第26話 こんにちは、死ね
転移された麗華が初めて見たものは廃墟街だった。
すぐにフォルフォルが開始の合図を出す。
『ポイント争奪戦、始め!』
フォルフォルの宣言と同時にモニターには残り時間と保有ポイント、マップ、複数のアイコンが表示されるようになった。
「白三角アイコンが私ね。黒丸アイコンが大量に少し離れた所にいるわね。モンスターかしら」
モニターに表示されたアイコンの意味を察し、黒丸アイコンが溜まっている方向を見てみればそこには穴が広がっていた。
穴の中には色とりどりのスライムがおり、これらを倒せばそこそこポイントが稼げそうである。
「狩り放題ね」
麗華は2丁の銃を巧みに操り、コストパフォーマンスを意識した射撃を始める。
スライムの数がどんどん減っていき、殲滅し終えた時には麗華の保有ポイントが30まで上昇していた。
その時、コックピット内にフォルフォルの声が届いた。
『ピンポンパンポーン。速報が入ったから伝えるね。たった今、R国のマトリョーシカが日本のトゥモローの襲撃に失敗して返り討ちに遭ったよ。マトリョーシカの物的財産はトゥモローに引き継がれた。やったね!』
相変わらずフォルフォルは他者をイラつかせる天才だと思う反面、麗華は恭介が無事だったことにホッとした。
できることなら恭介に殺人を犯してほしくなかったけれど、殺られる前に殺れという方針は昨日2人で話し合って決めたものだ。
人を殺さずに制圧するには明確な実力差がなければ厳しい。
無理に不殺を貫こうとすれば、その縛りのせいで自分が痛い目に遭わないとも限らない。
だったら、積極的までとは言わずとも襲われたら仕留めるぐらいの心構えでいるべきなのだ。
それが麗華と恭介に共通する考え方である。
フォルフォルのアナウンスを聞いてすぐ、麗華は恭介と合流しようと判断した。
恭介を倒した者には彼がレース部門で貯め込んだ物が渡るから、それを目当てに襲撃する者がもっといてもおかしくない。
だからこそ、自分が護衛になれば恭介の負担が減るし、敵国のパイロットを倒して一石二鳥という考えに繋がり、麗華はエンジェルを操作して恭介を探し始めた。
道中でゴブリンを見つけて倒したが、今度は3体だったので保有ポイントが36ポイントになった。
麗華が探索範囲を広げていると、モニターに赤三角のアイコンが映し出された。
他国の誰かが麗華にどんどん迫っているのは間違いない。
「もしかして、明日葉さんと私って間違われてたりする?」
他国のパイロットからすれば、日本のパイロットを潰しておけばこの先安泰とでも考えていたせいで、麗華にもとばっちりが来たようだ。
麗華のエンジェルに接近して来たのは、先程のレース部門には参加していなかった黄色いライカンスロープだった。
それはつまり、バトルが得意な他国の代表が麗華も恭介も関係なく襲い掛かって来ることを意味する。
『こんにちは、死ね』
「待って。これが翻訳? 酷い翻訳もあったものね」
フォルフォルからの案内で、他国の人の喋っている内容でも日本語に変換されることがわかった。
今回の翻訳内容はあまりにも酷かったから、麗華がぼやくのも無理もない。
一般回線を繋ぎっぱなしのまま、ライカンスロープの中にいるパイロットが名乗り出す。
『BR国のアマゾネスよ。ジャンクコレクターの仇を討たせてもらうわ』
「いや、私はトゥモローじゃないから。しかも、あれはジャンクコレクターの自滅だからね?」
『言い訳は聞かん! 覚悟!』
「ちょっと! 人の話をちゃんと聞きなさいよ!」
麗華はアマゾネスの一方的な宣言に対してツッコまない訳にはいかなかった。
イベントエリアに残っていたパイロット達は、レースの始まりから終わりまで全て見ていた。
それをちゃんと見ていたならば、恭介がジャンクコレクターを殺したとは言えないはずであり、そもそも自分は恭介ではないのだから麗華がツッコむのは当然だろう。
いざ勝負とアマゾネスが迫る中、空気を読まずにコックピット内にフォルフォルの声が届く。
『ピンポンパンポーン。速報だよ。たった今、A国のキングレーサーとC国の青椒肉絲が相打ちになったよ。両者の物的財産は没収しちゃった。残念!』
先程のレースで中破した者同士が遭遇して戦った結果、両者一歩も譲らず相打ちになったらしい。
これで三大国と呼ばれているA国とC国、R国はこの先ずっとソロプレイを強いられる訳だ。
『大国が弱るのは良いことだ。そうでなくては我等に勝ち目がないからな』
「だったら弱った大国でも狙いに行きなさいよ」
『狙いに行くさ。お前を倒した後でな!』
アマゾネスはライカンスロープを四足歩行で操縦し、麗華のエンジェルを討たんと接近する。
麗華はエンジェルの翼を広げて空へと逃げる。
『逃がさぬ!』
アマゾネスは麗華に執着し、廃墟を足場にジャンプを繰り返して上空に逃げる麗華を追いかけた。
それでも、自由に空を飛べるエンジェルとの距離は縮まらないから、麗華は今の内にとその場から逃げ出した。
勝手に繋げられた一般回線も切り、アマゾネスの反応がモニターに映らない所まで逃げてから、モンスターを倒しつつ恭介との合流を目指し始める。
「コボルド見っけ」
2体のコボルドを見つけ、麗華はきっちり倒して6ポイントを回収して保有ポイントが42ポイントになった。
麗華がモニターで恭介とモンスターを探していると、またしてもフォルフォルのアナウンスが聞こえて来る。
『ピンポンパンポーン。速報なんだよ。たった今、EG国のアポピスが日本のトゥモローの襲撃に失敗して返り討ちに遭ったよ。アポピスの物的財産はトゥモローに引き継がれた。やったね!』
「明日葉さんがレース参加者に狙われてる。倒せば一攫千金とか思われてるんだろうなぁ」
恭介が眉間に皺を寄せながら敵を返り討ちにしているところを想像し、麗華は恭介との合流を急がねばと移動速度を上げる。
移動中に更なるアナウンスが届く。
『ピンポンパンポーン。またまた速報だね。たった今、F国のボン・ジュールがE国のフィッシュ&チップスの襲撃に失敗して返り討ちに遭ったよ。そこをIN国のカーリーが漁夫の利作戦で仕留めたね。ボンジュールとフィッシュ&チップスの物的財産はカーリーに引き継がれたんだ。やったね!』
「今のアナウンスでレースの4位以下は全滅か。うっ、また誰かこっちに来た」
レース部門で疲れているパイロットを狙うのは定石だろうが、なんで自分まで狙われるんだと思えばデスゲームの進捗率が高い日本だからだと理解して麗華は溜息をつく。
BR国のアマゾネスとは異なり、一般回線を繋いで話しかけたりせずに攻撃して来たのは緑色のスナイパー、つまりはD国のベルリナー・ヴァイセである。
「絶対に負けられない戦いがそこにはある」
麗華が操縦するエンジェルも風属性の遠距離攻撃がメインだから、同じような戦い方をするベルリナー・ヴァイセとの戦いで逃げる訳にはいかない。
スイーパーは空を飛べないので地上からしか攻撃できないが、エンジェルには翼があるので空から攻撃ができる。
ベルリナー・ヴァイセの攻撃に対し、レイかはきっちりと躱してから反撃する。
お互いに距離が離れていては徒に魔石の消費が進む一方だから、徐々に両者の距離は近づいていく。
「一撃の威力はあっちの方が上か」
エンジェルはスピードで攪乱して2丁の銃で敵を倒すゴーレムだが、スイーパーは風を圧縮した弾を掃除機に似たライフルから撃つ威力重視のゴーレムだ。
銃だけの威力で比べれば、スイーパーの方が上なのは事実である。
「あっちの土俵に乗らなきゃ良い話よ」
麗華は威力で勝負せず、持ち前のスピードでベルリナー・ヴァイセを翻弄する。
弾切れを狙うのは難しいが、撃った銃弾が外れ続けるのはストレスが溜まる。
ストレスによるミスを誘発し、その隙で敵を仕留めるのが麗華の作戦だ。
しばらくするとベルリナー・ヴァイセが苛立ちを見せ、狙いが雑になって来た。
今がチャンスだと勝負に出た時、麗華は側面から急に現れて接近する新しい反応を見つけ、銃弾を2発放ってから全速力で離脱した。
「何処から現れたのよ、カイゼル」
大剣を握る青色のキュクロを見て、麗華は苦虫を嚙み潰したような表情になった。
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