第33話 つまんないよ。滅びに向かうのがわかってても何もしない人間達を見てるのはね

 魔法陣に乗って6階層に移動すると、恭介達は一昨日来た時と内装が変わっていることに気づいた。


「一昨日と雰囲気が変わってないか?」


『確かにそうかも。なんか岩壁が赤茶けてる気がする』


 シミュレーターで体験できるのは、あくまでレースとこの先の階層で戦うだろうモンスターとのバトルだけだ。


 次に挑む階層を先行体験できる訳ではないので、タワーの内装の変化まで恭介も麗華も把握できないようになっている。


 その時、フォルフォルは2人のコックピットのモニターに現れた。


『前回来た時は6階層が非稼働状態だったと思ってよ。第1回代理戦争が終わったから、今日の6階層は稼働してるのさ。省エネだよ、省エネ』


「デスゲームの運営も省エネとか考えるんだな」


『意外ね。そんなこと考えるようなキャラじゃないと思ってたのに』


 フォルフォルは自分が面白ければそれで良いと考えるようなエゴイストだと思っていたから、環境のことを考えている省エネ発言に恭介も麗華も耳を疑った。


『何言ってるのさ。私はちゃんと環境に配慮できるんだよ。そうじゃなきゃ、地球の営みを考えてデスゲームなんて開かないもの』


「何をどう考えると環境に配慮してデスゲームを開くなんて発想になるんだ?」


『地球の営みがつまんなくてデスゲームを開催したとか言ってたじゃん』


『つまんないよ。滅びに向かうのがわかってても何もしない人間達を見てるのはね』


 フォルフォルの声が急激に冷たくなった。


 その冷たさは筧首相を前にした恭介よりも冷えていると言って良い。


「その手の話は専門家とやってくれ。俺達はあくまで拉致られただけで、そんな話をされても大した知識は持ち合わせてないんだから」


『それもそうだね。じゃあ、6階層の探索頑張って』


 それだけ言って声の調子が戻ったフォルフォルは画面から消えた。


「麗華、気持ちを切り替えて行くぞ」


『うん。頑張ろうね』


「ああ」


 恭介と麗華は気を引き締めて6階層の探索を始める。


 赤茶けた岩からは所々で蒸気のようなものが噴き出していた。


「この蒸気、体に害があったりしてな」


『あり得るね。でも、それだと6階層に生存してるモンスターって呼吸できなくて死んでるんじゃない?』


「おっと、噂をすればレッドキャップの団体さんだ。左は俺がやる」


『右は私ね。了解』


 レッドキャップとは名前の通り赤い帽子を被っており、帽子の下は手斧を持ったゴブリンだ。


 ゴブリンとの違いは火属性のモンスターであることと、手斧による攻撃が火属性であることだろう。


 恭介は蛇腹剣を操り、器用に左半分のレッドキャップ達の首を刎ねていく。


「他国のパイロットに比べたら亀みたいな動きだ」


『動きが鈍いのは間違いないけど、相性が悪いとダメージが軽減されちゃうなぁ』


「とか言いつつヘッドショットを決めてるのは流石だよ」


『そう? それならドヤっておこうかな』


 麗華は体を狙うとダメージが軽減されて弾の消費が増えると判断し、貫通すれば間違いなく倒せると考えたヘッドショットで受け持った分のレッドキャップ達を仕留めていた。


 それは恭介には簡単に真似できるものではなかったから、麗華を鼓舞するためにも口に出して褒めた。


 恭介に褒められて気分が良くなったらしく、麗華はドヤれる内にドヤっておいた。


 ドロップアイテムがコックピットのサイドポケットに転送され、恭介は魔石が赤い物だけであることを確認した。


 (火属性のゴーレムを動かす魔石はここで確保しとけってことか)


 シミュレーターで調べた限りでは、6階層に出て来るモンスターはいずれも火属性のモンスターだけだ。


 それはつまり、7階層から先で火属性のモンスターが一切出ない階層もあることを示している。


 だからこそ、6階層で狩れるだけ火属性のモンスターを狩らなければ、火属性のゴーレムを操縦するのに支障が出るのだろうと判断した。


 もっとも、一般的にはという言葉が付くのだが。


 何故なら、恭介達は待機室パイロットルームのショップチャンネルで四属性の魔石を購入できるし、レースでも魔石を手に入れている。


 そちらで手に入れた魔石があれば、6階層で赤い魔石の確保を適当にやっても全然支障は出ないだろう。


 恭介達はサクサクと探索を進め、正々堂々と現れるレッドキャップも奇襲を仕掛けるレッドキャップも等しく倒していった。


 10回近く戦闘をした後、麗華が前方にレッドキャップ以外のモンスターを見つける。


『恭介さん、前方にマグスラグの集団を発見!』


「了解。悪いんだけど、マグスラグは任せて良い?」


『任せて。ここから先は私の見せ場だよ』


 そう言って麗華は2丁の銃でマグスラグをどんどん撃っていく。


 マグスラグはマグマに見える可燃性のゲルで構成された蛞蝓型モンスターであり、一定以上のダメージを与えると爆散する。


 水属性の攻撃ならば爆散はしないで冷え固まるだけなのだが、恭介も麗華も操縦するのは水属性のゴーレムではないから、冷え固めて倒す戦法は使えない。


 恭介が麗華に攻撃を任せたのはその爆散が理由である。


 蛇腹剣で攻撃した際に爆発されれば、当然だが蛇腹剣の耐久度が削られてしまう。


 それなら、属性的な相性はあっても遠距離攻撃で耐久度の削られない麗華に任せるべきという判断だ。


 麗華は恭介に頼られたことが嬉しかったらしく、属性的に不利でもお構いなしにマグスラグにヘッドショットを決めていく。


 的確に1体ずつ倒していくその腕前は職人技と称しても過言ではない。


 マグスラグを殲滅したところで麗華の満足した声が聞こえて来る。


『ふぅ、スッキリしました』


「お疲れ様。見てて気持ち良いぐらいのヘッドショットだったね」


『そのまま恭介君のハートも狙い撃ちできたら申し分ないね』


『フォルフォル煩い』


『あぁぁぁいとぅいまてぇぇぇん!』


 (うわっ、これはウザい)


 直接揶揄われていない恭介ですらウザく感じるのだから、揶揄われた麗華がそう感じないはずがない。


『だ ま れ』


『あっはい』


 麗華の声に込められた怒りは通信越しでもよくわかるものだったから、恭介は何も聞かなかったことにしようと心に決めた。


 フォルフォルのせいで恭介達の周囲だけ冷え切ってしまったが、そんな空気を読まずにレッドキャップとマグスラグの混成集団が通路の奥からやって来た。


 (よく来てくれた! お前達を有効に使わせてもらおう!)


 恭介はこの場の空気を無理矢理戦闘に戻すため、蛇腹剣でレッドキャップだけ上半身と下半身を真っ二つにした。


 その衝撃で1体のマグスラグにレッドキャップの手斧がぶつかり、それが原因で爆発が起きた。


 1体のマグスラグの爆発は近くにいたマグスラグ達を次々に爆発させていき、気空けば通路が爆炎で覆われてしまった。


 (やべっ、やり過ぎたか)


 予想以上に派手な爆炎を見て、恭介はやり過ぎてしまったことを悟った。


 ところが、幸運なことに爆炎が収まった時にできていた横穴の先には昇降機があった。


『おぉ、恭介さん相変わらずリアルラック高いね』


「まったくもって偶然だけどな」


 戦利品の回収は既に終わっていたため、恭介達はその横穴を通って昇降機に向かって進む。


 そして、昇降機の前には恭介と麗華を先に行かせまいと体の一回り大きなレッドキャップがいた。


「レッドキャップジェネラルか。こいつは俺がやる」


『お任せするね』


 レッドキャップ程度なら属性的相性を無視できるだろうが、その上位個体であるレッドキャップジェネラルではヘッドショットが決まるか怪しい。


 それならば恭介にこの場を任せようと麗華は判断した。


「ゲヒャッハァ!」


「下駄もないのに跳んでどうするよ」


 戦斧バトルアックスは手斧よりも重く、翼がないから跳躍時間も大してないのだから、はっきり言ってレッドキャップジェネラルが跳びかかる意味はない。


 隙だらけな昇降機の守護者に対し、恭介は素早く蛇腹剣を振り抜いた。


 木目鋼ダマスカス製の蛇腹剣ならば、レッドキャップジェネラルの体もサクッと真っ二つにしてしまい、戦闘は1分もかからずに終わってしまった。


 わざわざ跳びかからなければもう少し戦えていたのに、レッドキャップジェネラルは愚かな選択をしてしまったとしか言いようがない。


 戦利品がコックピットのサイドポケットに転送されたのを確認すると、恭介は麗華に声をかける。


「戦闘終了。丁度良いからランチにしようぜ」


『賛成。実はお腹空いてたんだよね』


 麗華も昼食を取るのに賛成したので、恭介達は昇降機で7階層に移動してから魔法陣で脱出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る