第35話 足なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです

 タワーの7階層は両脇に水路がある洞窟だった。


「予想はしてたけど、火属性は相性の悪そうな階層だ。麗華、頼りにしてるぞ」


『まっかせなさい!』


 ゴーレムをプリンシパリティに変更したことで、麗華は自信に満ちた声で恭介に応じた。


 早速、恭介達の探索を邪魔するべく槍を持った青い半魚人と呼ぶべきモンスターが群れで現れた。


「サファギンが6体。多いな」


無問題モーマンタイ!』


 麗華は双犬銃オルトロスガンの試し撃ちだと言わんばかりに2回弾丸を放ち、6体のサファギンを倒してみせた。


木目鋼ダマスカス製の武器はやっぱり強いな」


『武器のランクだけは恭介さんに追いついたからね。ガンガン行くよ』


「頼もしい限りだ」


 恭介は7階層がサファギンしか出なければ、麗華だけでもこの階層を突破できるのではと思った。


 サファギン達はその後、幾度も恭介達の探索を邪魔するべく徒党を組んで現れた。


 その度に麗華が倒していくのだが、11回目の戦闘でサファギン以外のモンスターが一緒に現れる。


 それは粘り気のある泡を全身に纏った蛙型モンスターだった。


「バブルフロッグのお出ましだ。ここからは俺も戦うぞ」


『了解』


 恭介が戦うと言ったのは、バブルフロッグが麗華の武器と相性が良いとは言えないからだ。


 バブルフロッグの泡は弾丸に当たっても、それをぬるりと受け流せるのである。


 シミュレーターで予習し、バブルフロッグを倒すには面の広い物で殴るのが良いという結論が出たから、恭介は蛇腹剣で手前のサファギンを拘束すると、それをバブルフロッグに叩きつけた。


「ゲゴッ!?」


 流石にサファギンの体を受け流すことはできず、バブルフロッグは即席サファギンハンマーの餌食になって倒れた。


 そのハンマーはバブルフロッグを倒す時に刃が体に思い切り食い込んでしまい、一度使っただけでサファギンも倒れてしまうので、別のバブルフロッグを倒すにはサファギンを改めて捕まえなくてはいけない。


 麗華は恭介がバブルフロッグを倒すまでの間、いつでも銃撃可能な状態で待機している。


 うっかりサファギンを倒して数を減らしてしまい、サファギンハンマーが使えなくなると困るから、恭介がバブルフロッグを倒し終えるまで我慢するしかあるまい。


 5体目のバブルフロッグを倒して攻撃しても良い状態になったら、既にサファギンは2体しか残っていなかった。


 一撃で2体を倒した麗華は頬を膨らませる。


『むぅ、物足りない』


「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」


『わかってるんだけどねー。7階層ではずっと私のターンってやってみたかったんだよ』


「まあまあ」


 麗華の気持ちはわからなくもないが、恭介は効率的なタワー探索のために彼女を落ち着かせた。


 一度バブルフロッグが出現してしまうと、この後はなかなかバブルフロッグの出ない戦闘がなかった。


 どの戦闘でもサファギンの方が多く現れるから、麗華が攻撃せずに戦闘が終わらずに済んだのは幸いである。


 しばらく進んだところで恭介が止まった。


「ちょっと待った」


『もしかして、見つけた?』


「かもしれない」


 恭介は前方の天井に出っ張った岩を見つけ、それに向かって蛇腹剣をぶつけてみた。


 見た目に反してその岩は岩ではなかったらしく、パンという音を出して弾けた。


 その直後に弾けた岩らしき物の真下の地面が水路を潰すように広がり、下から案山子がせり上がって来た。


「麗華、この案山子は俺に任せてもらって良いか?」


『うん』


 GBOにおいて、タワー内に現れる案山子はサンドバッグ的な役割がある。


 顔に表示されたアイコンと同じ攻撃を当てれば、宝箱が出現するギミックなのだ。


 しかも、その攻撃の威力や速度の基準を満たせば満たす程、レアなアイテムが出る。


 今回、案山子の顔には斬撃×1のアイコンが表示されており、1回の斬撃の威力と速度で出現する宝箱の価値が変わる。


 案山子の顔が銃撃のアイコンなら麗華の出番だけれど、斬撃ならば恭介の出番だろう。


 恭介は深呼吸して調子を整えてから、鋭く素早いイメージで蛇腹剣を横に薙いで案山子を真っ二つにした。


 スパッと音が響いて案山子が真っ二つになった直後、その残骸が光に包まれて消え、代わりに宝箱が現れた。


 宝箱の蓋を開けて中身を確認してみると、10万ゴールドと設計図がケット・シーのコックピットのサイドポケットに転送されて来た。


「10万ゴールドはありがたくいただこう。さて、どんな設計図が出たかな…」


『恭介さん、どんなゴーレムの設計図が出た? 勿体ぶらずに教えてよ』


 宝箱の中身のレアリティは一緒に手に入る金額が目安になる。


 最低1万ゴールドから始まり、中間が5万ゴールドで最高で10万ゴールドだ。


 つまり、7階層で手に入る宝箱としては最高位の物が手に入った訳だから、麗華がどんな設計図を手に入れたのか早く知りたくなるのも当然である。


「すごいぞ、イフリートだ!」


『良いな~。1桁の階層でイフリートなんてツイてるじゃん!』


 イフリートは火属性限定ゴーレムであり、額から2本の角を生やした魔人型ゴーレムだ。


 下半身はスラスターと車輪を自由に入れ替えるので脚はないが、機動力が高くて空も飛べるからケット・シーより行動範囲は広がる。


 更に言えば、火を吸収する機構があるから上手く使えば魔石の節約して出力も上げられる。


 デフォルトの武器は魔法のランプを模った先端のメイスであり、攻撃がクリティカルヒットすると殴った箇所が爆発する。


 (メイスよりも蛇腹剣の方が気に入ってるから武器はそのままだな)


 恭介はイフリートのメイスが嫌いな訳ではないけれど、武器をデフォルトから変えても火力が変わらないならば、蛇腹剣の方がロマンを感じるのでそのまま使うつもりらしい。


 そこにフォルフォルがキリッとした表情をしてモニターに現れる。


『足なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです』


「別に気に入らんとは言ってないだろうが」


『えぇ…』


 期待する返事ではなかったから、フォルフォルはしょんぼりした。


 それでも恭介は気にすることなく、麗華と共に探索を再開する。


 道中の戦闘はバブルフロッグがいるかいないかでパターンを変えて行い、恭介達は遂に昇降機を見つけた。


 ただし、その前には通常個体よりも一回り大きな武人の風格を放つサファギンがいた。


「サファギンモンクだ」


『恭介さん、ここは私がやっても良いよね?』


「勿論だ。存分に暴れてくれ」


『やった! ちょっと戦って来るね!』


 麗華はここが私の舞台だと言わんばかりにテンションを上げ、サファギンモンクと距離を詰める。


 サファギンモンクは武器を持たず、攻撃手段は徒手空拳のみだ。


 動きはサファギンよりも素早く、遠距離から狙っても避けられてしまうので、麗華はサファギンモンクに接近して一撃で仕留めるつもりらしい。


 プリンシパリティの速さならば十分にサファギンモンクを捉えられえるから、その戦法に間違いはないだろう。


 麗華は当てる自信を持てたタイミングで勝負に出る。


『ギフト発動』


 1万ゴールドを支払い、連結させた双犬銃オルトロスガンによる強烈な一撃がサファギンモンクの体に風穴を開ける。


「どう見てもオーバーキルだわ」


 恭介の声は麗華を咎めるものではなかった。


 何故なら、金力変換マネーイズパワーのレベル上げには支払うゴールドの額も影響するとわかっているからだ。


 恭介は麗華を労い、それから2人は昇降機で8階層に移動してから魔法陣でタワーを脱出した。


 コックピットのモニター画面にタワー探索スコアが表示され、恭介はそれに目を通し始める。



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タワー探索スコア(マルチプレイ)

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踏破階層:7階層

モンスター討伐数:28体

協調性:◎

宝箱発見:○

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総合評価:S

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報酬:アイアン25個

   3万5千ゴールド

   資源カード(食料)5×1

   資源カード(素材)5×1

宝箱発見ボーナス:アップデート無料チケット(私室)

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv6(stay)

コメント:イフリートまで手に入れちゃうとはね…

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 (私室のアップデート無料チケットか。まぁ、貰えるなら貰おうか)


 どうせなら待機室パイロットルームや格納庫、食堂といった共有施設のチケットが欲しかったけれど、節約できるのは間違いないので恭介はありがたく貰うことにした。


 スコアの確認を済ませて恭介達は格納庫に帰還した。


 ケット・シーをイフリートに変更してからコックピットを降りて振り返れば、イフリートの見た目は実にロボットらしくて恭介は笑顔になっていた。


 麗華もプリンシパリティの調整を終え、イフリートを見上げる恭介と合流した。


「お待たせ。まだ夕食まで時間があるし、それまで自由行動で良い?」


「そうだな。俺は早速シミュレーターで試運転する」


「楽しそうで何よりだよ」


 恭介は私室をさっさとアップデートさせて中に入ってから、麗華に呼ばれるまでシミュレーターでイフリートを乗り回したのは言うまでもない。

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