第13話 ゴブリン殺すべし

 2階層に来た恭介達は、昇降機を出てすぐの所に魔法陣があるのを見つけた。


 このタイミングでフォルフォルが2人のコックピットのモニターに現れる。


『あの魔法陣を使えば、GBOの時と同じようにタワーの外に脱出できるよ。2階層が解放されたから、タワーの前にこれとリンクする魔法陣が設置されてるよ。階層が解放されるごとに行き先が増えるのも同じだね』


「それは良かった。更科、まだ行けるよな?」


『問題ないわ。あと1階層クリアしたらお昼に丁度良いんじゃない?』


「そうだな。じゃあ、2階層を探索しよう」


『うん』


 タワーの脱出手段が確保できたこともあり、一度脱出する選択肢もあった。


 それでも、恭介も麗華もまだ休まなくても平気だったから探索を続けることにした。


 2階層は1階層と同じく石造りの建物の内装だが、現れるモンスターがスライムではなかった。


「ゴブリンだ」


『ゴブリン殺すべし』


 ゴブリンは緑色の醜悪な面をした小鬼だ。


 身長は子供ぐらいだが、腹が膨らんでいて鎧は着ずに腰蓑を身に着けている。


 持っている武器は個体によるが、割合として多いのは手斧と棍棒である。


 ゴブリン殺すべしと麗華が口にしたのは、ゴブリンは1体見たら30体いると言われる雑魚モブモンスターだからだ。


 スライムは武器を使わないけれど、ゴブリンは武器を使う。


 武器を使って囲まれるとゴーレムの損耗が激しくなるから、見つけた個体からさっさと倒して囲まれないようにするのがGBOにおけるセオリーなのだ。


「「ゲヒッ」」


 現在、恭介達の前に現れたゴブリンは2体であり、それぞれ手斧を持った個体と棍棒を持った個体である。


 その2体が獲物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべ、恭介達に向かって突っ込んで来た。


「手斧の方は俺がやる」


『了解。棍棒は私ね』


 対応する個体を決めれば、恭介も麗華もあっさりとゴブリンを倒してみせた。


 ゴブリンからのドロップアイテムを回収したら、恭介達はその場に留まらずに前進する。


 しかし、すぐに行く手を阻むようにゴブリンがわらわらと群れて集まって来た。


「ゴキブリみたいにうじゃうじゃ湧いてるなぁ」


『キモ過ぎんのよ!』


「おいおい」


 ゴブリンの群れの存在を許せなかったようで、麗華はライフルからガンガン弾を撃ってゴブリンを狩っていく。


 一発の弾丸で複数のゴブリンを撃ち抜くのはありがたいけれど、それに伴ってヘイトも稼いでしまう訳だから、前衛として麗華を守ることになる恭介としてはツッコまざるを得ない。


 GBOにおいて銃系武器の弾丸は燃料の魔石を消費して撃つから、乱発は好ましくないのだ。


「更科、そろそろ止めろ。後は俺が倒すから温存しとけ」


『…ごめんなさい』


 ここが現実だからこそ、ゴブリンの醜悪さにも磨きがかかっている。


 それゆえ、麗華がゴブリンの接近を嫌がって乱射した気持ちもわからなくはない。


 だが、戦場において冷静さを失った者はやられるのが世の常だから、恭介は麗華を注意した。


 麗華も恭介の真剣な声で冷静さを取り戻したため、自分のミスを反省して謝った。


 恭介が残党を始末した後も、ゴブリン達は恭介達の探索を邪魔するように現れる。


「キリがないな」


『ドロップした魔石があるから燃料的には平気だけど、集中力を切らさないようにするのが大変よね』


 通信で喋ってはいるものの、恭介も麗華もゴブリンを倒す手を止めていない。


 視界がクリアになるまでゴブリンを倒したところで、恭介は直感的にこの周囲に何かあると感じた。


 銃剣で石畳をコンコンと叩くと、ゴゴゴと音を立てながら前方の床が左右に開いて穴が生じ、穴の中から宝箱がせり上がって来た。


 宝箱が現れた途端、恭介のコックピットのモニターにフォルフォルが現れる。


『俺でなきゃ見逃しちゃうね』


「そのネタはもうやっただろ?」


『変化を求めるのか。わかった。次までに新しいネタを探しとくよ』


「探さんでよろしい」


『そんなぁ』


 フォルフォルはネタに走ることが生き甲斐なのにと言わんばかりにがっかりするが、恭介は面倒だからスルーしておいた。


『明日葉さんすごいね。プラクティスタワーの時もそうだったけど、なんでわかったの?』


「勘だな。何かこの辺りにありそうって思ったから、注意深く床を見て怪しい所を叩いた。ほら、俺が銃剣で叩いた所って石畳の石の形が他と違うだろ?」


『…うん。長方形じゃなくて正方形だね。でも、こんなの普通見逃しちゃうってば』


 麗華の言葉にフォルフォルが先程言ったネタを思い出したけれど、恭介はそれを表情に出さず、罠がないことを確認して宝箱の蓋を開く。


 その中身がライカンスロープのコックピットのサイドポケットに転送された。


 宝箱の中身は5万ゴールドに加え、ゴーレムの設計図だった。


 フォルフォルが感心したような表情でモニターに現れる。


『おめでとう。ジャック・オ・ランタンの設計図だ。これで恭介君は魔法使いになれる。あっ、あと数年で魔法使いだったね』


「フォルフォル、プライバシーって言葉知ってる?」


 祝って来たかと思いきや、しれっと個人情報を絡めて下世話な話をし始めるフォルフォルに対し、恭介はジト目で訊ねた。


『私に攫われた時点で君達にないものだよね。というか、どどどど童貞ちゃうわ! ってリアクションを求めてたんだけどなぁ』


「そんなこと知るか。でも、火炎放射が使えるのは便利だ」


 ジャック・オ・ランタンはGBOにおいて、魔石のエネルギーを炎に変換して放射できる火属性限定のゴーレムである。


 近接攻撃で使う武器を装備しつつ、距離が離れている敵に火炎放射で攻撃できるなら戦略は増える。


 四足歩行はできなくなるけれど、タワー序盤にしては良い設計図を手に入れられたと言えよう。


 麗華はそろそろ訊いても良いだろうと判断し、恭介に通信で訊ねてみる。


『明日葉さん、宝箱の中身はなんだった?』


「5万ゴールドとジャック・オ・ランタンの設計図」


『うぅ、明日葉さんばかり良い物引いてる気がする。私なんてスポーンルームだったのに』


「頑張れ。宝箱探しは勘と観察眼を鍛えるっきゃない」


『は~い』


 1階層では宝箱を見つけられるのではと期待したが、辿り着いた先がスポーンルームだった麗華にとって、恭介を羨ましく思わないことなんてできない。


 恭介から具体的なアドバイスを受け、運だと断じられなくて良かったと思う反面、勘や観察眼を鍛えるのって難しそうだとも思った。


 宝箱の前で時間がかかっていたからか、恭介達の前に1体の体の大きなゴブリンが現れる。


「珍しいな。ホブゴブリンだ」


『明日葉さん、あいつは私がやる』


「了解。もしもの時以外は見守ってるよ」


『ありがとう』


 麗華がホブゴブリンを自分だけで倒したいと言ったことには理由がある。


 それはレアモンスターを倒した時のドロップアイテム狙いである。


 ブロンズスライムのドロップアイテムは、通常のスライムと違って魔石と5千ゴールドが手に入った。


 お金が欲しい麗華としては、ホブゴブリンも手に入るであろうお金は是非とも手に入れておきたいのだ。


 ちなみに、昇降機を守るように配置されたモンスターも通常のモンスターよりドロップアイテムが良い。


 宝箱を見つけられないのなら、レアモンスターや昇降機の前にいるモンスターを倒すしかない。


 それはさておき、ホブゴブリンはカッパー戦槌ウォーハンマーを強く握り締め、麗華に向かって突撃し始める。


『体が大きくなったぐらいで勝てると思わないでね』


 麗華がライフルで射撃したところ、ホブゴブリンはその弾丸を戦槌ウォーハンマーで弾き飛ばそうとした。


 ところが、青銅ブロンズ製のライフルから放たれた弾丸がカッパー戦槌ウォーハンマーに敵うはずなく、弾丸が触れた瞬間に戦槌ウォーハンマーが破壊された。


 これにはホブゴブリンもポカンとしてしまい、その隙に麗華がヘッドショットを決めた。


「お疲れさん」


『余裕よ、余裕』


 麗華はホブゴブリンなんて取るに足らないと言わんばかりの態度だった。


 その後、昇降機を見つけた恭介達はそれを守るゴブリンエリートをサクサク仕留めて昇降機に乗り込んだ。


 (エリートって割にホブゴブリンと大差なかった気がする)


 昇降機で3階層に移動している間、素人に毛が生えた程度の剣の腕前で襲い掛かって来たゴブリンエリートとの戦いを振り返り、恭介は所詮ゴブリンだったと結論付けた。


 3階層に到着したのは昼食には少し早い時間だったけれど、もう1階層探索するには集中力が怪しいから、恭介と麗華は魔法陣の上に乗ってタワーを脱出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る