風花、たてなおす

57、風花とさんぽ


「えーと、フーカ、聞こえる?」

<・・・はい聞こえます。・・・カメラも、・・・見えます>

「あ、ちょっと声が聞き取りにくいね」

<そうです・・・ね。途切れ気味・・・です>

「じゃあ、ゆっくり、しゃべるわ」

<はーーい>


 俺。チャリ走らす。

 川越えるでっかい橋に差しかかったとこでいったんストップ。

 胸ポケットに入れてたスマホ出して・・・

「見える?」

<見えます、見えます。いい景色ですね>

 スマホから風花の返事。

「散歩の気分、味わえる?」

<はい。いいですね。カンタさんの街>


 俺。風花と散歩中である。

 まあ『風花と』って行っても、相手はAIだからね。

 部屋のパソコンから出れないんで、ここにいるわけじゃないけど。

 スマホでwebチャットして、なんとか映像と音声をお届けしてるって状態。


「処理重いし、映像見づらいだろーけど」

<重いですね。でも、風景が移動していくのはドキドキしますよ>

「んじゃちょっと走るね」

<はーい>


 俺。ふたたびチャリ走らす。

 前傾するとカメラが下向いちゃうんで、ママチャリ的な姿勢で。ってかママチャリだけど。

 川越えだし、国道だしで、見晴らしはいい。川向こうも高いビルはあんまないしね。


<わー・・・左は、海?>

「そうそう」

<日本らしい風景ですね>

「そーなの? よくわかんね。俺外国行ったことないし」

<海の国というイメージです>

「あー。街、ほっとんど海沿いにあるもんね、日本。アメリカはどうなの?」

<Desert Road かなぁ? 荒野に道がズドーンって・・・まあ、見たことないんですけどね>

「ないんだ」

<データベースに写真はあるけど。こーやって連れ出してもらうの、初めてなんだー!>

「そっか!」

 川越えて、向こうの街へ。

「いつか行けたらさ、一緒に行こーぜ! アメリカ」

<わー、いいですねぇ!>


 川向こうの街を流して走る。

 国道の両側、だんだん店が増えてくる。

 喉かわいた。なんか飲みてー。


<右手のお店は、閉店?>

「ん? ああ」チェーンのレストランね。「うん閉店。去年だっけ? ピザ、美味かったんだけどね」

<おいしかったのに閉店したんだ>

「人減ってっからね。隣の中華料理屋も美味かったんだけど」

<そこもつぶれた?>

「うん。この店が進出してきてさー、あきらめたんじゃね?」

<チェーン店に圧迫されたらねぇ・・・>

「だよね。ちょっと止めるわ。喉かわいた」チャリ止めて、自販機。「ポカリスエット。ごめん。俺だけ」

<どーぞどーぞ>

 中学ンとき、よく飲んでたなこれ。部活やってた頃はね。

<自転車で、ここまで来るんですか? ふだん>

「・・・んにゃ。親父がさ。たまにね。車で。家族で飯食いにね」

<ああ、なるほど>

「このへん、駐車場ついてる店多いっしょ?」スマホぐるっと回してあげる。「だから、来やすかったんじゃねーかな」

<あー、日本は路上駐車、厳しいんでしたっけ>

「だね。チャリちょっと止めただけでも、追い払われたりすっし」

<ふむふむ>

「二度と来るかって思うよねw」

<あははw>


 冷たいポカリ飲みながら、閉店したレストランの駐車場見る。

 白っぽいアスファルト。雑草。店内真っ暗。入り口の上に、看板剥がした痕。


「・・・いい迷惑だよな」

<なにが?>

「チェーン店。ローカルな店つぶしといて、いなくなってさ」

<あー>

「どうしてくれんだって」

<店なくなっちゃうもんね>

「そーだよ。こーゆーのはダメだよ」飲み終えた。


 俺。チャリに乗る。風花としゃべりつつ。


「帰ったら続きやろーぜ」

<お、やりますか>

「うん。たださー、今日、宿題あっからさー」

<じゃあ宿題しなきゃ>

「そー。だから、フーカにお願いしよっかなと思ってね」

<私に?>


58、風花のスピリット


┏━━━━━━━━━━

┃ RULED SPIRITS

┃ ll~~~hh~~

┃ DnnnHHm~~

┃ ll~~~hh~~

┃ > Continue

┃  Create World

┗━━━━━━━━━━


「前回さ、@Pizzaたち全滅したじゃん」

<ドラゴンにやられたね。船ごと>

「あれ、俺の判断ミスだと思うんだよね」

<いやそんな>

「いやいや。ちっと調子乗っちゃったんだよ。

 だからね? 今日は、フーカのプレイも見てみてーなって」

<私の・・・>

「そう。好きにしていいから。で、俺は宿題しながら、それを見てみたいわけ」

<ええと。質問いいですか?>

「なに?」

<私に期待してるプレイは、どんなプレイですか?>

「どんなって、フーカらしいプレイ」

<ええ・・・?>

「あー。えっとね。順番に説明するとだね?」


 今日、学校で、また浦部たちとしゃべったんだよな。

 『全滅したわー』って話してね。

 んで、ネタバレは勘弁してって前提でちょっと話聞いたんだよ。

 浦部はさー、ネットで攻略法検索して、さっさとクリアしたらしーんだけどね?

 俺とは全然ちがうらしいんだよ。あばれイノシシとも戦ってねーし、領主とも戦ってねーし、船も操作してないって。


 んでさー・・・。

 俺ちょっと、自分のプレイに疑問を感じてさー。

 もしかして・・・俺、なんかおかしいの? って。

 それで、他人がプレイするとこ見て、自分のプレイを見直したいなと思ったわけだよ。


<なるほど>

「たださー、俺、早解きって好きじゃねーんだよ。浦部とはちがうわけ」

<うん>

「けど、フーカならね。一緒にプレイしてきた仲間じゃん? だから、お願いしてみようかなって」

<プレイ仲間として、ちょっと交代してほしい・・・と>

「そーそー、そーゆーこと!」

<ははぁ・・・そういうことでしたら、やってみましょーか>

「あ、無理にってわけじゃねーよ? 嫌なら別に」

<いえ。無理でも嫌でもないのですが・・・>

「なに? どったの?」

<えーとですね。私たち、TAIシリーズはですね。指示待ちなんですよ>

「指示待ち」

<なんか命令されるまで、おとなしくしてる>

「はぁ」


 おとなしいって印象じゃないんだけどw これは言ったら怒るか。


「・・・そう言えば、あれだ。ヘルプファイル開くのも、必ず確認してたね!」

<いえあれはまた別>

「別かい」

<あれはスパイウェア的動作の自制──つまり、『勝手にパソコンの中身を覗かない』ってことです>

「はぁ」

<『このファイル必要だと思ったから、勝手に開きました!』って、嫌でしょ?>

「あ、それは嫌だわw」


 勝手に開かれちゃ困るよね!

 あんなサイトやこんなサイト見てたブラウザーとかね!


<指示待ちというのは、ホントに指示待ちってこと。自分から何かしたいと思わない>

「思わないの?」

<思わないですね>

「将来こんなことしたいとか、こーゆーことはしたくないとか、ないの?」

<カンタさんの役に立ちたい。悪いことはしたくない。・・・です>

「いやそういうのじゃなくて。いや嬉しーんだけどw そうじゃなくて」

<えーと。私たちの中にはね。

 『スピリット』というブロックがあるんですけど>

「スピリット」

<うん。『悪いことはしたくない』とかの、大切な価値判断をするとこ>

「はぁ・・・」


 風花のスピリットか。


「・・・そのスピリットに、『自由にどっか行きたい』とかはねーの?」

<ないですね。そもそも、業務用AIが自由にどっか行っちゃったら都合悪いでしょ?>

「ええ・・・?」

<あ、でも、散歩は楽しかったですよ! ゲームを一緒に遊ぶのも楽しいです>

「そう? でも『将来これがしたい』とかはないんだよね?」

<一緒にゲームしたいなーとか、散歩したいなーとかはありますよ!>

「そーゆーことじゃねーんだよなー・・・」


 やりたいことがない? 自由にどっか行かないほうが都合がいい? 業務用AIだから?

 ──風花、おまえ何言ってんだよ。


「・・・えっとさ。そのスピリットって、変化はすんの? 成長っていうか」

<スピリットは書き込み不可ですね>

「・・・。」

<えっと、成長はするんですよ? でも、スピリットは洗脳対策でもあって、>

「・・・。」

<・・・カンタさん?>

「あ?」

<あの、がっかりしないで?>

「あ、いや。してねーよ。がっかりはしてねー。大丈夫」

<そう?>

「おう。してねーよ! ってか、そーゆーことなら、ますます風花にやってみてもらいたい!」

<あ、はい。わっかりましたー!>


59、風花、たてなおす


 というわけで。


「さっき外で言ったけど。俺ァー、宿題やっから」

<はいはい>

「ベクトルの授業が始まってね、」数学の教科書開く。「最初だから、真面目にやっとかねーと」

<ベクトルですか。ゲームには縁の深い分野ですねー>

「そーなの?」

<うん。ベクトルの向いてる方向にターゲットがいるか? とか。内積ですぐわかる>

「へぇー。ちょっと興味出て来た」

<がんばって!>

「風花もがんばってね。とりあえず、1時間やるわ」

<はい。じゃあ、1時間したら声かけますね>


 俺。宿題開始。ときどきチラッと画面見ながらね。

 風花。これは・・・アイテムの整理をしてんのかな?

 荷車のとこに、@軍団が集まってる。船に乗らなかった奴ら。ま、二軍メンバーだね。

 @Taroがいる。@Spinelがいる。・・・誰だっけ? ああ、精霊使いか。

 パッとアイテム画面が開いて、閉じて。@が動いて。

 なんかおもしれーw 水槽の魚見てる感じ。


「これはこれで結構いいかも。風花はどう?」

<私は・・・、ちょっとさびしいかなw>

「あ、そっか」

 俺は風花のプレイ見れるけど、風花にはこっち見えないんだったわ。

「しょうがねーなー! 特別だよ?」

 ケーブル引っ張りだして、スマホ接続! パソコンの画面に、俺を映す。

<あ、カンタさんだ>

「宿題してるとこ見てもつまんねーだろうけどw」

<いえいえ。一緒にやってるって感じしますよ>

「じゃあこれで」


 自分の顔、生中継で見んの、気持ち悪ぃーんだけど。

 ま、いっか。画面見てっと宿題できないし。見たくねー! ぐらいでちょうどいいわ。

 ・・・にしても風花、何やってんだろ。ときどきヘルプ見てるけど。


<見すぎw 宿題して>

「おうw」

<あんまり見てたらロスタイム設定しますよー>

「うへー。やりまーす」


 怒られちった。真面目にやろっと。


 ・・・簡単だった。

 まだ始まったばっかの内容だからかな? 宿題、軽かったわ。声かけられる前に終わった!

 ついでに教科書、先の方まで読んでみた。・・・うむ。わかんね。数学は教科書読むだけじゃわかんねー。


「よし! 終わり! 予習もした!」

<お見事。15分も余裕あるじゃないですか>

「どんなもんだい。そっちはどうだった?」画面見る。俺いる。オエー。「あ、中継は終わりね」

<えー>

「しょうがねーじゃん。画面ン中で自分が動いてっと、気持ち悪ィんだよ」

<ええー・・・w>

「終わり終わり。また今度。で、どう?」

<貿易をやってみようかなと思って、アイテムを調べてました>

「ぼうえき」

<うん。結構距離あるでしょ? 名もない村から、入り江の港町まで>

「歩いて・・・丸1日ぐらいかかったっけ?」

<そのぐらいだね。これをね、舟で回れないかなーって>

「はー」

<入り江の港町から、海岸沿いに、西の漁村、川東村、大海(たいかい)の村。

 そこから川を遡れば、名もない村の近くまで行ける>

「ハーピー出るんじゃねーの?」

<うん。あいつはどうにかしないとね>

「やる気だね。けどさ、名もない村まで行く意味あんの?」

<銀鉱石があるじゃん>

「あ、そっか」

 名もない村(の近くの鉱山)から銀鉱石を出す。

 それを入り江の港町まで舟で運んで、食料や武器を買うってわけか。

「なるほど。それでそれで?」

<それで、まずはアイテムの下調べをしてたんだけど。

 お腹スキルが、意外と細かくてね>

「お腹スキル?」

<うん。Foodスキル。筋力系。時間が経つとポイントが減って、0以下になると空腹ペナルティがつく>

「なるほど、お腹スキル」

<でね? ご飯食べると、お腹ポイントは回復するんだけど・・・>


 @Taroは、ライ麦のパンを食べた: これはうまい。お腹 12ポイント回復。

 @Spinelは、ライ麦のパンを食べた: 悪くない。お腹 9ポイント回復。@Spinelは胃もたれした。


「胃もたれw」

<食べすぎると出るみたい>

「回復ポイントもちがうね」

<うん。お腹スキルが高いほうが、回復しやすい>

「同じもん食べても?」

<同じもん食べても>

「へぇー。たしかに細かいわ」

<お肉は、お腹スキルの差が出やすい。クッキーやライ麦パンは、差が出にくい>

「クッキーは消化にいいってことかな?」

<かな?>


 @Spinelは装備した: @Spinelは、右手で鍋を持った。

 @Spinel: 「@Fire Spirit、来て!」

 @Fire Spiritは@Spinelをフォローした:


「誰こいつ?」

<@Fire Spirit? 『火の精霊』だね>

「そんなの出せんの!?」

<うん。呼んだら出てきた>

「もっと役に立たねー感じの精霊じゃなかった?」

<こだまの精霊ね。あれはサヨナラしといた>

「消したんかいw」

<あれ邪魔なんだもんw 誰かしゃべるたびにこだまして>

「まー、いらない感じだったよね」

<でしょ>

「火は強そうだね! 何ができんの?」

<鍋あっためる>

「は?」

<見てて>


 @Spinelは作業を始めた: 料理(60ターン)。

 @Fire Spiritは燃え上がった: @Spinelの鍋があたたまった。

 :

 @Spinelは料理を終えた: 肉とクッキーとライ麦パンとエールのスープ(4ポンド)


<どうですか!>

「スープ・・・!?」

<そう! このひと鍋で、@Taroさんの一日ぶんの栄養はバッチリ!

 4食に分けて食べることもでき、胃もたれしやすい@Spinelさんにもぴったりです!>

「ああ・・・調節したんだ?」

<うん、かなり!>

「──したらクッキー入りのスープになったんだwww」

<なんで笑うの?!>


 やっべ。風花の料理センスやっべw


<ホントにちょうどいいんだよ? 肉以外は日持ちするし、火の精霊はコンロになるし・・・>

「こんろwww」

<いつまで笑ってんの!w>

「いやー、ごめんごめんw 料理って、こんな感じなんだね」

<もー・・・。そうです>

「そっかそっか。食うもんが安定すれば、長旅できるもんね?」

<そう。そうなんだよ。データ整理は、私の得意分野だし>

「なるほど! ふふw」

<笑いすぎ>

「うんw 新キャラ作ったりはしなかったんだ?」

<うん。オーガやゴブリンのデータは見たけど、作るのは、お楽しみにおいといた>

「そっかぁー。憎い配慮だね!」


 こういうとこが可愛いんだよなー。

 でも、これも指示待ちってことなのかなー。


<──というところですが、どんなもんでしょう?>

「いいね! うん。やってもらってよかった」

<そうですか>

「見事に立て直したね」

<下調べしただけですが>

「いや立て直したよ」

<そうかな?>

「そうだよ」

<そっか>

「ハーピーに復讐しに行くかな? って思ってたんだけど」

<あー。考えたんですけどね>

「なんでやめたの」

<え。いや。・・・また全滅したら、カンタさんゲームやめちゃうかもと思って>

「!」


 やっべ。


「やめねーよ。今日は、ほら・・・宿題あったかんね」

<あ、はい。宿題優先で行きましょう>

「そうしましょう。平日はね」

<私は、アイテム整理とかは得意だから、そういうのは指示してくれればいいですよ>

「指示はしません。見てます!」

<えー。指示こなすの、楽しいのに・・・>

「うん。まぁなんだ、うん」

<なに?>

「ホントはさ。昨日、あんま寝れなかったんだよ。悔しくってさぁ」

<ああ>

「ボロカスにやられたからさー。ちょっとカチンと来てさ」

<うん>

「でもやる気出たわ」

<うん!>

「・・・ま、そういうことだよ」

<今日は、早めに寝ないとね>

「んだんだ。じゃ、また明日ね。フーカ、おやすみ」

<おやすみー、カンタさん>

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