第24話 奥の手は取っておくものだ
光が収まった時、恭介達10人のレース参加者はフォールマウンテンにいた。
曇天の険しい山の麓には10機のゴーレムが平行四辺形を描くように並んでいる。
先頭はEG国のアポピスが乗るベーススナイパー。
2位はBR国のジャンクコレクターが乗るキュクロ。
3位はIN国のスパイスが乗るモノティガー。
4位はD国のベルリナー・ヴァイセが乗るスイーパー。
5位はF国のボン・ジュールが乗るブリキドール。
6位はE国のフィッシュ&チップスが乗るジャック・オ・ランタン。
7位はR国のマトリョーシカが乗るニトロキャリッジ。
8位はC国の青椒肉絲が乗るマッドクラウン。
9位はA国のキングレーサーが乗るライカンスロープ。
10位は日本の
この時点で日本が目を付けられたのは言うまでもない。
全員の準備ができたところでレース開始のカウントダウンが始まる。
『3,2,1』
開始の合図の前に7位のニトロキャリッジが光る。
『GO!』
スタートの合図が聞こえたのと同時に事故が起きた。
ニトロキャリッジがスタートダッシュに失敗して爆発したのである。
その爆発に巻き込まれ、5位のブリキドールと6位のジャック・オ・ランタン、8位のマッドクラウン、9位のライカンスロープが吹き飛ばされてしまった。
恭介は何が起きても良いように、スタートダッシュと同時に8位のマッドクラウンの陰に隠れたため、吹き飛ばされることはなかった。
ついでに言えば、吹き飛ばされたマッドクラウンを足場にして加速までしてみせた。
『おぉっとこれはすごい! R国のマトリョーシカの作戦勝ちだぁぁぁ! 敵を4機吹き飛ばして自分はスタートしてるぞぉぉぉ!』
(なるほど、そういうギフトか。というか、フォルフォルが実況するのかよ)
恭介はモニターに映るゴーレムの反応から、自爆したはずのニトロキャリッジが復活していることを知り、それがギフトによるものだと理解した。
自爆しても自分とゴーレムが復活できるギフトを持っているから、わざと自爆して敵を減らすのがマトリョーシカの戦法だと見抜いた。
ギフトならば復活できるのは1日に1回だけなので、マトリョーシカはこのレースでこれ以上無茶な動きはできないだろう。
恭介はそう判断して4位のスイーパーを追いかける。
その後ろからニトロキャリッジがぴったりと付いて来て、前方にいる恭介目掛けて銃撃を開始する。
ニトロキャリッジはハイリスクハイリターンで自爆するイメージが強いけれど、機体の両側にマシンガンが設置されていて、燃料が尽きない限りずっと弾を連射できるのだ。
「その攻撃、利用させてもらうぞ」
恭介はわざとスイーパーの真後ろに移動し、ニトロキャリッジの銃撃を最小限の動きで躱してスイーパーに当てるつもりである。
スイーパーは後ろからの攻撃に気づき、ライフルから圧縮した風の弾を後ろに撃って相殺しようとする。
恭介はスイーパーの銃弾とニトロキャリッジの銃弾が衝突して生じる爆風のタイミングに合わせて跳躍し、スイーパーの頭上を跳び越える。
「先に行く」
追い越しざまにボムスター零式で攻撃することもできたが、恭介はその選択をしなかった。
それは進んで他国のパイロットを攻撃したくないという理由ではなく、ベルリナー・ヴァイセにマトリョーシカに対する壁にしようと思ってのことだ。
現に後ろからの攻撃を鬱陶しく思ったベルリナー・ヴァイセは、自分を追い越した恭介ではなく、後ろにいるマトリョーシカを撃退しようとして5位VS6位の争いが始まっている。
『日本のトゥモローの策略が決まり、5位のベルリナー・ヴァイセが6位のマトリョーシカを先に倒す気になったぁぁぁ! トゥモローマジ策士!』
(余計な実況するんじゃない。今の発言で気が変わったらどうしてくれるんだ)
フォルフォルの実況に恭介はムッとしたが、すぐに気持ちを切り替える。
フォールマウンテンはスタートしてすぐに勾配が急な上り坂であり、その上り坂はくねくねと曲がっていて障害物もあるから、翼を持たないゴーレムにとっては移動が楽ではない。
今回のレースはキツくとも、恭介が
1つ目は他国に正しい情報を握らせないためだ。
レース部門の後にはバトル部門が控えているから、他国にはできることなら正体不明のギフトをまだ残していると思わせたいと考えている。
それだけでも敵国を牽制できるから、余裕があるなら情報は隠しておきたいのである。
2つ目は次回以降の代理戦争を見据えてのことだ。
今回のデータだが、必ず次回以降の代理戦争で他国対策で使われるだろう。
少なくとも、自分だったら対策に使うのでドラキオンは出さなくて良いなら出さしたりしない。
それはそれとして、1位のベーススナイパーと2位のキュクロ、3位のモノティガーは山の頂上から次々に転がって来る岩球を避けるので精一杯のようだ。
恭介は落ちて来る岩球をジグザグに躱し、1位集団と化している3機に追いついた。
ザントマンが近づいたことにより、機体の効果でベーススナイパー達の動きが鈍る。
そのせいで岩球を避け切れず、アポピスのベーススナイパーがそれにぶつかり、1位集団から最初に脱落した。
ジャンクコレクターとスパイスはこのままじゃ不味いと思ったのか、3位の恭介を引き離そうとするけれど、デバフのせいで全く距離を離せない。
そのまま頂上に到着し、恭介は今走っているコースがフォールマウンテンと名付けられた理由を知った。
なんと道が途切れ、飛び降りた先から少し進んで2周目に入る仕様だったのだ。
(落ちても大丈夫なのか? ええい、行くしかあるまい!)
恭介はジャンクコレクターとスパイスが飛び降りるのを躊躇っているのを見て、自分が先に行くと最初に頂上から飛び降りた。
人生で一度もスカイダイビングをしたことはなかったが、恭介はレースでする羽目になった。
地上での落下をどうするか考えていると、山の斜面を転がって来た岩球がカーブしきれずに次々にコース外に飛び出し、それが丁度ザントマンの足場になりそうだった。
「クレイジーなギミックだな畜生!」
それでも恭介はタイミングを合わせ、空中に放り出された岩球を足場にして落下の衝撃を分散させることに成功し、どうにか無事に着陸して1位で2周目に入れた。
『素晴らしい! 日本のトゥモローがノーミスで2周目に突入したぁ! おぉっと、BR国のジャンクコレクターが岩球を足場にできずに落下して大破したぁぁぁ!』
(ああなりたくはないものだ)
大破して再起不能のキュクロの中にいるジャンクコレクターがどうなったかはわからないけれど、こんなところで大怪我してなるものかと恭介は気合を入れた。
2周目は徐々に2位になったスパイスとの距離が開き、3周目では追い上げ不可能な差が生じて恭介が1位のままゴールした。
『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ザントマンだぁぁぁぁぁ!』
フォルフォルがノリノリで恭介が1位であることを宣言した。
ゴールした瞬間にザントマンの足元に魔法陣が現れ、それが光って恭介はイベントエリアへの転送が始まった。
転送中に恭介はコックピットのモニターに表示されたレーススコアを確認する。
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レーススコア(第1回代理戦争・フォールマウンテン)
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走行タイム:22分43秒
障害物接触数:9回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:0回
他パイロット周回遅れ人数:1人
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総合評価:A
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報酬:資源カード(食料)100×5枚
資源カード(素材)100×5枚
50万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×50
ギフト:
コメント:ドラキオン使ってよー
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(奥の手は取っておくものだ)
恭介が心の中でコメントした直後に光が収まり、彼はイベントエリアに戻って来た。
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