第18話 上上下下左右左右減速加速!

 デスゲーム3日目、朝食を取った後に恭介は今日も単独でレースに出場するべく、ザントマンに乗り込んだ。


 自分のゴーレムがアイアン製のザントマンになり、麗華も青銅ブロンズ製だがエンジェルならば十分に今日挑む予定のモンスターはドラキオンなしでも倒せるという判断である。


 転移門ゲートを通ってレース会場に到着したところで、フォルフォルがコックピットのモニターに現れて恭介に話しかける。


『やあ、恭介君。今日も1人で来たんだね。次は廃工場に挑むのかい?』


「その通りだ。廃工場に入れるようにしてくれ」


『OK。入れるようになったから進んで良いよー』


 フォルフォルが許可した直後にレース会場の入場門が光を放ち、恭介はそこに向かってザントマンで進む。


 入場門を通過したら、既に7機のゴーレムが位置に着いて待機していた。


 昨日8サーキットでレースした時は、いずれも競争する相手が青銅ブロンズ製のベースファイターかベーススナイパーだった。


 だが、今回の競争相手は全てアイアン製であり、ベースシリーズ2種類ではなかった。


 ライカンスロープとキュクロ、ジャック・オ・ランタン、エンジェルの4種類は恭介と麗華が使用可能なゴーレムだ。


 ザントマンがここにないのは、恭介がザントマンでコースに入場したからだろう。


 GBO時代から、レースではマルチプレイでパイロットが同じ種類のゴーレムを選ばない限り、パイロットとレースに参加するゴーレムが被ることはなかった。


 その設定がこのデスゲームにおいても生きているらしい。


 残り3種類のゴーレムは、モノティガーとブリキドール、スイーパーである。


 モノティガーはモノアイの虎に変形できるゴーレムで機動性が高い。


 ブリキドールは量産型の人型ロボットと呼ぶべき見た目であり、目立つ特徴がない代わりに欠点もない。


 スイーパーは掃除機によく似たライフルを持つゴーレムで、吸い込んだ空気を圧縮して放ったり、拡散して吹き飛ばす使い方をする。


 それはさておき、ザントマンが位置に着いたことにより、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言した瞬間、ザントマンのコックピットにいたはずの彼がドラキオンのコックピットの中に移動した。


『GO!』


「行くぞ!」


 ドラキオンが翼を広げ、最初からフルスロットルでスタートダッシュを決めたことにより、前回同様にドラキオンの前にいた7機はその風圧で吹き飛ばされて大幅に出遅れた。


 廃工場と呼ばれるコースについて説明しよう。


 ここはGBOの設定によると、過去にゴーレムが製造されていた工場が時の流れで廃れて無人になったのを改造して作られたコースである。


 そのため、トラップはゴーレム工場らしいものばかりで、パイロットを邪魔するために現れるモンスターも廃工場に住み着いたと言われても納得できるラインナップだ。


 ドラキオンは空を飛べるゴーレムだから、立体的にトラップが仕掛けられていても、ひょいひょいと躱していく。


 (シミュレーターで練習したんだ。トラップに引っ掛かる訳ないだろ)


 昨日の夕方から夜にかけて、恭介はシミュレーターを使って廃工場のコースを走っていたから、今日の本番でも余裕の対応を披露している。


 電流投網や槍衾、釣り天井等が恭介の行く手を阻むけれど、それらは全てドラキオンに乗っている恭介に躱されてしまった。


 前方にモンスターがいるが、猛スピードのドラキオンが纏う風圧で吹き飛ばされてしまい、進路妨害の役割を全く果たせていない。


 5分弱で1週目が終わって2週目に入り、恭介は8位のブリキドールと7位のキュクロを見つけた。


 ブリキドールが1つでも順位を上げようと前にいるキュクロに攻撃を仕掛けており、それに対してキュクロはスピードで離し切れずにブリキドールを迎撃していた。


「悪いが先に行く」


 キュクロとブリキドールの争いをスルーして、恭介はドラキオンでその2体を追い越す。


 風圧でバランスを崩したブリキドールに対し、キュクロが攻撃を仕掛けていたのだが、ブリキドールはどうにか体勢を持ち直した。


 2機が普通に走行できるようになった時には、ドラキオンが既に遠い位置に行ってしまっていた。


 キュクロとブリキドールを置き去りにした恭介は、丁度トラップにかかって減速している6位のジャック・オ・ランタンを見つけた。


『こっち来るな!』


 ジャック・オ・ランタンのパイロットの声が聞こえて来るが、恭介はそれを無視してジャック・オ・ランタンとどんどん距離を詰める。


 火炎放射を使って推進力を足しつつ、恭介に追い越させないというポーズのようだ。


 とはいえ、恭介がドラキオンで火炎放射をスイスイ避けるものだから、ジャック・オ・ランタンとそのパイロットは燃料切れで動けなくなった。


 ドラキオンに当ててやろうとムキになったのが原因である。


 ドラキオンの代わりにパイロットの邪魔をしようとスタンバイしていたモンスターが燃やされ、恭介はまだ自分からまともに攻撃せずに済んでいる。


 2週目が終わるタイミングで5位のスイーパーをトラップに嵌めて抜かし、3周目に入ったタイミングで恭介のタイムは9分強だった。


 3周目早々に4位のエンジェルを捕捉し、エンジェルがドラキオンから逃げ切ってやると後ろに向かって弾丸を連射する。


 (上上下下左右左右減速加速!)


 エンジェルが2丁の銃で連射して来ても、恭介は冷静に全てを躱してみせる。


 それだけでなく、最後の加速は後方のトラップが爆発するのを利用したため、エンジェルを追い抜かした。


 ドラキオンから放たれる風圧でエンジェルは安全な進路から押し出され、トラップにぶつかってその場に足止めされた。


 エンジェルを周回遅れにしてから少しして、恭介は3位のライカンスロープと2位のモノティガーの2位争いしているのを見つけた。


 四足歩行同士の戦いが繰り広げられているが、モノティガーの方が余裕そうに見える。


 ライカンスロープが少しでもモノティガーを減速させてやろうと果敢に攻撃するため、あちこちでトラップが作動している。


 モノティガーも流石に鬱陶しく感じたのか、電流投網を利用してライカンスロープを足止めしようとした。


 ところが、ライカンスロープの銃撃が釣り天井を壊したことにより、ライカンスロープが電流投網に引っ掛かるのと同時に、モノティガーの上に釣り天井が落ちた。


 2位と3位が共に足止めされたため、恭介はそれをしめしめと抜き去ってそのままゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 この二つ名が変わることはあるんだろうかと思った恭介だが、今よりも恥ずかしい二つ名が付くのは嫌だと思い、これ以上考えるのは止めた。


 コースを離れてから黄竜人機ドラキオンをキャンセルすると、恭介の視界に日付が変わるまでのカウントダウンが表示された。


 それに加え、乗り換えたザントマンのコックピットのモニターには、GBO時代と同様にソロプレイでレース終了後に出るスコアが表示された。



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レーススコア(ソロプレイ・廃工場)

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走行タイム:14分33秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×1枚

   資源カード(素材)100×1枚

   10万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×10

ぶっちぎりボーナス:ボムスター零式

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv4(up)

コメント:君はいつまで武器を使わないんだい?

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 (使わずにいられる間は使わないさ)


 武器を使ってしまうと非殺生ボーナスは貰えなくなるから、恭介は可能な限り武器を使わないつもりだ。


 仮に使うならば、全てのゴーレムを攻撃して脱落させる完全撃破ボーナスを狙わないとボーナスが減る。


 フォルフォルは恭介にドラキオンの武器を使わせたいようだが、それはまだ先の話になるだろう。


 それはそれとして、ザントマンで使う武器としてボムスター零式は換装すべきメイス型のモーニングスターだったから、5階層に挑む前に戦力を強化できたことに恭介は喜んだ。


 余談だが、レースやタワー探索等で手に入れた武装だが、ゴーレムと同じで構成する鉱物マテリアルを変えられるから柔軟性が高い。


 レーススコアも確認し終わったところで、恭介はぼーっとせずに転移門ゲートをくぐって格納庫に帰還した。

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