夏の終わりに。

黒片大豆

第9回空色杯参加作品

「綺麗な花火……」


 夏は、多くの悔恨を残したまま、もう終わろうとしていた。


 俺は目をつむり、打ち上げ花火のイメージをふくらませる。

 それは夜空を美しく染め上げ、明るく咲き誇り、音は闇夜を激しく揺らし、耳をつんざく。

 それらを見上げるのは、初々しいカップルか。明るい未来を夢見る家族か。それとも幸せそうな熟年夫婦か……。


 俺はどうだ? もし今、目の前で花火が上がったとしても、眩しすぎる光と轟音を恨めしく思うことだろう。


「……くそっ!」

 結局俺は、スマホを取り出した。この問題を解決させるには、一人の力ではどうにもならなかった。


「き、れ、い」

 呟きながら、検索画面で文字を打ち込む。するとすぐに予測変換が働き、画面に目的のものが現れた。


「いと、だい、か……んだよ、レイって」


 表示されたレイを、まじまじと見つめる。

 昨今、だれしもスマホを持つ時代だ。調べればすぐに判ることを、なぜ日本人は暗記させたがるのだろう。


「綺麗な花火……っと」


 ここで苦言を呈しても無意味なことはわかっている。

 俺は、ぶつくさと文句を垂れながら、空欄に『綺麗』と筆記した。


 夏は、多くの宿題を残したまま、もう終わろうとしていた。

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夏の終わりに。 黒片大豆 @kuropenn

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