その日の放課後、花子はさっさと同好会を申請し、一週間後不幸にも許可された。   同好会の部員は僅か3名だ。


 同好会に専用の部室が貰えるはずもなく、普通なら教室の隅で活動するしかない立場なのに、花子は校長に直談判して化学室の隣にある化学準備室を部室として使用出来る許可をとった。


 化学準備室とは、要するに物置だ。室内の棚には化学の実験に使う道具が収納され、本棚には資料やファイルが積まれ、何故か骸骨の人体模型(骨格模型)まで埃を被ったまま準備室に置かれている。


 周囲を棚に囲まれ中央に空いたスペースは僅か4畳半くらいで窓もない。室内はじめじめとしていて、電気を点けないと真っ暗だ。


 その中に立っている骸骨の模型が、死体か亡霊に見えて鳥肌が立つくらい不気味だ。


 花子は骸骨の模型の埃を、俺に綺麗に拭かせて『次郎』と勝手に名前を付けた。


 花子曰く、ミステリー倶楽部の4人目の部員らしい。次郎に話し掛けて、次郎の手を掴み俺の肩に乗せる。と、いっても骸骨だから骨の手だ。


「ひいいい……」


 こんな悪趣味なことは、本当に止めて欲しい。


 空いたスペースに古い机を並べテーブルにして、椅子を4脚置き、化学準備室のドアの上に花子は『ミステリー倶楽部』と書いた手書きのプレートを取り付けた。


 黒いプレートに赤いペンキの文字。赤いペンキはところどころ垂れていて、まるでお化け屋敷の入口みたいだ。


 廊下を行き交う生徒が俺達とそのプレートを見てクスクスと笑っている。花子は次郎と肩を組み、満足げにミステリー倶楽部のプレートを見上げた。


「さてと作業、作業」


「作業? 花子さん次は何をするの?」


 花子は化学準備室に入ると、鞄からおもむろに箱を取り出した。箱にはホラーの館と書かれ薄気味悪いパズルの絵が書かれている。


「それジグソーパズルですよね?」


「そうだよ。木更津君一緒にやろう」


「陰陽師さんジグソーパズル好きなの? 俺も好きなんだ」


 マジで?

 部室でジグソーパズルをするなら、『ミステリー倶楽部』じゃなくて、『ジグソー倶楽部』にすればいいじゃん。


「こんなオカルトっぽいパズル初めて見たな。よく売ってたね」


「でしょ? ネットで探したんだ」


 何が『でしょ?』だ。


 俺に向けるより優しい目線じゃないか。

 ……ていうか、ジグソーパズルの『ホラーの館』より不気味だ。

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