第5章 コロシアム

第41話 まだまだ武器を使わない…だと…?

 デスゲーム8日目の朝、朝食後の食休み中にフォルフォルから代理戦争開催条件の変更説明を受けてから恭介は格納庫に移動する。


「ゴロゴロマウンテンで先にレースして来る」


「頑張ってね」


「ああ」


 ゴロゴロマウンテンとはGBOのレースにおける6番目のコースのことだ。


 険しい山道を無数の岩球が転がり落ち、パイロット達の邪魔をするのがこのコースの特徴である。


 恭介は格納庫からイフリートに搭乗し、カタパルトに乗って転移門ゲートに移動する。


「明日葉恭介、イフリート、出るぞ!」


『私にいじられても言い続けるんだね』


「様式美がわからないフォルフォルじゃないだろ?」


『確かに。様式美は大事だよね』


 コックピットのモニターに現れたフォルフォルは、恭介の言い分を聞いて確かにそうだと賛同した。


 レース会場からフォルフォルに頼んで入場門を開いてもらい、恭介はそのままゴロゴロマウンテンに向かった。


 いつも通り、既に7機のゴーレムが位置に着いて待機している。


 ゴロゴロマウンテンで競うゴーレムは、木目鋼ダマスカス製からワンランク上がって聖銀ミスリル製になる。


 このコースのソロモードでは、対戦する相手がユニコーンが3機とニンフとパワーが2機ずつと決まっている。


 ユニコーンは額に角の生えた人型ゴーレムだが、馬形態になって走ることもできる。


 角からゴーレムの属性のビームを放てるという点は、馬形態に変形できるゴーレムの中では珍しいと言える。


 ニンフは女型妖精のゴーレムで、ブーメランと銃を駆使する。


 ブーメランを事前に投げ、銃でブーメランの戻って来る軌道に誘導するのがこのゴーレムの王道な戦い方だ。


 パワーは左右二対の翼を持ち、錫杖を持ったゴーレムだ。


 プリンシパリティよりもハイスペックなのは言うまでもないが、麗華が使うような双犬銃オルトロスガンも使っていないから近距離戦闘だけ考えれば良い。


 ただし、その力はプリンシパリティよりも跳ね上がっているから要注意である。


 ゴロゴロマウンテンをどう走るかはシミュレーターで昨晩予習済みだから、恭介はイフリートをスタート位置まで移動させてレース開始のカウントダウンを待つ。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はイフリートのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。


『GO!』


 タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させると、恭介は早々に1位に躍り出た。


 ゴロゴロマウンテンは前半が上り坂で後半が下り坂だ。


 前半は空を飛べるゴーレムが有利なので、ドラキオンの後に続くのはパワーとニンフである。


 (岩球が来たぞ)


 恭介は坂の上から次々に転がって来る岩を減速せずに躱し、後ろから追いかけて来るパワー2機とニンフ2機に岩球を任せる。


 空を飛べるとはいえ、大きく躱せばタイムロスに繋がる。


 それゆえ、可能な限りギリギリに躱して進むのがゴロゴロマウンテンでタイムを縮めるコツだ。


 ところが、パワー同士やニンフ同士はそれぞれスペックが一緒なので、同じ状況下では対応が被る。


 それでお互いが邪魔に感じたのか、1位の恭介に追いつくよりも先に邪魔な同種を倒すことに集中し始めた。


 そのおかげで恭介は後ろからの攻撃を心配する必要がなくなり、半周した目印になる山頂を通過して急降下する。


 山頂から下って行くと岩球が後ろから迫るのがゴロゴロマウンテンだが、ドラキオンの飛行速度には全然及ばないせいで恭介はトップスピードのまま2周目に突入した。


 2周目の上り坂を進む途中、ユニコーンが2機大破して動けなくなっていた。


 こちらも同じスペック同士で競い合っており、邪魔になって戦っているところに岩球が衝突したようだ。


 大破していたのはユニコーンだけではなく、パワーとニンフも1機ずつ行動不能に陥っていた。


 今までのコースよりも他のゴーレム同士の争いが激しくなっており、恭介も黄竜人機ドラキオンが使えなければその争いに巻き込まれていただろう。


 いくら聖銀ミスリル製のゴーレムとはいえ、イフリートでゴロゴロマウンテンに挑むのはリスクが大きいと恭介は思っている。


 それだけ転がって来る無数の岩球と他のゴーレムを気にしながら険しい山のコースで順位を競うのは、瑞穂の黄色い弾丸の二つ名を持つ恭介であっても面倒らしい。


 残るユニコーンは山頂からの下り坂で躱し、恭介の操縦するドラキオンは3周目の山登りを始める。


 敵さえいなければ、絶え間なく転がって来る岩球を躱すことなんて恭介にとって容易い。


 もうすぐ頂上が見えて来るという時、中破しているニンフが前方に見えた。


 ニンフは後ろから迫るドラキオンに気づき、ブーメランと銃を使った王道戦術でドラキオンを近づけまいとする。


 (俺を攻撃するよりも前だけ見て進めよ)


 恭介が心の中でツッコんだ次の瞬間、前方への注意が疎かになっていたニンフに岩球がぶつかり、ニンフが地面に落ちた。


 ニンフがぶつかった岩球だが、他の岩球に比べて転がるスピードが速かった。


 その理由は恭介の前方にいるパワーが原因だった。


 2位のパワーは3位のニンフが後ろに気を取られているのを知り、岩球を錫杖で殴って加速させてニンフにぶつけたようだ。


 そんなパワーも途中で行動不能になっていたパワーとの戦闘により、パッと見てわかるぐらいには損傷があった。


 恭介には岩球をぶつけようとしても無駄だと悟ったのか、パワーは逃げることに専念する。


 (それで良い。くだらない小細工をするより走りに専念しろ)


 パワーを追う恭介はそれでこそレースだと頷いた。


 それでも、機体のスペックの問題や損傷の有無という違いからドラキオンとパワーは下り坂に入ってすぐに並んだ。


 スペックで敵わないパワーは、このままの状態がずっと続くと思っていないからドラキオンを錫杖で殴ろうとする。


「やれやれ、レースに集中しろよ」


 恭介は巧みな操縦で錫杖による攻撃を躱し、機体をパワーの前方に入れてドラキオンから発している風圧でパワーのバランスを崩させる。


 そこに後ろから転がって来た岩球がぶつかり、パワーは地面に落ちた。


 パワーが岩球にぶつかった時には既に距離が開いており、恭介はそのまま邪魔されずにゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 恭介は早々にレース会場から去り、黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 視界の端に見えるカウントダウンはスルーし、自動的にイフリートに乗り換えたところでコックピットのモニターに映し出されたスコアを確認し始める。



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レーススコア(ソロプレイ・ゴロゴロマウンテン)

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走行タイム:24分49秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×3枚

   資源カード(素材)100×3枚

   30万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×30

ぶっちぎりボーナス:聖銀ミスリル×60

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv8(up)

コメント:まだまだ武器を使わない…だと…?

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 (予備の聖銀ミスリルが出たか。儲け儲け♪)


 イフリートが万が一壊れたとしても、予備の聖銀ミスリルがあれば聖銀ミスリル製のままの状態で修理できる。


 今回のレースのボーナスで出て来なかったら、ショップチャンネルを覗いて購入しようかと考えていたため、節約できたことに恭介は機嫌を良くした。


 レーススコアの確認を終えた後、恭介は転移門ゲートをくぐって麗華の待つ格納庫に帰還した。


 麗華は帰って来た恭介を笑顔で出迎える。


「恭介さんおめでとう。今日も今日とてぶっちぎりだったね」


「ありがとう。麗華もこの後頑張れよ」


「うん。恭介さんに続いて1位で帰って来るね」


「おう。変に気負わずいつも通りにやれば、麗華なら大丈夫だ」


 恭介は麗華を見送った後、待機室パイロットルームに移動した。

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