第25話 ヒャッハー! 汚物は消毒だぁぁぁぁぁ!
恭介がイベントエリアに戻って来ると、そこは麗華のエンジェルの隣だった。
『明日葉さん、お疲れ様。ザントマンでも普通に勝っちゃったね』
「ただいま。案外なんとかなるもんだ」
『山頂から地上に跳び下りた人の感想とは思えないね』
「確かにあれはびっくりした」
『びっくりしたで済むことじゃないでしょ。私、エンジェルで挑めたとしても怖いよ』
ザントマンと違ってエンジェルなら翼があるから、仮に麗華が先程のレースに参加していたとすれば、落下速度は恭介が体感した物よりも抑えられていたに違いない。
恭介が戻って来た後、ゴールした順番に各国のゴーレムがイベントエリアに戻って来た。
帰還可能なゴーレム全てが帰還したことを確認し、ホログラムのフォルフォルが喋り始める。
『いやぁ、見てて楽しいレースだったね。全体向けの結果を発表するよ』
フォルフォルがそう言った直後、恭介達がいるコックピットのモニターに個人向けレーススコアとは別の画面が表示される。
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レーススコア(第1回代理戦争・フォールマウンテン)
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1位:トゥモロー(日本/ザントマン/22分43秒)
2位:スパイス(IN国/モノティガー/28分57秒)
3位:ベルリナー・ヴァイセ(D国/スナイパー/31分16秒)
4位:マトリョーシカ(R国/ニトロキャリッジ/31分19秒)
5位:アポピス(EG国/ベーススナイパー/31分24秒/小破)
6位:キングレーサー(A国/ライカンスロープ/34分5秒/中破)
7位:フィッシュ&チップス(E国/ジャック・オ・ランタン/34分8秒/中破)
8位:青椒肉絲(C国/マッドクラウン/34分10秒/中破)
9位:ボン・ジュール(F国/ブリキドール/34分13秒/中破)
10位:ジャンクコレクター(BR国/キュクロ/記録なし/死亡)
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備考:ジャンクコレクターは討ち取られてないから物的財産は没収済
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(ジャンクコレクターはあのまま死んだのか)
頂上からの飛び降りに失敗したため、ジャンクコレクターの乗っていたキュクロは地面と全身で衝突して大破した。
その際にかかる重力でぺちゃんこになり、ジャンクコレクターは死んでしまった。
いきなりパートナーを失ったBR国のアマゾネスは、これから始まるバトル部門で数的不利な状況に陥ってしまった。
それ以外でも、5位から9位のパイロットはゴーレムに損傷がある状態のままバトル部門に出場しなければならない。
イベントエリアでは魔石の補給を除いてゴーレムの調整ができないのだ。
そう考えると日本はかなり有利だと言えよう。
『はいはい、レース部門はここまで。次は待機組も出番のバトル部門だよ!』
フォルフォルは参加者達に悲しみに暮れさせる時間なんて与えない。
『今回のバトルのテーマもルーレットで決めるよ』
フォルフォルが指パッチンしたらルーレットが突然現れ、それが回り始めるとフォルフォルが歌い出す。
『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』
このネタはルーレットの時は必ずやるつもりらしい。
針が止まったのはポイント争奪戦のマスだった。
『テーマ決定! ポイント争奪戦だよ!』
ポイント争奪戦のルールがそれぞれのコックピットのモニターに映し出される。
・ポイントの割り振られたモンスターを倒してポイントを集める
・スタート位置はバラバラで国別にまとまることはない
・味方は同じで他国のパイロットは色違い、モンスターは色も形も違うアイコン
・ゴーレムのサイズはタワー探索時と同じ
・出現するモンスターはタワー1階層~5階層に出たもののみ
・モンスターのポイントは出現階層と同じ
・階層が高いモンスター程見つけにくい
・ポイントは敵国のパイロットを殺して奪い取れる
・制限時間は2時間あるが、1ヶ国でもパイロットが全滅したらその時点で終了
全てのパイロットが8つのルールを確認したところで、全ゴーレムの足元に魔法陣が現れる。
『いってらっしゃーい』
フォルフォルの声が聞こえた後、イベントエリアが光に包み込まれた。
光が収まって恭介が見たものは廃墟街と呼ぶべき場所だった。
戦争で一方的に蹂躙された後と呼ぶべき悲惨さがあり、生存する人間はゴーレムに乗るパイロットだけなのだろう。
『ポイント争奪戦、始め!』
フォルフォルの宣言と同時にモニターには残り時間と保有ポイント、マップ、複数のアイコンが表示されるようになった。
(白三角アイコンが俺か。黒丸アイコンがうじゃうじゃいるけどこれはモンスターっぽいな)
モニターに表示されたアイコンの意味を察し、黒丸アイコンが溜まっている方向を見てみればそこには廃墟があるだけだった。
モンスターの群れがその中に隠れ、自分を襲撃する隙を狙っていると判断したため、恭介はボムスター零式で廃墟を思いきり殴った。
ボムスター零式の追加効果で爆発が発生し、廃墟がその衝撃に耐え切れずガラガラと音を立てて崩れた。
廃墟の崩壊に連動するようにモニターに映っていた全ての黒丸アイコンが消え、それと同時にモニターの保有ポイントが0から20に変わった。
(黒丸の数は5つだったから、廃墟に隠れてたのはグレムリンの群れか)
20ポイントを5で割れば1体あたりでゲットしたのは4ポイントだとわかる。
倒せば4ポイント入るモンスターと言えば、タワーで4階層にいたグレムリンだから、姿は見えなかったけれど倒した5体はグレムリンだったのだろうと恭介は理解した訳だ。
開始早々に20ポイントゲットできたのは幸先が良いと言えるだろう。
その時、恭介はモニターに現れた赤三角アイコンがこちらに近づいて来ることに気づいた。
(赤三角アイコンは敵か。ってあんたかよマトリョーシカ)
恭介がザントマンを廃墟の陰に移動させ、敵の姿をこっそり確認したら先程レースで戦ったニトロキャリッジだった。
ニトロキャリッジはR国のマトリョーシカが操縦しており、あちらのモニターにも他国のパイロットが操るゴーレムが近くにいるとバレている。
マトリョーシカは仲間内で使う秘匿回線ではなく、一般回線を使って恭介に通信し始める。
『ヒャッハー! 汚物は消毒だぁぁぁぁぁ!』
「待て。なんで日本語で聞こえるんだ?」
勝手に繋げられた通信を切断して疑問を口にしながらも、恭介はマトリョーシカが放つ銃弾の影響がない場所へと逃げる。
その疑問を解消するべくフォルフォルがモニターに現れる。
『言い忘れてたけど、代理戦争の間は国家の垣根を超えて相手の言葉が母国語に翻訳された状態で聞こえるよ』
フォルフォルの言っていることが事実なら、デスゲームにおいて通訳や翻訳を生業にする者は商売になるまい。
もっとも、デスゲームにわざわざ参加してまで通訳や翻訳をしたいと思う酔狂な者はいないだろうが。
「そりゃ便利だな」
『なんだ。日の本言葉喋れないなら死ねよ。首置いてけぐらい言ってほしいね』
「フォルフォルは俺を野蛮人に仕立て上げたいのか?」
『恭介君にはもっとワイルドになってほしいな』
「ワイルドになる意味はないだろ。つーか戦闘中に雑談させんな」
フォルフォルに邪魔するなと注意し、恭介は銃弾を惜しみなく連射するマトリョーシカとの戦闘に集中する。
連射が止んだため、魔石の補給を始めたと判断した恭介は建物の陰から飛び出してマトリョーシカに接近する。
マトリョーシカは恭介を釣り上げたと思ってニヤリと笑っているかもしれないが、ゴーレムを構成する鉱物マテリアルは恭介の方が上であり、マトリョーシカの予想を上回る速度で接近されて焦ってしまう。
ザントマンで銃弾を躱しながら接近すれば、機体の効果でデバフがかかってニトロキャリッジの動きが鈍る。
「二度目も無事だと良いな」
そう言って恭介はボムスター零式を横に薙ぎ、ニトロキャリッジの側面に設置されたマシンガンを殴った。
恭介はヒット&アウェイですぐに距離を取り、ボムスター零式の効果がニトロキャリッジのマシンガンを爆発させた。
その爆発がニトロキャリッジのエンジンに届き、更に大きな爆発を引き起こした。
爆発した瞬間、恭介のコックピットのモニターに映る保有ポイントが20から32に変わり、サイドポケットにはマトリョーシカが集めた物的財産が転送された。
「…やれやれ。正当防衛とはいえ気分の良いものじゃないな」
マトリョーシカを殺したことを実感したせいで、恭介の表情は優れなかった。
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