第23話 Sir, Yes Sir!

 デスゲーム5日目の代理戦争当日、朝食を取って準備万端な恭介と麗華は各々のゴーレムに搭乗していた。


「更科、行くぞ」


『はい』


 転移門ゲートをくぐる際、代理戦争が開催される日だけ転移先にイベントエリアが追加される。


 今日はイベントエリアを選択して恭介達は転移門ゲートをくぐった。


 イベントエリアに来た時、恭介は違和感を覚えた。


 何故なら、全ての参加国が同時に転移門ゲートから移動して来たからだ。


「フォルフォル、同時に来場なんておかしい。何かしただろ?」


『正解。イベント会場に来た順に殺し合いが始まるのを防ぐためだね。ここにはルール説明をしにこの場に集まってもらった訳であって、この場で殺し合いをしてもらおうとは思ってないからね』


 コックピットのモニターに映ったフォルフォルは、余計なことをさせないための措置だと告げた。


 フォルフォルが告げなかったけれど、話したもの以外にも理由はある。


 それは対戦開始前の結託を阻止するためだ。


 参加国全員が結託し、自分が用意したイベントを台無しにしないとも限らないから、結託する雰囲気も醸成させることもしなければ、その時間も与えないのである。


 フォルフォルがザントマンのコックピットのモニターから消え、全員の前にホログラムとして現れる。


『私がデスゲームのゲームマスターのフォルフォルである。話しかけられた時以外は口を開くな。口でクソ垂れる前と後に“Sir”と言え。わかったか、蛆虫共!』


『『『…『『Sir, Yes Sir』』…』』』


『ふざけるな! 大声出せ! タマ落としたか!』


『『『…『『Sir, Yes Sir!』』…』』』


 (どこからこの声を出してるんだ?)


 フォルフォルのおふざけに対し、どの国のパイロットも返事をしているとは思えない。


 それにもかかわらず、どこからともなく複数人の返事をする声がイベント会場内に響いているので恭介は首を傾げた。


 麗華が通信回線を開いて恭介に訊ねる。


『明日葉さん、これってフォルフォルの仕込みかな?』


「あり得る。戦争だからって理由で導入にハート〇ン軍曹ネタをぶち込んで来たみたいだ」


 恭介と麗華の会話は聞こえているのだろうが、フォルフォルはネタをやり続ける。


『貴様等雌豚共が私のデスゲームで生き残れたら各人が兵器となる。戦争に祈りを捧げる死の司祭だ。その日までは蛆虫だ! 地球上で最下等の生命体だ! 貴様らは人間ではない。両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない! 貴様等は厳しい私を嫌う。だが憎めばそれだけ学ぶ。私は厳しいが公平だ。人種差別は許さん。黒豚、白豚、黄色豚を、私は見下さん。全て平等に価値がない! 私の使命は役立たずを刈り取ることだ。愛する地球の害虫を! わかったか、蛆虫!』


『『『…『『Sir, Yes Sir』』…』』』


『ふざけるな! 大声出せ!』


『『『…『『Sir, Yes Sir!』』…』』』


 ここまでやり切ったところでフォルフォルはニヤリと笑った。


『さて、代理戦争の説明を始めよう』


(マジで自由だな)


 恭介は呆れて何も言えなかったが、それでもルールを聞き逃してはいけないから頭を切り替えた。


 フォルフォルが説明した代理戦争の内容をまとめると以下の通りになる。



 ・代理戦争は参加国のパイロットが5,10,15のように5階層突破毎に開催される

 ・もしも1ヶ月以上新たに5階層が突破されなければ、代理戦争が強制開催される

 ・代理戦争はGBOと変わらずバトル部門とレース部門がある

 ・バトル部門では毎回別のテーマで戦いが行われる

 ・レース部門は各国1名が代表して参加する

 ・レース部門は毎回違うコースで行われる

 ・報酬は部門毎に用意されており、実績によって按分される

 ・他国のパイロットを仕留めるとギフト以外全ての物的財産を引き継げる



 8つのルールが大本として存在し、それぞれのバトルやレースでは独自のルールが用意されるようだ。


 それはそれとして、今回の代理戦争では他国のパイロットを率先して倒すように8つ目のルールが誘導している。


 パイロットが減れば資源の獲得量が減ることとイコールで結ばれるから、それはつまり国家が衰退していく訳だ。


 自分達の死亡が国家の衰退あるいは滅亡に関わると言外に言われれば、イベント会場の緊張度が高まるのは当然だろう。


『次はバトル部門とレース部門のどちらからやるか決めようか。ルーレットスタート!』


 フォルフォルがそう言った直後、8等分で赤いバトルと青いレースのマスが交互に配置されたルーレットのホログラムが現れてそれが回り出す。


 徐々にスピードダウンしていき、最終的にはレースのマスに止まった。


『ということで、今回の代理戦争はレース部門から先に始めるよ』


 フォルフォルが指パッチンしてルーレットの中身が切り替わる。


 今度はレース部門で走るコースを決めるようだ。


 ルーレットが回り始めるとフォルフォルが歌い出す。


『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』


 (それはサイコロを振る時のやつじゃね?)


 恭介はそんなことを思ったけれど、ツッコんだりしなかった。


 コックピットの中にいれば、通信回線を開かない限り外に声は漏れないだろうが、フォルフォルが余計なことをして注目を集めないとも限らないからだ。


 ルーレットに配置されたコース名は、いずれも恭介にとって初見だった。


 ということは、フォルフォルがわざわざ代理戦争のために用意したコースなのだろう。


 最終的に針が止まったのはフォールマウンテンのマスだった。


『喜べ蛆虫共! 今回のコースはフォールマウンテンだ! 砂が固まり石となり、石が固まり岩となる! わかったか蛆虫共!』


『『『…『『Sir, Yes Sir』』…』』』


『ふざけるな! 大声出せ! 貴様等それでもパイロットか!』


『『『…『『Sir, Yes Sir!』』…』』』


 (そのネタまだ続いてたのかよ)


 急に軍曹ネタに戻るフォルフォルに対し、恭介達はそのノリについていけず困惑していたがフォルフォルはそんなことを気にしたりしない。


『レース部門に参加するパイロットを決めたまえ。時間は1分だけやろう』


「更科、俺が出るけど問題ないよな?」


『うん。1人しか出られないなら明日葉さんが適任だよ。頑張ってね』


 フォルフォルに与えられた時間を10秒も使わず、レース部門の日本代表は恭介に決定した。


 他の国もすぐにレース参加者が決まり、以下の通りのラインナップがそれぞれのコックピットのモニターに表示された。



  日本:トゥモロー(ザントマン/火)

  A国:キングレーサー(ライカンスロープ/風)

  BR国:ジャンクコレクター(キュクロ/水)

  C国:青椒肉絲(マッドクラウン/土)

  D国:ベルリナー・ヴァイセ(スイーパー/風)

  E国:フィッシュ&チップス(ジャック・オ・ランタン/火)

  EG国:アポピス(ベーススナイパー/土)

  F国:ボン・ジュール(ブリキドール/水)

  IN国:スパイス(モノティガー/風)

  R国:マトリョーシカ(ニトロキャリッジ/火)



 (マジかよ。ニトロキャリッジ使ってる奴がいるぞ)


 モニターに表示されるのは本名ではなく、GBO時代のパイロットネームとゴーレムの種類、属性だ。


 ゴーレムを構成する鉱物マテリアルは、基本的に外見から判断がつかないので情報として表示されないようだ。


 それは別に構わないのだが、恭介はR国のマトリョーシカが使っているニトロキャリッジの文字に不安を感じた。


 昨日、トゥームレイクでレースをした時にスタートで自爆したからである。


 マトリョーシカがニトロキャリッジにどの鉱物マテリアルを使っているかわからないが、優れた鉱物マテリアルを使っていれば使っているだけ自爆した時の被害が大きくなる。


 昨日はアイアン製のニトロキャリッジだったが、もしも木目鋼ダマスカスを使っているなら爆発に巻き込まれる恐れがある。


 恭介がスタート位置はできるだけマトリョーシカと離れた位置にしてくれと祈っていると、フォルフォルがスタート位置について説明する。


『レースのスタート位置は総合的にこのデスゲームの進捗状況を考慮した順番だよ。それぐらいの優しさもなく、ベーススナイパーで10位スタートとかかわいそうだからね。じゃあ、レース参加者をコースに移動させるよ』


 フォルフォルがそう告げた瞬間、レースに参加するゴーレムの足元に魔法陣が展開され、その直後に魔法陣が光って恭介はフォールマウンテンへと転移された。

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