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 その日学校は大騒ぎだった。夜には臨時保護者会が開かれ、学園内で殺人事件が起きたと報告された。


 自殺の可能性は考えにくく、ニュースでも報道され、翌日の朝刊には大きく掲載され、ワイドショーでも取り上げられた。


「おじさんおはよう。母さんは?」


「双葉は夜勤。造園業者を張ってる」


「やっぱり造園業者が怪しいの?」


「まだ捜査中だからな。何とも言えないな。あっ、花子ちゃんこれはマスコミにも伝えてない極秘情報だからね」


「わかってるよ。死因は特定出来たの? やっぱり絞殺かな?」


「検死結果もまだ出てないんだ」


「おじさん、本当はわかってるんじゃない? あたし、学校で喋らないよ」


 太郎の父親は苦笑いしながら、珈琲を口に運んだ。


「花子ちゃんなら、どう推理する?」


「あたしは排水溝の泥と赤い靴に何か意味があると思ってる。乱暴目的じゃない気がするんだ。造園業者は多分シロだよ」


「ほほう、シロか」


「犯人は彼女に何か恨みがあった。絞殺出来たのに、敢えて首を絞めて命を絶つことをせず、溺死させた理由があるはず」


「さすが双葉の娘だね。実は俺もそう思うんだ」


「おじさん、やっぱり溺死なんだね」


「シマッタ。花子ちゃんに上手く引っ掛かった。実は解剖の結果、胃からも微量の泥が見つかったんだ」


「やっぱり……」


「あの泥なんだけどな。校庭の土やこの周辺の土とは成分がちょっと違ってたんだ」


「造園用の土じゃなくて?」


「湖や沼にあるような粘土質の土なんだよ。今、微生物とか詳しく調べてる最中だけどね」


「湖や……沼? この辺りには確かにないよね」


 都会のど真ん中、湖や沼なんてあるはずがない。


「ふぁー……、おはよう父さん。花子さん随分早いね」


「太郎が遅いんだよ。母さんが夜勤の時は、太郎が家事の当番だろう」


 パジャマ姿の太郎を睨み付けながら、あたしはおじさんに視線を戻す。


「父さんが夜勤の時も、俺が家事当番だよな。花子さんの当番はないのかよ」


「ない」


 即答したあたしを、太郎は溜め息を吐きながら恨めしそうに見つめた。

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