第27話 何処へ行こうというのかね

 マトリョーシカを倒し、その後に襲って来たアポピスも返り討ちにした恭介は溜息をついていた。


 「完全に目を付けられてやがる」


 代理戦争が始まるまでの進捗率で1位だっただけでなく、レース部門でも優勝したことで恭介は完全に悪目立ちしている。


 バトル部門がレース部門の後に休憩を挟まず行われるということは、レース部門に参加したパイロットは疲れているから狙い目だと言っているようなものだ。


 実際のところ、恭介はザントマンを傷つけることなくレースを終えており、他のレースに参加したパイロットと比べて余裕がある。


 だからこそ、マトリョーシカやアポピスに襲われても慌てずに対処できたと言えよう。


 恭介が現在保有するポイントは63ポイントで、これにはマトリョーシカとアポピスが集めたポイントも加算されている。


 少し頭が働くパイロットがいれば、序盤はモンスターを狩ってポイントを溜め、中盤から後半にかけて他国のパイロットを倒してポイントを強奪する戦略を取るだろう。


 そう考えていたのだが、現実は違って割と序盤から恭介は狙われていた。


「更科のことを考えれば合流しておきたいけど、邪魔者がこうして現れるんだよなぁ」


 恭介がやれやれと言わんばかりに見つめる先には、大剣を持った青いキュクロがいた。


 D国のカイゼルが操縦するキュクロである。


 一般回線で話しかけてくることもなく、カイゼルは恭介に接近して大剣を振り下ろそうとする。


 だがちょっと待ってほしい。


 ザントマンの効果を忘れていないだろうか。


 敵が接近すれば必ずデバフを受けるから、カイゼルの振り下ろしも速度が鈍る。


 速度が遅い振り下ろしならば、恭介は冷静にボムスター零式を当てて弾ける。


 大剣の腹をボムスター零式でぶん殴れば、その効果で大剣が爆発してカイゼルの武器が壊れる。


 武器を壊されたカイゼルは勝ち目がないと悟ったのか、攻めの姿勢から一転して全速力で逃げ始める。


「何処へ行こうというのかね」


 恭介は接近して射程圏内に入ったら、ボムスター零式で逃げるキュクロの背中に攻撃した。


 殴った感触からカイゼルのキュクロはアイアン製だろうことがわかった。


 水属性の機体でも、ゴーレムを構成する鉱物マテリアルで負けていればダメージは軽減されにくくなる。


 それに加えてボムスター零式の効果で爆発すれば、コックピットが爆発してカイゼルはデスゲームから退場することになった。


『ピンポンパンポーン。速報だよ。たった今、D国のカイゼルが日本のトゥモローに仕掛けて返り討ちにされたよ。カイゼルの物的財産はトゥモローに引き継がれた。やったね!』


 フォルフォルのアナウンスが聞こえた直後、コックピットのモニターの保有ポイントが89ポイントに変わった。


 それだけでなく、カイゼルがこれまでに手に入れた物的財産がサイドポケットに転送されて来た。


 入りきらない物は目録だけだが、今はそれを確認している場合ではない。


 これで退場させたのは3人だ。


 GBOの代理戦争ならばなんてことない話だが、今やっているのは現実に持ち込まれたデスゲームだ。


 自ら進んでやった訳ではないけれど、3人も殺してしまったことは恭介にとって不快でしかない。


「まったく胸糞悪いことをさせるぜ畜生」


『ピンポンパンポーン。速報DEATH。たった今、IN国のスパイスがE国のマーリンに仕掛けて返り討ちにされちゃった。スパイスの物的財産はマーリンに引き継がれたよ。やったね!』


 先程、E国のフィッシュ&チップスがIN国のカーリーにやられたとアナウンスがあったが、今度はIN国のスパイスがE国のマーリンにやられた。


 E国的には殺されたから殺し返したということなのだろうが、間違いなく自分達が恐ろしい戦争に呑まれ始めていると恭介は感じた。


 こうやって戦争はずるずると続くのかと思うと、どんどん憂鬱な気分になっていく。


 そうだとしても、まずはこのポイント争奪戦を生き延びねばなるまい。


 嘆くにせよ、怒るにせよ、生き残らなければそんな感情は抱くこともできないのだから。


 残り時間は40分を切っており、自分を狙う赤三角アイコンの動きがモニターに表示された。


「ここは逃げながらモンスターを狩るかね」


 恭介はデスゲームだからと言って、他国のパイロットを自ら殺して回りたいとは思っていない。


 とりあえず、恭介は自分に向かって集まって来る赤三角アイコンから逃げるべく動き始めた。


 ザントマンを木目鋼ダマスカス製に変更しておいたおかげで、スペックの差から追いつかれることはなかったが、それでも恭介を追いかける赤三角アイコンの数はどんどん増えていく。


「残り10分!」


 恭介は廃墟街の中でも比較的に高い廃墟が多い所にやって来て、目の前のビルの中に入ってガンガン柱を破壊する。


 狙っている柱はボムスター零式のおかげで破壊され、恭介がその廃墟から脱出したところでそれが横に倒れていく。


 恭介の狙いは廃墟のドミノ倒しである。


 他国のパイロットが操縦するゴーレムの中で、空を飛べるゴーレムは1機か2機あったぐらいだ。


 それゆえ、建物をドミノ倒しにして道を封鎖してやろうという魂胆だ。


「ん? ポイントが増えた。廃墟に隠れてたモンスターがいたのか」


 恭介のコックピットのモニターに映る保有ポイントは、先程まで89だったのに101まで上昇していた。


 廃墟のドミノ倒しが成功したことにより、恭介を追いかける他国のパイロット達は時間を無駄にしたことに気づいたらしい。


 モニター上の赤三角アイコンが恭介を追わなくなり、その代わりに恭介を追っていた者同士の戦いに変わった。


 敵の反応が自分から遠ざかれば、恭介は最低限の警戒をしつつ逃げるのを止めた。


 恭介の動きが止まったからこそ、ようやく麗華のエンジェルが恭介と合流できた。


『明日葉さん、なかなか合流できなくてごめんね』


「仕方ないさ。俺はずっと狙われてたからな。更科は大丈夫だったか? 見た感じでは負傷してなさそうだけど」


『大丈夫。BR国のアマゾネスに狙われたり、D国の2人に挟み撃ちされたりしたけどなんとかなったわ。D国の方は明日葉さんがカイゼルを倒してくれたおかげで逃げられたの』


「挟み撃ち? ということはギフトか?」


 カイゼルが自分と戦っているならば、麗華をベルリナー・ヴァイセと共に挟み撃ちするなんて普通はできない。


 それができたということは、カイゼルが分身体を創れるギフト持ちだったと予想できる。


『多分そうだと思う。厄介なのはカイゼルの分身がいきなり現れたところからな。モニターにアイコンとして表示されないって酷くない?』


「何それ酷い。ポイント争奪戦で暗殺者になれるじゃん」


『明日葉さんがカイゼルの本体を倒してくれなかったら、カイゼルのギフトが解除されなくてやられてたかもしれないわ』


「そうか。じゃあ、知らぬ間に俺は更科のことを助けてたんだな」


『命の恩人、感謝永遠に』


 (ん? 最後のは更科の声じゃなかったぞ?)


 まさかと思ってモニターを見れば、ニヤニヤしたフォルフォルが映り込んでいた。


「フォルフォル、どさくさに紛れてネタをぶち込むな」


『良いじゃん良いじゃん。暇を持て余した私の遊びに付き合っておくれよ』


 ジト目を向ける恭介に対し、フォルフォルは悪びれもせずに応じる。


『私の感謝をネタにしないでほしいのだけれど』


『そうだよね。折角の吊り橋効果が台無しになっちゃうもんね』


「『違うから』」


 恭介と麗華の反応がシンクロした。


 なんでもかんでもすぐに恋愛に繋げようとするフォルフォルに2人が物申していると、ずっと同じ場所に待機しているのを見てインプが隙だらけだと思ってやって来た。


 現れて早々に紫の魔法陣を出現させ、そこからモンスターの混成集団が現れる。


「ポイントゲットの協力に感謝する」


『丁度ムシャクシャしてたところなの。憂さ晴らしに付き合ってね』


 それから恭介達はモンスター退治に勤しんだ。


 今となってはタワー1階層~5階層のモンスターに後れを取るはずがなく、恭介も麗華もサクサクと倒していった。


 モンスターの掃討が終わったところで、フォルフォルがそれぞれのコックピットのモニターに現れた。


『しゅぅぅぅりょぉぉぉ! スコア発表をはぁじめるよぉぉぉぉぉ!』


 フォルフォルがポイント争奪戦終了を宣言すると、恭介達の足元に魔法陣が現れてイベントエリアに転送された。

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