「西郷寺刑事、制服の胸元が乱れてますね。乱暴目的かしら? だとしたら犯人は男?」


「その線も捨てきれないな。暴行におよび抵抗されてカッとなり殺害した……」


 あたしは遺体の靴の色に違和感を抱いた。


「おじさん、上靴の色が違うんだ。ほら赤い靴を履いてる」


「上靴は赤じゃないのか?」


「うん、白い上靴で学年ごとに違うラインの色が入ってるだけ。それにこれは最初から赤い靴ではなく、あとから赤い色に染めたみたいだね。色むらがあるよ」


「そうだな。一体何のために? 赤い色にしたんだろう。何かのメッセージかもしれないな」


「こら! 陰陽師、木更津、西郷寺、どさくさに紛れてお前ら何やってるんだ! すみませんね、刑事さん。生徒が捜査の邪魔をしたみたいですね。お前らはここから早く出なさい! 鑑識の邪魔になるだろ! 余計な痕跡をあちこちにつけるんじゃない!」


 ていうか、余計な足跡をつけているのは先生だから。


 振り向くといつの間にか木更津と太郎も、屋上の入り口に立っていてこちらを観察している。


 生徒指導の先生に強制的に屋上から連れ出されたあたし達は渋々化学準備室に戻された。


 あたしは化学準備室の机にばらまかれたピースを、ジグソーパズルにひとつずつ嵌めていく。


「花子さん、ジグソーパズルなんかしてる場合じゃないですよ。女子生徒が殺されたんですよ。この学園で殺人事件だなんて、怖すぎます」


 あんなに骸骨の模型を怖がっていた太郎が次郎を抱き抱えて、1人で騒いでいる。2人はすっかり仲良しだ。


「木更津君、被害者が誰か知ってる?」


「彼女は1組の朝田未那あさだみなさんだよ」


「朝田さん? よく知ってたね」


「同じ美化委員だから」


「そっか。木更津君も美化委員なんだ」


「朝田さんは美少女だよね。放課後に一人で屋上に行くなんて、誰かに呼び出されたのかな?」


「父さんが『犯人に暴行され抵抗して殺害された可能性もある』って言ってたけど、嫌いな人と屋上で会ったりしないよね。誰かと交際していたのかな?」


「父さん? 西郷寺君のお父さんって、あの刑事さん!?」


 木更津は驚き、目を見開いた。

 それはそうだ。おじさんと太郎では貫禄が違いすぎる。


「そうだよ、あの美人、刑事デカは、花子さんのお母さんなんだ」


「えー!? だから刑事の後を着いて歩いても、陰陽師さんは叱られなかったんだね」


「でも先生には怒鳴られたけどね。先生は父が刑事だなんて知らないから。これは同じ同好会の木更津君だけに話したんだ」


 太郎はまるで自分が刑事にでもなったように、鼻高々だ。

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