第5話 俺がゴーレムだ!

 宝箱の中身は5万ゴールドとゴーレム1機分を賄える青銅ブロンズだった。


 GBOにおいて、宝箱は開けた者が操縦するゴーレムのコックピットのサイドポケットに転送される。


 サイドポケットに入らない場合は目録だけが転送され、待機室パイロットルームや格納庫で実体化できる仕組みだ。


 なお、タワーを複数名で探索中に宝箱を開けた時は、宝箱を開けた者が任意でパーティーメンバーに宝箱の中身を振り分けることもできる。


「更科、お前に2万ゴールド送る。ギフトを試すのに役立てろ」


『良いの? 私、隠し通路に関しては何もしてないけど』


「ギフトを試し、レベル上げもしないでチュートリアルを終えるつもりか? 俺達の強化が日本の今後に影響するんだぞ?」


『…ありがとう。借りは必ず返すから』


 自分の力で手に入れてない物を貰うのは抵抗があった麗華だけど、その拘りのせいで恭介に迷惑をかける訳にもいかない。


 恭介に迷惑をかければ、状況によっては日本の情勢が悪い方に傾くことだってあり得るのだから、麗華は素直に感謝して2万ゴールドを受け取った。


 そのやり取りを見て、ニヤニヤした表情のフォルフォルが麗華のコックピットのモニターにだけ現れる。


『明日葉って頼りになるのね(トゥンク)』


『煩い馬鹿!』


『え~? 麗華ちゃんの気持ちを代弁しただけなのに~』


 フォルフォルに揶揄われた麗華が顔を真っ赤にして抗議すると、フォルフォルは悪びれもせずにニヤニヤしたまま応じる。


 麗華を揶揄うだけが目的だから、フォルフォルは今のやり取りを当然恭介にも聞こえるように通信回線を開きっぱなしにさせている。


 揶揄うことに全力を尽くすあたり、フォルフォルの性格の悪さが滲み出ている。


 それはさておき、恭介が隠し通路を戻って元の道に戻ると麗華はその後に続いた。


 昇降機に乗って2階層に移動した2人は、早々に4体の新しいモンスターと遭遇する。


「4色のハウンドか。俺がレッドとグリーンをやる」


『了解。それなら私はイエローとブルーね』


 現れた4種類のハウンドとは、レッドハウンドとブルーハウンド、イエローハウンド、グリーンハウンドのことだ。


 色が頭に付くモンスターは必ずそれぞれ色に対応した属性を持つ。


 もっとも、色が頭に付かなくとも属性を持つモンスターもいるのだが、それはまだまだ先の話だろう。


 レッドハウンドなら火属性、ブルーハウンドなら水属性、イエローハウンドなら土属性、グリーンハウンドなら風属性である。


 恭介は火属性のベースファイターを使っているから、属性の相性的にグリーンハウンドを相手するのが好ましい。


 レッドハウンドは麗華が操縦する風属性のベーススナイパーと相性が悪いから、それも恭介が担当することにした。


 それと同様に、麗華は自分にとって相性の良いイエローハウンドと恭介と相性の悪いブルーハウンドを引き受けた訳である。


 プラクティスタワーに出て来る雑魚モブモンスターならば、恭介と麗華が遅れを取るはずもなく、1分もかからずに殲滅が完了した。


 恭介は赤い魔石と緑の魔石、資源カードを手に入れ、麗華は青い魔石と黄色い魔石、資源カードを手に入れた。


「サクサク行くぞ」


『了解』


 恭介も麗華も各種ハウンドとの戦闘なら大して苦労せず対処できるから、その後も遭遇しては倒すのを繰り返した。


 20分後には3階層に続く昇降機を見つけ、2人はそれぞれのゴーレムを昇降機の中に移動させる。


『この階層には隠し通路はなかったみたいね』


「そうだな。まあ、プラクティスタワーで隠し通路が2回もあるとは思えないが」


『それは言えてる。チュートリアルで大盤振る舞いはしないよね』


 そんな話をしている内に昇降機は3階層に到着した。


 3階層はスタートから広間になっており、そこにはボスモンスター達が恭介達を待ち受けていた。


「やっぱりボスもマルチ仕様か」


『ここで1体はないでしょ』


 ボスモンスターは2体いたが、これはマルチプレイでプラクティスタワーに挑む時の仕様である。


 そもそも、マルチプレイは4人まで同時に探索できるようになっており、プラクティスタワーの場合はパーティーメンバーの数だけボスモンスターが現れるようになっている。


 さて、プラクティスタワーのボスモンスターだが、赤い大猪と青い大猪の2体だ。


 プラクティスタワーのボスモンスターは、必ずゴーレムと相性の悪い属性で出て来る。


 だが、マルチプレイで各々が属性を別にしていれば、ターゲットを交換することで対処できると言えよう。


「レッドボアは俺がやる」


『ブルーボアは任せて』


 すぐに役割分担を済ませ、恭介はターゲットのボスモンスターとの戦いに集中する。


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言した瞬間、ベースファイターのコックピットにいたはずの恭介がドラキオンのコックピットの中に移動していた。


 (ん? カウントダウンが視界に映る仕様なのか)


 視界の端に6分からカウントダウンしていくタイマーが表示されたため、黄竜人機ドラキオンの制限時間はそこで確認できることを理解した。


 ドラキオンのコックピットに移動してテンションが高くなってしまったようで、恭介にしては珍しくフォルフォルに揶揄われそうなことを口走る。


「俺がゴーレムだ!」


 そのまま恭介はレッドボアに向けてドラキオンを動かす。


 ベースファイターと違ってドラキオンには翼があり、空を飛ぶことだってできるし推進力が高い。


 ドラキオンの剣を横に構えてレッドボアとすれ違うだけで、レッドボアは真っ二つになって光の粒子に変換された。


 剣の切れ味もさることながら、スピードが乗った状態では剣を振らずともレッドボア程度なら切断できてしまうのである。


 一瞬にしてレッドボアとの戦いを済ませた恭介を見て、麗華はコックピットの中で羨ましがった。


『何あれ狡い! 私もあんな感じで強キャラ感出したい!』


「目の前の敵に集中しろよ」


『ぐぬぬ。だったらこっちもやってやる! ギフト発動!』


 通信回線は開きっぱなしにしていたため、麗華が自分の戦いに気を取られていたと知り、恭介は至極当然な注意をした。


 麗華も正論に言い返せず、恭介に貰ったゴールドを今こそ使う時だと判断して金力変換マネーイズパワーを発動した。


 プラクティスタワーのモンスターの強さは、バイオラットを1としてハウンドが4、ボアが9というところだ。


 したがって、ヘッドショットを決めるにしてもハウンドを倒した時の2倍以上の威力がなければ、目の前のブルーボアを一撃で仕留められない。


 ハウンドを倒した時にもまだ余力はあったが、それでも今のスペックではブルーボアを一撃で仕留めるには威力不足だ。


 それゆえ、麗華は1万ゴールドで10ポイント上げて通常時の倍の威力が出るようにした。


 ブルーボアは突撃するだけの単純なモンスターだが、その突進力を馬鹿にしてはいけない。


 麗華に攻撃させる暇なんて与えてやらないとブルーボアが突進し始めるが、麗華は落ち着いてライフルの引き金を引く。


『ファイア』


 ベーススナイパーのライフルから弾丸が発射され、それが突進中のブルーボアの脳を貫通し、その勢いでブルーボアは後ろに倒れながら光の粒子になって消えた。


 ボス部屋の場合、全てのモンスターを倒さなければドロップアイテムは出て来ないので、麗華がブルーボアを倒したタイミングで恭介と麗華のコックピットのサイドポケットにドロップアイテムが転送された。


 ボスのドロップアイテムは倒したボアの属性の魔石と資源カードに加え、ベースゴーレム1体分のカッパーだった。


 それを2人が確認したところでコックピットのモニターにフォルフォルが現れる。


『しゅぅぅぅりょぉぉぉ! スコア発表をはぁじめるよぉぉぉぉぉ!』


 煩いと思った恭介だが、黙って黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 それにより、先程までカウントダウンが表示されていた視界の端に日付が変わるまでのカウントダウンが表示された。


 (ギフトの再使用時間リキャストタイムがわかるのは便利だな。感謝するよ)


 代理戦争の状況によっては徹夜になる可能性もあるから、日付が変わるまでの再使用時間リキャストタイムが簡単にわかると知って恭介はホッとした。


 何故なら、黄竜人機ドラキオンはギフトレベルが上がるにつれてドラキオンを操縦できる時間が延びるからだ。


 ギフトレベルが上がる程、次に使えるまでの使用時間が遠く感じるのは嫌だから、日付変更までのカウントダウンだったことに恭介は感謝したのである。


 ギフトのことは置いておくとして、コックピットのモニターにはGBO時代にもあったプラクティスタワーを踏破に伴うスコアが表示された。

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