『宜しくな、弟よ』


『宜しく……』


 花子は生意気で上から目線。

 あかの他人の俺達が仲良くなれるはずもなく、俺達は同級生ということもありギスギスとした毎日を過ごす。


 花子の母親も刑事。俺の父親も刑事。

 だから食事時は殺人事件の話をしながら、平気で飯を食う。


 凶器がどうとか、殺害方法がどうとか、外部には絶対漏らしてはならない守秘義務であるにも拘わらず、2人は俺達を信じきっているのか詳細に語る。


 俺は聞いただけで吐きそうなのに、花子は興味深く2人の話に耳を傾けた。


 毎日がこんな調子なら、俺は頭がおかしくなる前に、寮に移り住んでやる。


 入学と同時に立てた脱出計画だったが、すぐにバレて父に阻まれ、さらに花子も紫桔梗大学附属高校だと知り、未完成だった人間模様のパズルは、こうして最悪の構図が出来上がった。


 両親の婚約と同棲を認める代わりに、俺は父にひとつの条件を出す。


 それは『俺達が高校を卒業するまで、入籍をしないこと!』


 すなわち花子との養子縁組も入籍後とし、俺達を高校在籍中に姉弟にしないこと。いや、高校在籍中に入籍することは断固反対だ。


 俺の反乱に、生意気な花子が意外にも賛同し、父と花子の母親、双葉ふたばさんの入籍は、俺達が高校を卒業するまで保留となった。


 1学年が7クラスもある高校だ。同じ学校でも同じクラスになるはずはない。


 確率は7分の1。

 それなのに花子の似顔絵のスロットが綺麗に3つ揃ったように、俺達は同じ学校、同じクラス、席が隣とラッキーどころか、アンラッキーのどつぼに嵌まった。


 ◇◇


「太郎、何のクラブに入る?」


「花子さん、学校で名前を呼ばないで下さい」


「ていうか、太郎だって下の名前で呼んでんじゃん」


「……それは」


 花子が威圧的だから、自然とそんな雰囲気になる。でも一応敬称はつけてるんだからな。


「俺は……漫画研究会」


「は? 漫研? マジで?」


「花子さんはどうするの?」


「あたしはミステリー倶楽部だよ」


 ミステリー倶楽部?

 そんなクラブ、部活動の一覧表に記載してあったっけ?


 俺はクラブと同好会の記載された一覧表を捲り、目を懲らして探した。

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