第2話 良い質問ですねぇ

 光の壁で覆われた日本の映像は再び切り替わり、モニターにはフォルフォルが現れた。


『という訳で、今の日本は隔離されちゃってるよ。ついでに言うと、GBOのサーバーがある国も全てね』


「質問良いか?」


『私は一向に構わん』


『質問は2つだ。1つ目は俺達のいる現在地は何処か。2つ目はGBOのサーバーのない国はどうなってる?』


『順番に答えてあげる。1つ目は内緒。2つ目は時を止めた』


「「はい?」」


 フォルフォルは1つ目の質問にまともに答えず、2つ目の質問では俄かには信じられない答えを述べた。


『1つ目の質問は答えても意味がないんだ。答えても君達には認識できない言語に変換されるからね。多分、私が一言で場所の名前を言ったとして、君達の耳にはお経のように訳がわからない文字列が3分程聞こえるだけだ。無意味に時間を過ごしたいなら答えるけどどうする?』


「それなら1つ目の質問は取り消す。2つ目について詳しく教えてくれ」


『百聞は一見に如かずって言うよね。これ見て』


 フォルフォルが指パッチンした瞬間、画面が切り替わって世界地図がモニターに映し出される。


 そして、サーバーのない国は地図にこそ残っているけれど、恭介と麗華にもわかりやすいように人工衛星で撮影されたらしき白黒の映像が小窓で映し出された。


「どういうことだ? 人も車も動かないぞ?」


「しかも色が白黒だけになってるわ」


 恭介と麗華が十分に状況を把握しただろうと判断し、画面がフォルフォルの映ったものに切り替わる。


『私、ちょっと時を止めちゃいました☆』


 てへぺろするフォルフォルを見て、再び額に青筋を浮かべる2人だったが、怒らせて自分達が不利益を被りたくないので我慢した。


「なんでGBOができる国とそうでない国で差別化されたんだ?」


『偶然だよ。最近地球の営みが地味でつまんないから、どうやって面白くするかダーツで決めたんだ。そうしたら、ゲームで国家の未来を決めるってマスに止まったんだよね。じゃあどのゲームでって悩んでたら、丁度良いゲームがあったんだよね』


 フォルフォルの言い分を聞いて恭介と麗華は丁度良いの意味を理解した。


 GBOでは代理戦争というイベントが月に一度開催される。


 フォールンゲームズが用意した報酬を代理戦争の1位のサーバーが総取りし、代理戦争における貢献度でパイロットに報酬が配られるのだ。


「GBOのサーバーがない国は参戦権がないのはわかった。それで、参戦できる国は代理戦争によって何を得て何を失う?」


『得られるのは資源だ。賭けるのは君達の命。戦って負ければ君達は死ぬし、日本は滅ぶよ』


「ちょっと待ってよ! 意味わかんない! なんでそんなことしなくちゃならないの!?」


 麗華はゲームで自分が死ぬリスクを負うこと、日本も消えてしまう可能性があることはおかしいと抗議した。


『じゃあ参戦しないんだね? 不戦敗になれば君達は生きていられるかもしれないけど日本は滅ぶ。それでも良いんだね?』


「くっ…」


 フォルフォルが提示するのは強制参加のデスゲームだ。


 しかも、日本の存亡まで自分達の責任まで背負わされているから、参加しないなんて言えず麗華は黙るしかなかった。


 恭介も理不尽に巻き込まれたことに対する怒りはあるけれど、今はもっと情報が欲しいので冷静に質問を続ける。


「資源を得られるってところをもっと詳しく教えてくれ」


『良いよ。さっき日本が光の壁に隔離されてるのは見たよね? あれは参加国全ての国境がああなってる訳だけど、他所との繋がりが断ち切られた時にその国はどうなると思う?』


「自給自足ができなければ、その国は滅ぶしかない。あぁ、そう言うことか畜生」


『君みたいな賢いパイロットは好みだよ。花丸あげちゃう』


 フォルフォルが指で花丸を描くと、それが赤い花丸スタンプになって画面に映し出された。


 代理戦争では勝てば資源が手に入るから国家が存続できる。


 代理戦争で戦って死ねば、国の代わりに資源を手に入れる者が誰もいなくなるから国家は滅ぶ。


 代理戦争で不戦敗になれば、自分達は死ななくとも国家の存続に必要な資源が足りなくて滅びに繋がる。


 なんとも嫌なルールであることに恭介は気が付いたのだ。


 全部説明しなくてもそこまで理解した恭介に対し、フォルフォルは説明の手間が省けたと思ってほんの少しだけ機嫌を良くしている。


「質問を続けよう。GBOでは代理戦争が1ヶ月に1回だった。報酬としてどのぐらいの資源が用意されてるかわからないが、代理戦争だけでは賄いきれないんじゃないか?」


『良い質問ですねぇ』


「さっきからちょいちょいネタ挟むのはなんなの?」


『こう見えても私は君達と友好的な関係を気付きたいと思ってるんだ。だから、君達が知ってるであろうネタを挟むことで、君達との親密度を上げようとしてるんだ』


 そんな努力をするぐらいなら、デスゲームなんてしないでくれと恭介も麗華も思ったけれど、言ったところで無駄だと判断して口に出したりしなかった。


「わかった。それで、先程の質問に答えてくれないのか?」


『おっとごめんよ。通常のクタワー探索やレース等でも資源は稼げるんだ。ただし、にやってたら代理戦争で稼げる程の量は手に入らないだろうね』


 普通という言葉を強調するあたり、何か抜け道があるのかもしれないと恭介は心のメモ帳に記しておいた。


 今度は麗華が質問する。


「私達のゴーレムはどこ? ここにゴーレムなんてないし、GBOをやってた時のアイテムもお金も全てロストしてるよね?」


『君達のゴーレムは待機室パイロットルームの隣の格納庫にあるよ。と言ってもベースゴーレムだけどね。あぁ、他所のパイロットも同じ条件だから悪しからず』


「アイテムとお金は戻って来ないの?」


『そこはニューゲーム扱いだと思って割り切って。その代わりに一度限りのスターターガチャを用意したから』


「「スターターガチャ?」」


 GBOにはガチャシステムが導入されていない。


 課金システムはあるけれど、購入できるのはゴーレムを構成する鉱物だけであり、設計図や魔石は課金しても手に入らないようになっている。


 リアルの財力がなくともゲームでトップを目指せる仕様なのだ。


 だからこそ、スターターガチャなる言葉を聞いて恭介も麗華もびっくりした訳である。


『ほとんど一文無しからニューゲームなのは申し訳ないからね。さあ、どっちから引く? 2億4千万通りあるギフトの1つが貰えるよ』


 (無駄に多いな。これ、絶対にハズレも大量に混ざってるだろ)


 恭介も麗華もフォルフォルにジト目を向けた。


 それでも、少しでも自分達が有利に動ける可能性があるのだから、スターターガチャを引かない訳にはいかない。


「レディーファーストだ。先に引いて良いぞ」


「あら、口調の割に紳士なのね。では遠慮なく引かせてもらうわ」


 恭介は優しさから麗華に先手を譲った訳ではない。


 どんなギフトが手に入るのか、手に入れたギフトがどうやって自分に定着するのか麗華に実演させるつもりなのだ。


 麗華は特に何も考えていないらしく、恭介の好意に甘えてモニターに映ったガチャのボタンを押した。


 その直後にガチャのレバーが回り、マシンからカプセルが1つ出て来た。


 そのカプセルがパカッと開き、”金力変換マネーイズパワーLv1”とモニターに表示され、それと同時に麗華の体が一瞬だけ光った。


『ギャンブル好きには嬉しいギフトだね。金力変換マネーイズパワーはGBO内通貨の千ゴールドあたり1ポイントだけギフト発動後の攻撃に威力が加算されるよ。ギフトレベルが上がれば変換効率も上がるから、頑張って上げることだね』


「うわぁ、なんでも金で解決する成金みたいね。しかも、使えば使うだけお金が無くなってくから普段使いしにくい」


『ギフトを使わないとギフトレベルは上がらないぞ♡』


「嘘でしょ…?」


 ウインクしながら非情な現実を告げるフォルフォルのせいで、麗華は膝から崩れ落ちた。


『GBO自体にギフトなんてないんだからしょうがないじゃないか。これは完全に私の外付け企画だもの。ギフトを成長させたかったらガンガンゴールドを使おうね』


「確かにギフトなんてGBOには存在しなかったから仕方ない。でも、ゴールドさえ安定的に稼げるなら悪くないギフトだと思うぞ」


 恭介は麗華がそんなに落ち込む結果を出していないだろうと思い、前向きに受け止められるように声をかけた。


「それはわかるんだけどさぁ」


『はいはい。決まったことにいつまでもブツブツ言ってるのは時間の無駄だよ。さあ、次は君の番だよ、明日葉恭介君』


「わかった」


 フォルフォルに促されて恭介は頷き、モニターに映るガチャのボタンを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る