第15話 もっと可愛くなって出直して来なさい!
これまで恭介と麗華が
それは、アップデートにかかる費用が他の施設とは比べ物にならないぐらい高かったのだ。
一度アップデートするのに5万ゴールドもかかるとなれば、おいそれとアップデートには踏み出せまい。
恭介は
麗華はジャック・オ・ランタンに乗り込もうとする恭介に意を決して話しかける。
「明日葉さん」
「…すまん。あんまり触れたくない話題だったから黙ってたんだが、空気を悪くしちゃったな」
「それは良いの。私、明日葉さんと筧首相の関係はよくわからないけど、私は明日葉さんの味方だから!」
麗華は知らない他人よりも知り合いに味方をする一般的な感性の持ち主だ。
年下でそれも次の新入社員に気を遣われていることに苦笑し、恭介は深呼吸をしてから応じる。
「ありがとう。じゃあ、気持ちを切り替えて午後もタワーの探索に行こうか」
「うん!」
恭介と麗華はそれぞれのゴーレムに乗り込み、
魔法陣でタワーの3階層まで移動し、恭介達は午後の探索を開始する。
3階層もこれまでの2階層と異なり、内装は白い鉱物が多めに含まれた岩の洞窟だった。
昨日の時点では、恭介がシミュレーターで確認したのは4階層のモンスターまでだ。
難易度からして、今日中に無理せず行けるのはそれぐらいまでと見越してのことである。
シミュレーターで確認した通り、3階層で恭介達の進路を邪魔するのはコボルドだ。
コボルドは小柄で犬に似た頭部を持つ、毛むくじゃらな亜人型モンスターと表現できる。
ゴブリンと違ってちゃんと羞恥心があるからなのか、種族的な特徴として腰蓑ではなく革鎧を身に着けている。
使用する武器は短剣と弓矢がメインであり、ゴブリンのような手斧やメイスを使うことは滅多にない。
コボルドが単体で戦うことはあり得ず、常に
たった今恭介達の前に現れたコボルドも2体だ。
「「ワォン!」」
『もっと可愛くなって出直して来なさい!』
麗華はコボルドの顔の見た目が好きな犬ではなかったらしく、片方のコボルドにヘッドショットを決めた。
残った1体は恭介がジャック・オ・ランタンの試運転で倒す個体だ。
コボルドが恭介の
それでも、恭介は
コボルドが真っ二つに割れ、光の粒子となって消えればジャック・オ・ランタンのコックピットのサイドポケットに戦利品が転送される。
(久し振りにジャック・オ・ランタンを使ったけど、案外体が覚えてるもんだな)
昨日の時点ではジャック・オ・ランタンの設計図を手に入れられるとは思っていなかったため、ジャック・オ・ランタンでの探索はぶっつけ本番だ。
それにもかかわらず操縦できるのは、恭介がシミュレーターでコボルドの動きを確認できていたからだろう。
3階層は洞窟であり、1階層や2階層とは異なって足場が平坦とは限らない。
更に言えば、洞窟の壁は所々罅が入っていて衝撃を与えれば崩れそうなのだ。
恭介が
『先手は貰った!』
「「「ワォン!?」」」
麗華がライフルで縦に並んで待機していた3体を撃ち抜けば、隣の列のコボルド達が驚きの声を上げた。
「斬り捨て御免」
余所見している暇なんて与えていないので、恭介が
戦利品を回収した後、しばらくは壁の罅を壊して隠れているコボルド達を倒す作業が続いた。
ゴブリンと違って奇襲狙いで隠れている個体が多かった分、コボルド達は逆に隠れている場所を襲撃されてしまい、反撃しようにもお互いが邪魔で大した反抗もできずやられてしまった。
『ゴブリンと戦ってる時よりも楽できてる気がする』
「今のところほとんど俺達から襲ってるだけだもんな」
『あっ、2時の方向に罅割れ見つけた!』
「了解。壊すから援護射撃を頼む」
麗華が見つけた罅割れを確認し、恭介は
壁の中には1体のコボルドがいたが、それは他の個体と違って黒装束を身に纏っていた。
「コボルドシーフか」
コボルドシーフは他のコボルドと違って
普段は6体のコボルドが隠れている場所に1体で隠れていたから、コボルドシーフが動くスペースは十分あった。
そのおかげで麗華の狙撃が初めて外れた。
ただし、ジャック・オ・ランタンが邪魔をしているせいで逃げる選択肢は潰されている。
行動できる場所が限られており、どうやってジャック・オ・ランタンを出し抜いてこの場から脱出できるか考えるコボルドシーフだったが、話はそう上手くいかない。
恭介が火炎放射でコボルドシーフを丸焼きにしたからである。
逃げ道のない状況では、コボルドシーフがジャック・オ・ランタンの火炎放射をやり過ごすことはできなかった。
「ウェルダンじゃ済まなかったか」
丸焼きにしたコボルドシーフは黒焦げになっており、それが崩れて光の粒子に分解され、ドロップアイテムがジャック・オ・ランタンのコックピットのサイドポケットに転送された。
『コボルドシーフに避けられたのが普通にショック』
「隠れてるコボルドを襲うだけで気が緩んでたんじゃないか?」
『そうかも。やっぱり、動いてる敵を撃ってないと勘が鈍るわ』
弾を外した相手がコボルドシーフだからどうにかなったけれど、これがもしももっと強い相手への奇襲だったとしたら手痛いミスである。
次は外さないようにしなければと麗華は気を引き締めた。
コボルドシーフを倒した後、壁の罅が入っているゾーンを抜けてコボルド達は普通に通路の向こう側からやって来た。
今度はコボルド達が位置を入れ替えながら接近してきており、ピンポイントで来る遠距離攻撃を避けられるようにしている。
3階層のコボルド達もやられっぱなしの馬鹿ではないようだ。
「更科、援護いるか?」
『大丈夫。目が慣れればどうってことないよ』
麗華はそう言って立て続けに三発の弾を撃ったが、それぞれ後ろにいる個体も含めてまとめて撃ち抜いていた。
有言実行する麗奈の射撃の腕は、恭介にとって実に頼もしく感じた。
戦利品回収を済ませて先に進もうとしたところで、恭介がジャック・オ・ランタンの腕を横に出した。
これは麗華に止まれと合図したのだ。
この合図を出したということは、ここから先に何かあることは間違いない。
『隠し部屋?』
「いや、そういう感じじゃない。多分トラップだ」
『トラップ? 3階層で?』
「油断禁物だ。例えばほら」
恭介は適当に落ちていた石を拾い上げ、トラップがあると思しき場所に投げ込んだ。
その瞬間、石が触れた場所と天井から岩の棘が一気に発生した。
手前から奥の方に岩の棘がどんどん発動していき、それが奥の方にいるコボルド達の動きを止める。
「一丁上がり」
『おぉ、すごい。私も次はやりたい』
岩の棘に刺されて力尽きたコボルド達を見て、麗華もあれができれば弾を節約できると感じたのでチャレンジしたいと申し出た。
恭介は麗華が罠に嵌める経験を積んでおくのは悪いことじゃないと判断し、その後の道中では麗華に同じことをやらせてみた。
GBO時代はやったことがあったため、リアルでも一度やればコツが掴めたらしく、昇降機が見える頃には罠での嵌め技を自分の攻撃手段にできていた。
そして、昇降機の前に待ち構えているコボルドだが、双剣と革鎧を着た傭兵のような姿だった。
「コボルドソルジャーか」
『傭兵アイドルの二つ名を持つ私としては、どちらが本物か白黒つけないといけないわ』
「わかった。ここは任せる」
『ありがとう』
麗華が1対1を望んでいたので、恭介は自由にやらせることにした。
昇降機の前の通路は比較的今までの通路よりも広く、一見好きに暴れられそうに見えた。
しかし、恭介も麗華も今までの道のりで罠があったのに、この場に罠がないなんて考えるおめでたい頭はしていない。
コボルドソルジャーは遠距離攻撃を潰さねばと思ったらしく、通っても問題ない場所を走って麗華の操縦するキュクロと距離を詰める。
コボルドソルジャーが通った場所は安全だと判断し、麗華はコボルドソルジャーに嵌め技を仕掛ける。
ライフルで撃った弾丸で罠を起動させ、岩の棘がどんどん通路を狭めていく。
通路が狭まればコボルドソルジャーの動ける範囲が狭まるから、麗華は逃げ場をなくしてからコボルドソルジャーの頭を基準に偏差射撃をしてみせた。
双剣で防ごうとしたけれど、あっさり吹き飛ばされてしまってコボルドソルジャーは力尽きた。
『傭兵を名乗るのは100年早かったわね』
通信越しに聞こえた声から、麗華はドヤ顔になっているだろうと恭介は思っていたが、正にその通りだった。
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