「花子さん、この学園にミステリー倶楽部なんてないですよ。何かの間違いでは?」


「今から作るんだよ」


「同好会は1人じゃ作れません」


「学校の規定によれば、部員が3人いたらいいみたいだ。あたしと太郎と……」


 な、なんで俺なんだよ。


 花子は急に振り返り、俺の後ろに座っていた男子を見据えた。可哀想に入学早々花子に目をつけられるとは。


 木更津卓人きさらずたくとは、サラサラとした栗色の髪、整った顔立ち、かなりのイケメンだ。


「木更津君、部活決めた?」


「まだ決めてないよ」


「だったら、ミステリー倶楽部に入らない?」


「ミステリー倶楽部? そんなクラブあったっけ?」


 木更津は左四十五度に首を傾げる。

 然り気無い仕草も、様になるからイケメンは狡い。


「今から申請して作るのよ。あたしが同好会の部長で、木更津君が副部長でどう?」


 ていうか、俺の存在は部活でも花子の下部しもべかよ。ていうか、勝手に頭数に含めるな。


 木更津よ、頼むスパッと断ってくれ。

 俺はそんなクラブに興味はない。漫画研究会に入りたいんだ。


「ミステリー倶楽部か、ちょっと面白そうだね。しかも自分達で作るなら、面倒くさい上級生もいないし伸び伸び部活が楽しめる。入部してもいいよ」


 マ、マジかよ。

 どうして『いいよ』なんて言葉が口から出るんだよ。ここは断るところだろ。


 花子も花子だ。

 沢山いるクラスメイトの中から木更津を選んだのは、木更津がイケメンだからに違いない。


「サンキュー。あとで職員室に行って同好会の申請用紙を貰ってくる。同好会の名称は『ミステリー倶楽部』にするから」


「いいよ。それで活動は何をするの?」


「学園で起こる事件を解決するの。新聞に載ってる過去の未解決事件を検証するのも面白いかも」


 そもそも学園で事件なんて起こらないし。せいぜい喫煙か喧嘩くらいだ。


 過去の未解決事件を検証するのは、警察の仕事だ。父や双葉さんに任せていればいい。花子は刑事ごっこがしたいのか。将来刑事になりたいのか。


「未解決事件……か。発想が斬新だね」


「うん、木更津君宜しくね」


 花子は俺を見て、したり顔をした。本当に生意気な女。父と双葉さんが婚約していなければ、絶対に拘わりたくない相手だ。

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