第19話 何故ベストを尽くさないのか?
格納庫に帰還した恭介は、素早くザントマンの武器を普通のモーニングスターからボムスター零式に換装してからコックピットの外に出た。
麗華はレースを終えて戻って来た恭介に声をかける。
「明日葉さん、お疲れ様。今回も他の7機を周回遅れにしてたね」
「可能な限りずっと全員周回遅れにしたいな」
「1位は当たり前だからって、他のパイロットの心を折りに行くのはかわいそうじゃない?」
「何故ベストを尽くさないのか?」
「そう言われると何も言い返せないね」
敵に舐めプをするよりも実力を見せつけて勝った方が誠実だろうけど、それは手の内を晒したくない時は悪手だ。
だからこそ、恭介は武器という手の内を隠したままでも敵に実力差を見せつけるレースを披露した訳である。
それが恭介にとってのベストだったと言われれば、麗華には言い返せるものがなかった。
その時、格納庫のモニターにフォルフォルが現れた。
『恭介君と麗華ちゃん、君達はこれからタワーの5階層に挑むんだよね?』
「その通りだけど何か問題でもある?」
『問題じゃないけど言い忘れてたことがあってね。君達は昨日、シミュレーターで5階層のモンスターと戦えても6階層のモンスターと戦えないことを不思議に思わなかったかな?』
「「思った」」
恭介と麗華の返答がシンクロした。
恭介程ではないが、麗華も昨日私室をアップデートしてシミュレーターを使えるようになったから、ちゃんと今日のための予習をしていたのだ。
『その理由を説明してなかったから今話すね。GBOと同じでタワーは5階層毎にボス部屋のみの階層がある。1回目の代理戦争は、10ヶ国の内どこか1つの国が5階層を突破した翌々日に行われる。最初の代理戦争が終わるまでは6階層の魔法陣までしか進めないように制限をかけてあるんだ』
「なんでそんな制限を設けたんだ?」
訊ねたのは恭介だった。
代理戦争が始まるまでに探索できるだけタワーを探索させてほしいと思ったのだろう。
『それはね、私の想定以上に各国の進捗にばらつきが出てるからだよ』
「と言うと?」
『君達頑張り過ぎ。進捗が遅い国なんてやっと2階層を踏破したところだよ?』
「何故ベストを尽くさないのか?」
『そのフレーズにハマったんだね』
恭介の言い分にフォルフォルが苦笑いするという珍しい事態が発生した。
それはそれとして、とりあえず今日は5階層までしか挑めないとわかったため、恭介達は各々のゴーレムに乗り込み、
時間は有限だから、さっさと5階層を踏破して代理戦争の準備に充てようという考えである。
5階層はスタートから広間になっており、そこにはボスモンスターのインプ2体が恭介達を待ち受けていた。
インプは全身が黒く、尖った耳と充血した目の他には蝙蝠の翼と膨れた腹、鉤のある長い尻尾を持った姿が特徴的な小悪魔だ。
どちらのインプも鞭を持っており、恭介達を視界に捉えてすぐに2体の足元を中心とした紫色の魔法陣が発生する。
その魔法陣から今までの階層に出て来たモンスターの混成集団が現れ、5階層が一気にモンスターハウスと化した。
各種スライムとゴブリン、コボルド、グレムリンがインプを囲み、恭介達は数的不利に追い込まれる。
それでも、2人に焦った様子は見受けられない。
「シミュレーターで予想できてた展開だ。更科、打ち合わせ通りにやるぞ」
『了解』
麗華が高度を上げてから、グレムリンだけを探してヘッドショットを決めていく。
グレムリンの攻撃がゴーレムに触れるとデバフが生じるから、グレムリンだけはさっさと倒さねばならない。
麗華が稼いだヘイトを上回るべく、恭介は敵の大群に突撃する。
左手で持つ盾には衝撃吸収機能があり、攻撃によって生じた衝撃を吸収して自身の燃料に変えられるから、恭介はわざと盾に向かって敵が攻撃するように仕向けている。
盾で攻撃を防いだらボムスター零式で殴る。
ボムスター零式は殴った部位を爆発させられるから、敵が密集している時に殴って爆発で周りを巻き込むことで多くのヘイトを稼いでいる。
スライムとゴブリン、コボルド程度では今の恭介のガードを突破できないし、攻撃も防ぐことはできない。
それゆえ、あっさりと取り巻きの掃除は終わってしまった。
しかし、それこそがインプ達の狙いだった。
大量の敵を倒した際に油断が生じるだろうから、そのタイミングを狙って鞭で恭介と麗華を攻撃したのだ。
「油断すると思ったか?」
『する訳ないでしょ』
「「ゲギャ!?」」
インプの攻撃パターンはシミュレーターで予習済みだから、当然攻撃するタイミングを恭介達が予想できないはずがない。
恭介は鞭をボムスター零式で殴って弾き飛ばし、その追加効果で鞭が爆発して壊れた。
麗華は鞭を冷静に躱し、自分を攻撃したインプの両翼を2丁の銃で撃ち抜いた。
片方は武器を失い、もう片方は翼を撃たれて飛べなくなった。
これでは満足に戦えまい。
怯んでいる内に麗華は勝負に出る。
『ギフト発動』
麗華は
胸のあたりにぽっかりと穴が空き、そのインプの体が光の粒子になって消えた。
「ゲーギャ!?」
「安心しろ。お前もすぐに同じ場所へ送ってやるから」
恭介は相方がやられて動揺しているインプに接近し、その脳天にボムスター零式を振り下ろした。
頭を強かに殴られてグラついたインプは、ボムスター零式の追加効果で頭部が爆発して力尽きた。
コックピットのサイドポケットに戦利品が転送されたのを確認し、恭介は麗華に声をかける。
「更科、お疲れ様。打ち合わせ通り上手くできたな」
『エンジェルにゴーレムを変更できたおかげね。キュクロだったらグレムリンを倒すのにもっと時間がかかったわ』
「高くても買いだったろ?」
『うん。背中を押してくれてありがとね』
お互いに労い合った後、恭介と麗華は昇降機で6階層に移動してから魔法陣でタワーを脱出する。
それと同時に2人のゴーレムのモニターにタワー探索スコアが表示された。
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タワー探索スコア(マルチプレイ)
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踏破階層:5階層
モンスター討伐数:70体
協調性:◎
宝箱発見:設置なし
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総合評価:S
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報酬:3万ゴールド
資源カード(食料)5×1
資源カード(素材)5×1
ボスファーストキルボーナス:
ギフト:
コメント:インプ相手でも余裕かぁ。難易度調整が必要かな?
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「フォルフォル、難易度調整なんてしないでくれ」
恭介は自分がコメントをスルーして黙認したと判断されるのがいやだったから、モニターにまだ表れていないフォルフォルに対して拒否する意思を明確にした。
呼ばれて無視するフォルフォルでもないから、恭介に呼ばれてあっさりとモニターに現れた。
『そんなこと言ってもさぁ、代理戦争後にパワーバランスおかしいとか絶対文句言って来る国が出て来るよ?』
「もしもナーフしたら、フォルフォルがこのデスゲームの設定をミスった無能扱いされるけど良いの? 俺達を巻き込んだだけでも身勝手なのに、都合が悪くなったら調整するとか恥ずかしくない?」
『むっ、言うじゃないか恭介君。上等だよ。難易度調整はしない。それは上げもしないけど下げもしないってことだから、そこんところは承知しといてね』
「わかってる。というか、デスゲームの時点で精神的に難易度は高いだろ」
『それもそうだね』
フォルフォルとの話を終えた恭介に麗華が話しかける。
『明日葉さん、ギフトのレベルが上がった!』
「良かったじゃん。所持金に余裕がある時にレベルアップするのが良さそうだな」
『うん! 3万ゴールド手に入ったから、収支は2万ゴールドプラス! しかも、ボスファーストキルボーナスのおかげでエンジェルを
麗華は鼻歌でも歌いそうなぐらいご機嫌だった。
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