第7話 最近の若い子ってそんなことするんだ…
増設が完了した食堂に早速入ってみた恭介達は、無料自動配給システムで料理が出て来るGBOの食堂を目の当たりにした。
「アップデートしないと三食が黒パンと味の薄いスープだったっけか」
「アップデートしなきゃ。あっ…」
麗華はすぐに
現在、麗華の所持金は1万5千ゴールドしかない。
私室の増設にも5千ゴールド使うとして、自由に使えるお金は1万ゴールドだけだ。
自分のギフトが
それでも、三食が黒パンと味の薄いスープなのは嫌だった。
どうしたものかと麗華が唸っていると、恭介が1万ゴールド払って食堂をアップデートした。
「え?」
「使える金が限られてるんだろ?
「その通りだけど、明日葉は良いの?」
「食事が質素だとモチベーションが上がらないだろ? 俺にはまだ金に余裕があるから、今回は俺が奢るよ」
「…ありがとうございます」
恭介の余裕がある態度を見て、麗華は素直に頭を下げた。
(あんまり気にされるのも面倒だよな)
麗華が自分に対して負い目を感じてしまうと、これから始まる共同生活に支障が出てしまう。
そう考えた恭介はニッと笑って声をかける。
「困った時はお互い様だ。俺が困ってる時に更科が助けてくれればそれで良い」
「わかったわ。借りは必ず返すから」
「おう。よろしく頼むわ。さあ、何か食べようぜ。腹減って来た」
「うん」
一度アップデートしたことにより、食堂のメニューが日替わり定食に代わった。
あくまで日替わりだから、その日は全部同じメニューになるけれど、それでも黒パンと味の薄いスープが続くよりずっと良いに決まっている。
無料自動配給システムから出て来たのは、バターロール2つとクリームシチュー、サラダだった。
水は食堂に常設されているウォーターサーバーからいくらでも飲めるとわかり、それをアップデートしなくて済んだことに恭介も麗華もホッとした。
「「いただきます」」
食堂にある時計では午後9時と表示されており、夕食にしてはやや遅めの時間だ。
2人は喋りながら食事を楽しむのではなく、空腹を満たすために完食するまでノンストップだった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま。思ったより美味しかったわね」
「そうだな。余裕が出たらもう一度アップデートしたいところだ」
「そうね。私も頑張って節約する」
「馬鹿言うな。最優先は命だ。ヤバいと思ったら
美味しい食事のために自分の命を危険に晒そうとする麗華に対し、恭介は待ったをかけた。
優先順位を履き違えられては困るから、間違っても麗華に節約してくれとは言えないだろう。
「でも」
「でもじゃない。そりゃ、無双したいとかいうアホな理由で
「わかった。明日葉って良いお父さんになれるよ」
年下の麗華にそこまで言われる程老けているつもりはないから、恭介は違うんだと首を横に振る。
「お父さんじゃない。俺はまだ27だぞ」
「私と5歳差だったんだね。落ち着いてるから30超えてるかと思った」
「どーせ見た目より年上に見えるよ畜生」
誤解のないように補足するならば、恭介は決して老け顔ではない。
ただし、落ち着き方が社会人経験で10年は超えているだろう雰囲気なだけだ。
麗華は恭介に食堂のアップデートをしてもらったにもかかわらず、恭介のメンタルにダメージを与えてしまったことを不味いと思った。
恭介を傷つけるつもりなんてなくて、思ったことを素直に口にしてしまっただけなのだ。
これ以上年齢の話を続けるのは良くないと思い、麗華は別の話題を提示する。
「ごめんね。ところで、明日葉のパイロットネームがトゥモローなのって苗字から取ったの?」
「ん? あぁ、そうだよ。凝ったパイロットネームを考えるのは面倒だから適当に決めた。更科はなんで福神漬けなんだ? 福神漬け好きなの?」
「よくぞ聞いてくれたわね。私の名前は更科麗華でしょ? 麗華を早口で繰り返し言い続けるとカレーって聞こえて来るじゃない? じゃあカレーにしようかなってキャラ名を打ち込んだら先客がいたから、被らないようにと思って福神漬けにしたの」
「あっはい」
そこでカレー関連を諦めずに福神漬けにした拘りや、らっきょうじゃなくて福神漬けにした理由もツッコミどころだったが、訊けば独特の理論を展開して来るだろうと思って恭介はツッコまなかった。
麗華はいつかツッコまれるのではないだろうかと思い、そうなるぐらいなら自分から言おうと覚悟を決めて口を開く。
「あのさ、就活生なのにゲームしてたなんてとか説教したりしないの?」
「なんで? 就活生だからってゲームしちゃいけないなんて法律はないじゃん」
「いや、ほら、私ってばGBOじゃ有名になるぐらいやり込んでたし」
「そんなの個人の責任だろ。まさか、就活生を名乗っておきながら就活してないって言うなら就活生を名乗るなぐらいは言うけどさ、そうじゃないんだろ?」
麗華は受け身な性格でもなければ、プライドがなく誰にでも媚びへつらうような性格でもない。
短い時間でもそれぐらいのことは恭介もわかったから、麗華が就活せずにゲーム三昧な暮らしをしていたとは思っていなかった。
「うん。一応、既に入りたいって思ってる会社にはGWの後で内定を貰ったから就活は終わってるの。単位も残りは週一のゼミだけだから、ゼミとバイト以外の時間でGBOをしてたんだ」
「だったら何も気にすることなくね? 堂々とGBOをすれば良いじゃん」
「私ね、お堅い家の子だから、お父さんもお母さんも色々厳しいんだ。だから、一人暮らしをしてるけど、1ヶ月に1回はどっちかが視察に来るんだよね」
「それはまたすごいな。というか、そんなんでよく一人暮らしを許可されたもんだ」
恭介の想像する通りなら、そのタイプの親は娘が大学に行くのに一人暮らしなんてさせないだろうと考えていた。
しかし、実際には麗華が一人暮らしする権利を勝ち取ったようなので、どうやって両親を説得したのか気になった。
「実家は長野なんだけど、通いたい大学が実家から通学できない距離だったの。お父さんが一人暮らしに反対して実家から通える大学に行けって言って来たんだ。でも、私はそれが嫌で行きたい大学を志望する理由を資料を使ってプレゼンしたら、お父さんが渋々一人暮らしを許可してくれたの。まあ、そのせいでちゃんとプレゼン通りにやれてるか確認するために視察されてるんだけど」
「最近の若い子ってそんなことするんだ…」
「明日葉、そのリアクションはおっさん臭い」
「いや、おっさん臭いって言うなよ。冗談のつもりで言ったのに凹む」
麗華に更科家って変だなとストレートに言う訳にもいかないから、敢えて最近の子なんて言い回しをしたのだが、麗華に真顔でおっさん臭いと言われて恭介はショックを受けた。
真顔だった麗華だが、すぐに優しく微笑む。
「もう、無理に気遣わなくて良いよ。どうせ私の家が変だって言うのは躊躇われたからそう言ってくれたんでしょ?」
「俺、わかってて年上を虐めるのは良くないと思うんだ。ちなみに、何処の大学に通ってんの?」
「K女子大だよ」
「すげぇ。お嬢様じゃん」
麗華の通っている大学がお嬢様大学と呼ばれていることは知っていたので、恭介はこれぐらい言っても良いだろうと思ったリアクションを口にしてみた。
「そのリアクション、よくされる。面接官も大体そんな感じだった」
「そりゃそうでしょ。K女子大出身の人なんて滅多に見ないし」
「私みたいに民間企業に就職しようとするケースはレアだからね。5割公務員で4割が芸術関係、民間企業は1割に満たないもの」
「へぇ~。それで、どの会社を受けたんだ?」
ここまで話を聞いたんだから、ついでに質問してしまえと恭介は思い切って訊ねた。
「グリードアグリ」
「マジ? 俺の未来の後輩かよ」
「うわぁ、こんな偶然あるんだ」
恭介は麗華が未来の後輩社員だと知って驚いたが、それは麗華も同じだった。
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