第16話 金は力なり。メモしておきなさい

 コボルドソルジャーを倒した後、恭介達は昇降機に乗って4階層にやって来た。


 内装は3階層と同じで白い鉱物の洞窟のままだったけれど、恭介はこの階層で出て来るだろうモンスターを警戒していた。


 その警戒しているモンスターは、2機のゴーレムの襲来を知って早速昇降機前に集団で駆け付けた。


「グレムリンが来たぞ」


『うわぁ、この階層はさっさと終わらせようよ』


 恭介が警戒し、麗華が嫌がるグレムリンとはゴブリンの耳が翼のようになり、体が細マッチョに引き締まった種族だ。


 こちらもまた腰蓑を身に着けているが、ゴブリンの物と比べてみると少し清潔そうである。


 別に腰蓑の清潔さでゴブリンかグレムリンか判断する訳ではないのだから、腰蓑についてしっかり見るパイロットはGBO時代でも少なかった。


 それはさておき、どうしてグレムリンが恭介に警戒され、麗華に嫌がられるか説明しよう。


 その原因はグレムリンが武器として持つスパナ型のメイスのせいだ。


 このメイスがゴーレムに触れると、ランダムでゴーレムにデバフがかかってしまう。


 その効果はメイスが触れなければわからないので、触れられた後にどうにかするか、それとも触れられないように戦うしかない。


 ゴーレムの性能が高ければ、グレムリンのメイスに触れられることはないだろうが、青銅ブロンズ製のゴーレムでは確実性はないのだ。


「「「…「「キシシ」」…」」」


「更科、火炎放射するからフォローを頼む」


『了解』


 悪戯してやると言わんばかりの笑みを浮かべるグレムリンに対し、恭介はジャック・オ・ランタンの火炎放射を発動する。


 前の方にいる個体は避けられたが、後ろの方にいた個体は火炎放射に気づくのが遅れて避けられなかった。


 8体いる内の後ろ半分は丸焼きになって倒れ、前半分は危険なジャック・オ・ランタンを壊してやろうと突撃する。


『やらせないわ』


 麗華はライフルで恭介に近い順にグレムリンを撃っていく。


 恭介の攻撃を避けたため、後は恭介を攻撃することしか考えていないグレムリン達は麗華の狙撃にあっさりとやられて倒れた。


 無傷で倒せたのは良いことでも恭介の表情は渋い。


 (遭遇する度に火炎放射ってのはコスパが悪いんだよな)


 火炎放射を使うには当然魔石を消耗する。


 それで倒せたグレムリンから赤い魔石がドロップしなかった場合、ジャック・オ・ランタンを途中で動かせなくなってしまう恐れがある。


 そうなれば、火炎放射の連発はコストパフォーマンスが悪いとしか言えまい。


 では、どうするか。


 大鎌デスサイズでグレムリンを倒すしかない。


 幸い、グレムリンのメイスの影響を受けるのはゴーレム本体だけだ。


 武器同士が触れる分にはデバフは発生しないので、グレムリンの動きを見切って大鎌デスサイズで攻撃すれば魔石は節約できる。


 もっとも、言うは易く行うは難しだから、恭介のようにシミュレーターできっちりグレムリンの動きを予習しないと厳しいだろう。


 4階層は一本道ではなく、分かれ道も出て来て迷路のようになっている。


 見通しの利かない十字路で強襲されないように、細心の注意を払って恭介達は先へ進む。


 早速十字路に着いた恭介と麗華だが、よく見ると右側の曲がり角からグレムリンの耳が見えている。


 恭介は大鎌デスサイズを回転させて遠心力を上乗せした振り下ろしを行い、グレムリンの耳を斬り落とした。


「ギヒィィィィィ!」


「くそったれ。仲間を呼びやがった」


 グレムリンが悲鳴で仲間を呼び集めていると気づき、恭介は大鎌デスサイズでグレムリンの首を刎ねた。


 急いでグレムリンの息の根は止めたけれど、恭介達が来た道以外からグレムリンがわらわらと集まって来た。


『明日葉さん、私が数を減らす。近寄って来るグレムリンの対処をお願い』


「わかった」


 密集しているということは、一発の弾丸で複数の敵を倒せる可能性も上がるということだ。


 ピンチをチャンスだと捉え、麗華がライフルでグレムリン達の数を減らす。


 麗華のライフルが向いていない方角からグレムリンが迫るが、それは恭介が動きを見切って大鎌デスサイズでバッサリと切り捨てていく。


 10分程同じことを繰り返した結果、集まって来たグレムリンを全て倒すことに成功した。


「ふぅ。なんとかなったな。更科さん、ナイスファイト」


『明日葉さんも避けタンクすごかったね。おかげで落ち着いて撃てたわ』


「なんにせよ、この階層はとっとと通過してしまおう」


『賛成』


 この場に留まっていてはまた襲われるかもしれないから、恭介達は前進した。


 道は左右と前にあったのに前を選んだ理由だが、グレムリンの現れた数が一番多かったのが前だったからだ。


 厳しい道を選べば昇降機に辿り着けるという希望的観測であるが、GBOにおいてはそれで大体なんとかなる。


 モンスターの少ない楽な道を選べば、その分だけ距離が遠かったり罠が多かったりするのがGBOである。


 恭介達の選択は間違っていなかった。


 罠は少ない分、グレムリンが次々に現れるが、道幅は狭めでゴーレムが2機横に並ぶのがギリギリだから、ジャック・オ・ランタンとキュクロが並べばグレムリンに囲まれることはない。


 左側を恭介が受け持ち、右側を麗華が受け持つことで次のY字路まで大して時間をかけずに進むことができた。


「Y字路か。悩ましいな」


『明日葉さんお得意の勘は働かないの?』


「困ったことに俺の勘は右でも左でもないって言ってる」


『道を間違えたってこと?』


「いや、そうじゃない。多分、この辺りに隠し通路があるはずだ」


 そう言って恭介は大鎌デスサイズの石突であちこちを叩く。


 叩いたことで生じる音の反響で、少しでも不自然な所がないか調べているのだ。


 そして、恭介は5分程探して遂に気になる場所を見つけ、大鎌デスサイズの石突で叩いた。


 それによって左側の壁が地面に沈んでいき、ゴーレム1機分しか幅のない道を発見した。


『明日葉さんすごい。隠された物を探す才能があるんだよ』


「落とし物を見つけたりする時に便利そうな才能だ」


『探偵にも向いてるんじゃない?』


「探偵なんて生活が安定しないじゃないか。儲かるビジョンも全く見えないし、コソコソ人のことを嗅ぎまわってたら、知らない内に誰かから恨まれてそうで嫌だ」


 これはあくまで恭介の意見だったが、麗華もそのイメージがあったらしく否定しなかった。


 隠し通路を進んで行くと、すぐに広間に到着した。


 広間の奥には通路があるが、その前には宝箱を守る通常よりも一回り体の大きなグレムリンがいた。


 宝箱の守護者が普通である訳がなく、その手にはバールが握られているのが確認できる。


「グレムリンパワードだ。バールの方がスパナ型メイスよりもデバフ効果が強いし、こいつは通常型よりも力が強い」


『それは絶対にお近づきになりたくないね』


「ギシシッ」


 グレムリンよりも少し野太い声で笑うと、グレムリンパワードはバールを振りかぶって恭介達に突撃して来た。


「胴が隙だらけだぞ」


 恭介が大鎌デスサイズで横薙ぎを放つと、グレムリンパワードがその攻撃を防がなければと慌ててバールを振り下ろす。


 恭介はそれを半身になって躱し、振り降ろしによって隙だらけになったグレムリンパワードを側面から斬り捨てた。


「ふぅ。力はあっても速度は遅かったな」


『しまった。あいつこそ金力変換マネーイズパワーの餌食にするべきだった』


「それは昇降機を守ってるだろうグレムリンとの戦いで使えば良い。今日の探索はこの階層で終わりだから」


『わかった。そうさせてもらうわ』


 麗華の話が決着して恭介が宝箱の前に移動したら、コックピットのモニターにフォルフォルが現れる。


『恭介君のことをこれからは探し物わかるマンって呼んでおけ?』


「謹んで断らせてもらう」


 恭介はフォルフォルの提案をきっぱりと拒否してから、罠がないことを確認して宝箱の蓋を開く。


 その中身は5万ゴールドと10個の赤い魔石がジャック・オ・ランタンのコックピットのサイドポケットに転送された。


 火属性のゴーレムを操縦する恭介にとって、赤い魔石が10個手に入るのはありがたいから、宝箱の中身としては当たりと言えるだろう。


 麗華は早くグレムリンの階層を抜けたがっていたので、すぐに通路の先に向かった。


 すると、通路の向こうに昇降機があり、それを守るべく絵にかいたような爆弾を持ったグレムリンが待ち構えていた。


「グレムリンボマーだ」


『ギフト発動!』


 麗華はモンスターの名前だけ聞いてギフトを発動し、5千ゴールド払ってからグレムリンボマーを撃った。


 グレムリンボマーは爆弾を投げて麗華の攻撃を防ごうとしたけれど、麗華の狙撃は金力変換マネーイズパワーで強化されていたから爆弾を貫通してそのままグレムリンボマーの眉間を撃ち抜いた。


『金は力なり。メモしておきなさい』


 決めゼリフの後に爆弾が爆発し、丁度良い感じのエフェクトになったのは偶然である。


 何はともあれ、4階層でやるべきことは全て済んだから、恭介達は昇降機で5階層に上がってから魔法陣でタワーを脱出した。

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