。
「自分で言うのはちょっと恥ずかしいんだけど、意思が強くて行動力があるとか、自分を成長させるものにお金を使う傾向があるんだって」
「なるほどなぁ。確かに、意思が強いなって思う場面は何度かあった気がする」
「あはは、やっぱりそう思われるんだね」
恋愛面では相手をリードすることが得意だから、鈍感な恭介には自分がぴったりだなんて思ってしまった麗華の顔が再び赤くなってしまった。
「なんかさっきから顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」
「大丈夫! ちょっと鯛焼きが食べられるってわかってテンションが上がっちゃっただけだから!」
「そっか。そんなに好きなら俺のも食べる?」
恭介は好意でそう言ったのだが、麗華は鯛焼きが食べられるとわかってテンションがぶち上がっている訳ではない。
それゆえ、首を横に振った。
「良いの。恭介さんの鯛焼きは恭介さんが食べて。私は私の分だけで十分だから」
「了解。うん、甘いな」
「だね。美味しい」
デザートも平らげてから食休みに入り、十分に休んだ恭介達は格納庫へと移動した。
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