第3話 実家に帰って来た安心感がある

 恭介がボタンを押した直後、ガチャのレバーが回ってマシンからカプセルが1つ出て来た。


 そのカプセルがパカッと開き、”黄竜人機ドラキオンLv1”とモニターに表示され、それと同時に恭介の体が一瞬だけ光った。


『ほう、これは面白いギフトを引き当てたね』


黄竜人機ドラキオン? これって俺のゴーレムの名前だよな?」


 ギフトだと聞いていたにもかかわらず、モニターに映し出されていたのは待機室パイロットルームまでGBOで操縦していた愛機ゴーレムの名前だった。


 もしかしてとギフトの内容に心当たりはあったが、糠喜びだったら悲しいので恭介はその詳細を説明するようフォルフォルに促した。


『その通り。私はね、スターターガチャに君達がGBOプレイ時に操縦してたゴーレムをこのデスゲームでも使える権利を人数分入れといたんだ。明日葉恭介君、君は運が良いね。自分の愛機を使えるんだから』


「ありがたいね。ありがたいけどLv1ってことはドラキオンを操縦できる時間に制限があるんだろ? そこんところを教えてくれ」


『えぇ、そこはもうちょっと喜ぼうよー。恭介汁ブシャーとかまでは期待しないけどさー』


「ネタのチョイスが古い」


「なんでご当地キャラなのよ」


 恭介と麗華の口からツッコミが飛び出した。


 段々とフォルフォルの言動にも慣れて来たからなのか、2人は額に青筋を浮かべなくなって来た。


 人間とは適応する生き物とは正にこのことである。


『もっと感情を表に出してよね。それはそれとして、黄竜人機ドラキオンを発動すると君はドラキオンが召喚されてそのコックピットに転送される。Lv1だと6分間しか操縦できないよ。あぁ、そうだ。ギフトの使用は1日1回だから忘れないでね』


「ちょっと待って。私の金力変換マネーイズパワーも1日1回しか使えないの?」


『そうだよ。ギフトは全て1日1回に使用が限定される。再使用時間リキャストタイムが24時間ってことじゃなくて、あくまで日付変更でギフトの使用回数が増える仕様なんだ。伝え忘れててごめん。私は全知全能って訳でもないから許してね』


 麗華の質問を受けてフォルフォルは重要な情報を口にした。


 代理戦争ではギフトが勝敗の鍵になるかもしれないので、ギフトの使用制限についても恭介は心のメモ帳に記載しておく。


「フォルフォル、ギフトのレベルは全て上限が同じなのか? それと、俺の場合は操縦できる時間が増えるって認識で合ってる?」


『全ギフトのレベル上限は10だよ。君の認識に間違いはないと言っておこう』


「俺が別のゴーレムに乗ってる時に黄竜人機ドラキオンを発動したらどうなる? それまで乗ってたゴーレムが壊れるのか?」


『いんや、ギフトの制限時間中だけそのゴーレムは亜空間に転移して保管されるよ。時間が来るかギフトをキャンセルしたら、君は元々乗ってたゴーレムのコックピットに戻り、ドラキオンが亜空間に送還されるんだ』


 ギフトを発動する度に搭乗していたゴーレムが壊れるのは困るから、恭介はフォルフォルの説明を聞いてホッとした。


 それと同時に新たな質問が思い浮かんだ。


「ゴーレムの燃料はGBO時代と同じか? ギフトで召喚するドラキオンはどうなる?」


『ゴーレムの燃料はゲームの時と同じで魔石だよ。属性の一致する魔石の方が燃費は良いね。ドラキオンはギフトだから制限時間内は燃料を気にせずに動かせるよ。日付が変われば燃料も自動的に補給されるから安心して』


「何それ狡い」


 麗華は黄竜人機ドラキオンが燃料問題を無視できるギフトだと知って羨んだ。


 それに対してフォルフォルは悪びれもなく応じる。


『こればっかりは君達の運の問題だからね。私は一切手心を加えてないと誓おうじゃないか』


「ぐぬぬ」


 麗華が悔しがっていると、モニターに映るフォルフォルがいつの間にか身に着けていた腕時計を見る。


『さてそろそろ講義の時間は終わりだよ。これからは実戦の時間だ。格納庫に移動してもらうよ』


 恭介と麗華は待機室パイロットルームの扉が開いたため、フォルフォルの指示に従って隣の格納庫に移動した。


 格納庫にはフォルフォルの言う通り、赤銅色のベースゴーレムが2機並んで格納されていた。


「おぉ、ベースゴーレムだ」


「これがリアルにあるって不思議な感覚だわ」


 恭介と麗華がベースゴーレムを見て感動していると、待機室パイロットルームに追加されたモニターと同じ物が格納庫の壁に現れた。


『明日葉恭介君、更科麗華ちゃん、ベースゴーレムをカスタマイズしちゃいなYO』


「急に語尾が変になったな」


「というかなんでわざわざフルネームで呼ぶのよ?」


『パイロットはフルネームで呼ぶ設定なのさ。望むのなら名前呼びするけど良いのかい?』


 設定ってなんだと思わなくもなかったが、2人はそれにツッコまずに頷いた。


『OK。恭介ボーイと麗華ガール、ベースゴーレムをカスタマイズするのでーす』


「なんでペ〇サス?」


「普通に呼んでよ」


『しょうがないなぁ、恭介君と麗華ちゃんは』


 今度は青いネコ型ロボットの声を真似たフォルフォルだったが、恭介も麗華もスルーしてそれぞれのベースゴーレムのコックピットに乗り込んだ。


 いつまでもフォルフォルのボケに付き合ってはいられないからである。


 コックピットのシートに座って恭介はホッとした。


 (実家に帰って来た安心感がある)


 恭介がGBOを始めた理由は単純で、彼がロボット好きだからだ。


 ゴーレムというとモンスターのような印象を受けるかもしれないが、GBOにおけるゴーレムは完全にパイロットが乗り込むロボットである。


 だから恭介はフォールンゲームズがGBOの予約販売を始めた際、自分が社会人であまりゲームができないとわかっていても即座に予約した。


 今までは休日にロボットの出る漫画やアニメを見る程度に過ぎなかったが、GBOが出るとわかってからはVR機器やゲーミングチェアも購入していた。


 VRMMOのプレイ自体初めてだから、プレイするにあたって参考になりそうなサイトもくまなくチェックし、購入したGBOが届いてサービス開始した日は有給休暇も使って三連休みっちりGBOに費やした。


 廃人のようなプレイはできないけれど、体調を壊さない程度にGBOをプレイした恭介はゴーレムレースで才能を発揮し、今では瑞穂の黄色い弾丸と呼ばれるまでになった。


 フォルフォルのせいで国家の存亡を背負ったデスゲームに参加する羽目になってしまったが、ベースゴーレムのシートに座れただけでも恭介の心は癒された。


 それはそれとして、恭介はゴーレムを起動してカスタマイズを始めた。


 ベースゴーレムは巨大な鈍色のマネキンと呼ぶべき外見であり、カスタマイズすることでその外見が変わる。


 ゲームを開始して最初にカスタマイズするベースゴーレムと同様に、シート横のポケットには設計図が記録されたカードと赤青黄緑の4つの魔石が入っていた。


 GBOにおいて、設計図はカードにデータとして保管されている。


 最初にカスタマイズするカードには、特別にベースファイターとベーススナイパーの2パターンの設計図が入っており、片方を選んでカードを設計図リーダーに挿入することで、もう片方のデータが消える仕様だ。


 更にサイドポケットに入っている魔石の内1つを選んでベースゴーレムの属性を決め、それがゴーレムのカラーに変わる。


 魔石も4つの内1つを選んだ瞬間に残り3つが消える仕様だから、残念なことにここで全属性の魔石をゲットすることにはならない。


 (ドラキオンは土属性だから、それ以外の属性にした方が良いよな)


 ドラキオンが黄色いカラーリングなのは土属性のゴーレムだからだ。


 ちなみに、他は赤が火属性、青が水属性、緑が風属性という設定だ。


 属性間の相性は火<水<土<風<火と設定されている。


 ということは、ドラキオンだと水属性に強いが風属性には弱いという特徴がある訳である。


 もっとも、ドラキオンでも風属性を相手にして十分に戦える力があるのだが、普段使いできないので今は置いておこう。


 恭介はコックピット内にある通信装置を使い、隣のベースゴーレムに乗っている麗華に連絡する。


「福神漬け、ちょっと良いか?」


 恭介は本名とプレイヤーネームのどっちを呼べば良いかわからず、とりあえずプレイヤーネームで麗華を呼んでみた。


『ゲームじゃないんだからプレイヤーネームは止めて』


「じゃあ更科、あんたは風属性のベーススナイパーにするって認識で合ってるか?」


『その通りよ。なんだ、ちゃんと私のことわかってるじゃん』


「リアルとゲームキャラの外見が違うのに福神漬けだって名乗るから悪いんだ。とりあえず、俺は火属性のベースファイターにするんでよろしく」


『了解』


 恭介と麗華は日本の代表として他国の代表と戦わなければならない。


 プレイスタイルの棲み分けもスムーズに進み、2人のベースゴーレムはそれぞれ赤のベースファイターと緑のベーススナイパーになってカスタマイズは終了した。

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