第4話 俺でなきゃ見逃しちゃうね

 恭介と麗華がカスタマイズを終えたタイミングで、コックピットのモニターにフォルフォルが映し出される。


『カスタマイズも終わったようだし、チュートリアルもいよいよ大詰めだね。恭介君と麗華ちゃんにはプラクティスタワーに挑んでもらうよ』


「やっぱあるのか」


『ここまでゲームに忠実ならあって然るべきよね』


 フォルフォルの言うプラクティスタワーとは、パイロットが最初にカスタマイズしたゴーレムの試運転をする塔のことだ。


 全部で3階層から成り、道中の雑魚モブモンスターと最上階のボスモンスターを倒せば、チュートリアルは完全に終わる。


 格納庫には転移門ゲートが存在し、それを通ってメインシナリオのタワーやレース会場、イベント会場等に移動できる。


 プラクティスタワーに行くにも当然ながら転移門ゲートを使う。


『チュートリアルだから、特別に君達のゴーレムの燃料は満タンにしてあるからね。それじゃあ恭介君、麗華ちゃん、出撃してどうぞ』


「ベースファイター、出撃する」


『ベーススナイパー、出撃するわ』


 カタパルトから発進すればかなりガ〇ダムっぽいのだが、初期の格納庫では転移門ゲートに続くカタパルトが存在しない。


 その結果、ベースファイターもベーススナイパーも飛べないから歩いて発進するため、ちょっと間の抜けた出陣であった。


 転移門ゲートを通った先はプラクティスタワーの1階層だ。


 石造りのタワーなのに破壊不能オブジェクトだから、どれだけゴーレムで暴れてもプラクティスタワーが崩れる心配はしなくて良い。


 不思議なことは他にもあり、タワー内部ではいかなるゴーレムもサイズが2mに縮む。


 レースの時はそうならないのだが、タワー内部や代理戦争のイベント会場ではゴーレムのサイズが縮むのだ。


「更科、マルチプレイの経験は?」


『私、傭兵プレイしてたもの。ソロでもマルチでもどんと来いよ。明日葉、さんは?』


「ソロ専門だ。無理にさん付けしなくて良いぞ。多分俺の方が年上だろうけど、今はさん付けとか些細なことに拘る意味がない。呼びやすいように呼べ」


『そう? 来年就職する身の私としては、無事にこのゲームが終わった時に年上を呼び捨てにする癖はなくしておきたいんだけど、それなら明日葉って呼ぶわね』


 (もう手遅れなんだよなぁ)


 そんな風に思っても恭介は指摘しないあたり、麗華に敬ってもらおうなんてつもりは更々ないようだ。


 プレイスタイルの確認を行いつつ、恭介達は恭介が前でその後ろに麗華がついていくフォーメーションで前進している。


 ベースファイターには初期武装の剣と盾があり、ベーススナイパーには初期武装のライフルと盾がある。


 ちなみに、ベースファイターもベースゴーレムも銅製で耐久力は最底辺だ。


 ゴーレムを構成する鉱物は以下のランクで格付けされている。


 ランク=硬度という解釈で、カッパー青銅ブロンズアイアン木目鋼ダマスカス聖銀ミスリル黒金剛アダマンタイトである。


 ファンタジー金属の括りではオリハルコンやヒヒイロカネが出て来ていないが、これはGBOがまだまだ発展途上のゲームで今後のアップデートで登場するというのがパイロット達の共通認識だった。


 そうなる前にデスゲームが始まってしまったため、このゲームで登場するかどうかは恭介や麗華にはわからない。


 恭介達が進んで行くと、ようやく雑魚モブモンスターと遭遇した。


 現れたのは灰色の体毛を持つ巨大ドブネズミで、その数は2体である。


 モンスターは体や名前の色ごとに属性が変わるが、赤青黄緑の4色以外のモンスターは無属性モンスターと呼ばれ、倒した時にドロップする魔石の属性はランダムで決まる。


 そういった観点で言えば、恭介達を邪魔するように現れたドブネズミは無属性モンスターに分類される。


「バイオラットだ。2体いる」


『ノルマは1体ずつで良いよね?』


「勿論だ」


 そう言って恭介は左側のバイオラットに接近し、剣を振り下ろした。


 バイオラットはGBO最弱を争う雑魚モブモンスターだが、酸性の唾の痰を飛ばす攻撃だけは厄介だ。


 この痰がゴーレムにかかると耐久値が下がり、痰がかかった部位に攻撃を受けた時に耐久度が通常よりも削れやすくなる。


 ゴーレムは頭部と胴体、右腕、左腕、右脚、左脚の6つのパーツから成り、コックピットである胴体さえ壊れなければパイロットは傷つかない。


 余談だが、コックピットだけは特殊なシェイプシフトメタルという金属でできており、胴体以外のパーツの金属と同じ金属に変質する仕様だ。


 コックピットは耐久度が未知数だけれど、ゴーレムの耐久度が下がるバイオラットの攻撃は受けたいものでもないから、バイオラットを見たら速攻で倒すのがパイロット同士の一般常識になっている。


「ヂュウ!」


「当たらないっての」


 野太い鳴き声の後に放たれた痰を華麗にジャンプして躱し、恭介の駆るベースファイターはその頭部を剣で斬り落とした。


 ベースファイターの持つ初期装備の剣を使った場合、最弱クラスのバイオラットとはいえ一撃で仕留めることは難しい。


 しかし、ジャンプして落下エネルギーを攻撃に上乗せした場合は話が別だ。


 モンスターは基本的に首を落とすか頭を潰せば倒せるので、跳び斬りで首を落とせばバイオラットも一撃で倒せる。


 ここまでの説明はあくまで理論上の話であり、それを実際にやれるパイロットはプレイヤースキルが極端に高い者だけだ。


 首を落とされたバイオラットは光の粒子に変換され、赤い魔石と見慣れないカードがドロップした。


 ドロップアイテムはGBO同様に自動でゴーレムに回収されるらしく、恭介はコックピットのサイドポケットに転送されてきたカードを手に取った。


「魔石は良いとしてこのカードはなんだ?」


『明日葉もカードをゲットしたんだね』


「更科の方も終わったか」


『ええ。バイオラット程度ならヘッドショット一撃よ。こんなところで無駄弾使えないもの。そんなことよりカードよ』


 カードの正体について首を傾げている2人だが、両者のコックピットのモニターにフォルフォルが現れて説明を始める。


『それは資源カードだ。大きく分けて食料と素材の2種類の絵が描かれてるだろ? このカードを待機室パイロットルームのカードリーダーに挿入すれば、君達の所属する国に資材が送られる仕組みなんだ』


「へぇ。資源の入手はそんなシステムだったのか」


『チュートリアルではそういうところも教えてくれるのね』


『そりゃそうだよ。教えないと資源カードを手に入れても無視してプレイするパイロットが現れるかもしれないじゃん。そんなことになったら、代理戦争で勝っても意味ないでしょ?』


 その通りだと恭介も麗華も頷いた。


 資源カードを手に入れても資源を国に送れなくては意味がない。


 フォルフォルもゲームが成り立つように、デスゲームの肝になる仕組みはちゃんと説明するのは当然だろう。


 説明を聞き終えた恭介達は1階層の探索を再開する。


 何度かバイオラットと遭遇したけれど、恭介も麗華も危なげなく対処して2階層に繋がる昇降機を見つけた。


 昇降機はタワーを上り下りするために欠かせない。


 人間ならば階段でも十分だが、ゴーレムが上れる階段となるとサイズの面でも耐久力でも難があるから、GBOにおいて階層の移動は昇降機によって行われるのだ。


 昇降機を見つけて麗華はベーススナイパーを操作して昇降機に向かうが、恭介は右側の壁が気になるようで立ち止まっていた。


『明日葉、何やってるの? チュートリアルなんて時間をかけるものじゃないわ。さっさと2階層に行きましょうよ』


「ちょっと待った。俺の勘がこの壁は怪しいと告げてる」


『勘? 私にはただの壁のように見えるけど』


 そう言いつつも麗華は恭介の隣までやって来た。


 黄竜人機ドラキオンのギフトを運良くゲットした恭介ならば、その運でまた自分達にとって何かアドバンテージになる物を見つけられるかもしれないとちょっぴり期待したようだ。


 恭介は自分の勘を信じて壁の正面まで進み、試しに盾で触ってみることにした。


 ところが、ベースファイターの盾は壁をすり抜けてその中に入り込んでしまった。


「ビンゴ」


『明日葉すごっ…』


 麗華は恭介が隠し通路を見つけたことで口をぽかんと開けた。


 その後すぐに恭介のコックピットのモニターに決め顔のフォルフォルが現れる。


『俺でなきゃ見逃しちゃうね』


「勝手に心の声を捏造するんじゃない」


 自分の気持ちを代弁している風を装ってネタをぶち込んでくるフォルフォルにイラつき、恭介は静かにツッコんだ。


 隠し通路を見つけて放置する訳ないので、恭介達はそのまま壁を通り抜けて隠し通路に入った。


 隠し通路の先には小部屋があり、そこにはゲームで定番の宝箱が安置されていた。


『明日葉ってもしかして隠し通路を見つけるのは初めてじゃない?』


「まあな。ドラームドをドラキオンをにする時に必要だったアイテムは、隠し通路の宝箱から拾った」


『良いなぁ。ユニークゴーレム良いなぁ』


 ドラキオンがユニークゴーレムであることは麗華も知っていたので、彼女は心底羨ましそうに言った。


 恭介はそこで自慢して煽るような性格でもないから、罠がないことを確認して宝箱の蓋を開いた。

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