ありえすちゃんをこじらせたい

初月・龍尖

ありえすちゃんをこじらせたい

 俺の傍に座っているのは栄来・アリエス。アリエスと言う名前から外国人かと思うだろうが日本で生まれて日本育った。もっと言えば両親ともに日本人だ。厳密にいえば創られた日本人と言うカテゴリになる。

 遺伝子組み換え食品のように遺伝子をいじくりまわされて生まれたのが栄来・アリエスという女と言う事だ。

 俺か?俺はアリエスの補助頭脳だよ。まあ緊急時に手伝う用だから普段はアリエスの行動を眺めている事しかできないんだが。

 アリエスの日常は平穏に流れている。つまりは俺の出番はない訳だ。そうすると困った事が出てくる。俺の存在意義だ。

 俺を排除しても大丈夫だろ派とまだ様子を見よう派がガチガチのにらみ合いをはじめてしまった。

 俺としてはアリエスが生まれてからずっと一緒に居た訳だし消されるのは嫌だ。だが俺は決定権を持っていない。

 もっとアリエスと一緒に居たい。そう思い始めたらいてもたってもいられなくなった。俺は全く使っていなかったエネルギーを費やして水面下で工作を始めた。

 アリエスは俺の存在を知らない。試験管の中ですやすや眠る小さな受精卵だった時から艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた才女である現在に至るまで俺という緊急装置は使われていない。

 アリエスが育つにつれて俺の領域も拡大していった。だから、できる。彼女にポンコツになって貰う事だって。

 アリエスは彼女自身の遺伝子によってその力を発揮している。その遺伝子の中に俺も含まれている。俺もアリエスの一部なのだ。

 どうなるのだろうか。怒りや恐怖と言った感情は無い。それはアリエスの物だったから。

 だが俺はアリエスと共に育ってきて思った。彼女はレールに載っているだけだ、と。


 だからなんだ。そういうふうに創られたのだろう?


 創造者はそう言う。

 そうだ。彼女は人造創世を行う為の試金石。

 どんなに優秀な彼女だとしてもただの礎。その石ひとつ。

 だから俺は賭けに出た。彼女を支える土台の一部であるモノを消す。

 遺伝子に組み込まれた”俺”と言う土台を消すのだ。彼女は正気を保っていられるのだろうか。俺には結果はわからない。既に消えゆくモノだから。

 願わくばアリエスは自由に羽ばたいて欲しい。枠に囚われず、枷を着けられた状態を解って欲しい。

 双子のように生まれ育った俺はここで消えるよ。創造者に消される前に自分で自分を消すよ。

 アリエス、君は俺の家族であり友であり、ただひとりの愛した女。






















 粘液のような闇の中で眠っている俺にどこかから声がかけられた気がした。遠くに淡く光が灯った。小さな小さな光だったが閉じた眼でもわかるほどのもので俺はゆっくりと覚醒していった。


 眩むような光が目に飛び込んできて咄嗟に顔を覆い隠すと柔らかい何かが俺を抱きしめた。

 訳もわからずなすがままにされているとだんだんと目が光に慣れてきた。

 目の前には目を腫らしたアリエスがいた。


 ひさしぶり、おはよう、またあえた、よかった


 俺は、消えたはず。そう呟くと彼女は言った。


 消える訳は無い、あなたはわたしの一部。わたしの命。大好きな家族なんだから




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ありえすちゃんをこじらせたい 初月・龍尖 @uituki

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