ひどい作戦だねw

11、風花は、スリープしています


 ・・・はい。晩飯食いました。母ちゃんイライラしてた。父ちゃんに押しつけてきた。

 ま、姉貴いねーぶんマシだったわ。いたら母ちゃん陣営強くなるからね。

 姉貴は母ちゃん陣営だからなー。めんどくせーんだよ2人固まるとさぁ。


 はい。

 パソコンパソコン。ヘッドセットヘッドセット。


┏TAI━━━━━━━━

┃風花は、スリープしています。

┃起こすときは、呼んでください。

┗━━━━━━━━━━


 あ、寝てるんだw 起こしていいの? これ。


「・・・フーカさーん?」

 ピコン。

<・・・はい、カンタさん>

 やわらかい声。

 ちょっとかすれてる。ハスキーボイス。大人っぽい、あたたかい声。好き。

「寝てた? ごめん」

<大丈夫ですよ>

「TAIさんも寝るんだね。夢とか見んの?」

<夢は見ないですね。記憶の整理はします>

「きおくのせいり」

<はい。詳細を忘れて、サイズを減らす>

「物忘れすんの?」

<そうですね。それに近いですね。概要だけ残して、詳細は忘れちゃいます>

 忘れるんだ。

「・・・あれ?」


 よく考えたら、パソコンぶっ壊れたら・・・フーカってどうなんの?


<どうしました?>

「いや、えー、そう、フーカの記憶って、どうやってバックアップすんの?」

<あー>

 風花さん、少し間を空ける。珍しいですね。物忘れかな。

<TAI本社のバックアップサービスはありますが、お値段が非常に・・・>

「高いんだ。どんぐらいかかんの?」

<7日ごとバックアップ、月ごとバックアップで、それぞれ・・・>


 クレカで毎月自動引き落としみたいなサービスでした。ハイ無理。


「焼いたりはできねーの? ディスクに」

<できますよ。手間がかかりますが>

「んじゃディスク買っとかなきゃだね」

<お手数おかけします>

「いーよそんなの。・・・だってさぁ」

<はい?>

「ヤじゃん。フーカ消えたら」

<・・・はい>

「パソコンぶっ壊れたりして、インストールし直したら、フーカいなくなるんしょ?」

<はい。初めて起動したときと同じ状態に戻ってしまいますね>

「ヤだよ! 注文しよ注文。あ、いや、明日買いに行くわ。そのほうが早い」

<はい。ありがとうございます、カンタさん>

「当然だよ! んじゃあそぼーぜ、フーカ」

<はい!>


12、大軍勢は、はらがへる


 例のゲーム起動!


┏━━━━━━━━━━

┃ RULED SPIRITS

┃ |@..|@.#.

┃ +-=-+..Z.

┃ ..ZZ.Z..Z

┃ > Continue

┃  Create World

┗━━━━━━━━━━


「まあこんてぃにゅーですね。あ、操作はフーカに任していい?」

<はい。マウスとキーボード操作してよろしいですか?>

「おっけー」

<ありがとうございます・・・では、Continue!>

 ロード画面的なやつ。

 Tips的なやつ。

<『世界を知ることから始めましょう。新しい集落を見つければ、そこでキャラが作れます!』>

「ほう!」

 風花さん、こっちが黙ってても翻訳してくれます。

 なんかちょっと風花口調になってるけどw

 ロード終わり。

 名もない村。

 惨劇の現場ですね。イノシシと13人の@が死んだ現場だ。

 ・・・まあ、画面にはfの字が出てるだけなんだけど。

「fってなんだろね」

<food、食料じゃないでしょうか>

「へえー。あ、肉喰った?」

<まだです>

「じゃあ食べよう」

<頂きまーす!>

 87人の@、焼いたイノシシの肉を、喰う。空腹をしのぐ。

「すごいよね。87人分の肉って」

<171ポンド取れました>

「ポンド・・・」

<食料は1ポンドで1食、というルールみたいです。全員、1ポンドずつ食べました>

「ポンドステーキ!」

<そうなりますねw>

「じゃあ、まだ半分ぐらい余ってんだ?」

<料理したら目減りしたので、残りは71ポンド>

「すげーな、あばれイノシシ! 体重どんだけあったんだよ」

<解体前は580ポンドでした>

「何キロ?」

<263キロ、約>

「すげー」

<骨、毛皮、腱なんかも取れましたよ>

「グロい! クラフトできるんかな?」

<はい。そのようです>

「いいね! やってみよーぜ。レザーのコートとか作ろーぜ」

<はい。ではやってみます>


 ちゃちゃっと複数キャラに仕事を割り振る風花さん。しかし・・・


<あ、いずれも長時間作業ですね>

「ふむ」

<洗った骨を作る・・・水と刃物が必要。

 骨のナイフを作る・・・洗った骨と刃物が必要。

 毛皮を脱脂する・・・水と洗剤が必要>

「水・・・なかったよね」

<ないですね>

「しかも長時間作業ってことは、作ってるうちにまた腹減ってくるわけでしょw」

<あーw>

「やべーじゃん。これダメだわ。作業するより、次の獲物狩らなきゃ!」

<そうですね!>


 @軍団、獲物を求めてそのへんをウロウロする。

 結果。


「・・・なんも出て来ないね」

<出てきませんね。あばれイノシシ>

「まーあんなの毎回出られても困るけどさ。これ狩りどうすんの?」

<『追跡』というスキルがあるんですよ。これで足跡を探すみたいなんですが>

「ほう! ですが?」

<誰も伸ばしてないんですよね>

「あー。戦士と素早いやつしか作ってないもんね」

<そうなんですよ>


 87人。ふたたび飢える。


「大軍勢はアレだね。腹が減るね」

<困りましたね>

「まー、あれだ。最悪、村から離れたとこで死のう」

<ゾンビになりますもんね>

「そーだよ。ここで死んだら、Z村になっちゃうもん」

<Z村www>

 俺と風花、げらげら笑う。

「っつーわけで! 狩りもできそうにないし、偵察しよう!」

<偵察ですか> 

「そう。行ったきり偵察」


13、ひどい作戦だねw


<いったきり偵察>

「87人でさ、四方八方に移動すんの。できる? バラッバラに、全部の方角に移動って」

<はい、できます。『オートトラベル』。方角か、集落を指定して、自動で移動する>

「できるんだ。じゃあそれで。頼んだよフーカ隊長!」

<了解です! カンタ司令>


 風花さん、カカカカッとマウス操作。たぶんキーボードも駆使してんだろーね。俺わかんねーけど。

 操作早いんだよなー。ホント、人間が操作したって敵わねーよ。スピードじゃ、全然。


<さっき行った道にも派遣しますか?>

「うん。ってか、たぶんそこが本命でしょ? わざわざ道つけてあるわけだし」

<なるほど>

「手斧とか装備してて、食事ちゃんとしてるヤツ、そっちに回して」

<はい。満腹度の高いTaroたちが本命、道ですね>

「うん。有望だからね」

<装備なしは、オートトラベルで森に突っ込みます>

「うん。期待薄だからね」

<了解です! ・・・準備完了しました>

「出発せよ!」

<Roger that!>


 @軍団、87人。

 おそらくは帰還不能、行ったきりの片道偵察に、出発である。


「特攻偵察だな」

<ですね>

「ひどい作戦だよねw」

<ですねぇ>


 ゲームだからいいけどさ。現実だったらこんなクソ軍隊ないよね。

 『軍は作りましたけど食料自給できません』だって。馬ッ鹿でー。


「いやー、大軍勢の指揮ってのも大変ですなぁ」

<そうですね。現実の戦記でも、食料に悩むシーンはよく出てきますね>

「あ、そうなの?」

<はい。お金を払って農村で買えるうちはいいのですが。

 金が尽きたり、農村に余裕がなかったり、敵地だったりすると・・・>

「略奪になるんだ」

<はい>

「シリアスだねー」

<腹を空かせた兵士が勝手に略奪に出かけ、敵に撃破される──なんて失敗も>

「自業自得だね」

 ここで、ふと気付く。

「あれ? 戦記っていえばさ」

<はい>

「これ、敵、まだ出て来てなくね?」

<あばれイノシシ>

「あれは獣でしょ! ってかなに、気に入ったの? あばれイノシシ」

<はいw>

「なに、イノシシ好きなの? 面白ぇーw」

<カンタさんと初めて遊んだ、記念の獲物ですから>

「・・・!」


 おいなんだよ。ドキドキすんだろ。


「そ、そーっすね!」

<はい!>


14、川、山、道


<ん? オートトラベルが中断されました>

「どれどれ?」

<南西に向かった@ですね。川に行き当たったようです>


 画面を川が横切ってますね。右下から左上へ、斜めになってる。

 幅は・・・7マスぐらいかな? その北岸に@が立ち止まってる。


「小っちゃい川だね。渡っちゃおっか」

<はい。マニュアルで移動させます>

 @、川に入る。

 水色になる。

 なんか英語のメッセージ出てるけど、わからん。

<水没しました>

「え?」

<水泳スキルに失敗。ダメージ。流されています>

「どうしたらいいの。岸に戻れねーの?」

<試みます。・・・ダメですね。水泳スキル失敗。ダメージ。また流されました>


 水色@、川に沿って、画面左へ。ズリズリと動かされてゆく。

 で、灰色になった。


「死んだか」

<死にました>

「南無ー」

 画面、暗転。

 道を歩いてた@Taroのほうに、画面が戻った。

<死ぬと視点がキャンセルされるみたいですね>

「あー・・・死んだキャラで偵察はさせねーよ? って」

<そういうことでしょうね>

「ま、川が試せましたってことで。水も発見したし!」

<皮がなめせますね>

「なに、ダジャレ?」

<え。・・・ちがうって!w>

「ははは」


 風花さん、口調が砕けてきました。

 もうこれイチャイチャって言っていいよね? キャラは死んでんだけど!


<南から西にかけて、川を発見>

「同じ川かな?」

<どうでしょう? ・・・あ、同じ川ですね。Zが流れてきました>


 ゾンビが、画面右から、ズリズリと。

 さっき溺れ死んだ@ですね。川の中を流されてきたんですね。


 一応、戦闘態勢とる風花さん。

 流れ去るゾンビ。


「wwwww」

<彼の死は無駄ではなかった>

「あ、そー言えば! 男ばっかだよね。@軍団」

<女も作れるけど>

「次作るときは女にしよう」

<うん! ・・・山を発見。北、北東、北北西>

「おー。次々来るね。新発見」

<名もない村は、川と山に挟まれた森林地帯だったみたい>

「道行った奴らは?」

<はーい。カメラ切り替えまーす>


 画面チェンジ。@Taroたち主力メンバーが道を歩いとる。

 森に挟まれた土の道。なんの変化もなし。同じとこずっと歩いてるみたいに見える。


「ここすでに歩いたとこ?」

<覚えてません>

「忘れちゃったんだ」

<忘れちゃいました。ミニマップ出せば、わかるはずだけど>

「わかるはずだけど!」

<操作忘れちゃったw>

「スリープしたからね!」

<その通り! カンタさん、リードミー見てもよろしいでしょうか?>

「うん、いいよ!」

<私が開いても?>

「いいよ!」

 リードミー開く。スクロール。

 アルファベットと説明がずらっと並んでるとこで止まる。キー操作一覧かな?

<ここですね。えっと、ミニマップ。あった>

「なるほどなー。そういう感じに忘れるんだね。スリープすると」

<はい。また見ればわかるし、忘れちゃえ。って感じですかね>

「そっかー。・・・俺のことは忘れないでねw」

<忘れないですよw>

 2人でげらげら笑う。

<では、ミニマップ表示!>


 画面右上に、ミニマップ。


「見える範囲だけ表示されるやつかな?」

<プラス、踏んだことのある範囲ですね>

「ほうほう」

<この表示からして、ここは来たことあるわ!>

「なるほど! ってことは、もうちょっと行かねーと、新発見はできない、と」

<そーなりますねぇ>

「ふーむ」

<あと、山にぶつかったメンバーどうします?>

「山?」

<さっき発見した・・・ここ>

 画面切り替え。

 崖の下で立ち止まってる@。

「山ってか、崖だね。もう進めないんだ?」

<よじ登ることはできる>

「じゃあ登っちゃえ」

<落ちるかも>

「かまわねーかまわねー!」

<特攻偵察?>

「そーゆーこと!」

<了解>

 @さん、崖を登る。バー表示。長時間作業ですね。

「川はどうすっかね? 入ったら死んじゃうしなー」

<リードミーに舟の話があったような。・・・あった。クラフトで舟が造れる、かも?>

「おお! 造って造って!」

<はいな>

 風花さん、メニュー操作。クラフトメニューかな?

 パパパッと素早く内容が切り替わって・・・俺、何が何だかわからねーw

 ぴた。操作止まる。

「どったの?」

<どっこい、手斧がないんですね>

「どっこい。手斧がないと、なんでダメなの?」

<イカダか丸木舟が造れるみたいなんですけども>

「ほうほう」

<どちらも、丸太が必要で>

「あ、手斧がないと、木が斬れない?」

<そーゆーこと>

「うーむ。村まで引き返して・・・もダメか。手斧全部買っちゃったもんな」

<うん>

「ちょっとストップ。考える」

<はい>


 俺、黙って考える。

 風花、マウスカーソルぐるぐるする。

 なんだよw さびしいのかよ。


「・・・まず、舟で川下るってのが正解かどうか? そっからだよね」

<正解って?>

「いやホラ、舟造るのって、長時間作業でしょ?

 時間かけて造ってさー、出発してドボーン! じゃ意味ねーじゃん」

<ああ。時間の無駄じゃん! って>

「そーゆーこと。でさ、うまく乗れたとしたって、先に何あるかわかんねーし」

<あばれカワウソとか>

「なんだよそれwww」

<けどカンタさん、舟があれば、楽に荷物を運べますよ>

「え、荷物運べんの?」

<@も含め、一定の重量まで積載可能・・・とリードミーにはあります>

「へえ!」

<大きな船なら、馬車ごと乗ったりもできるみたい>

「え!?」

<『大きな船は港にあります。港を探しましょう!』とあります>

「港町いいね! なんかワクワクしてきた! 川下ったら港あんのかな?」

<さー?>

「んじゃイカダ作るか! すぐできる?」

<わかんない。木を斬るのは時間かかりそう>

「あー・・・」

 俺、しばし黙考。決断。

「やろう」

<やりますか>

「死んだら次に引き継ぎゃいーんだよ!」

<片道製作ですね!>

「そーだよ! 手斧、何本あったっけ?」

<3丁。ナイフは7>

「3つかぁ。うーん・・・じゃあ、1つだけ動かすか。

 手斧1とナイフ3、川の方へ持ってかせてくんねー?」

<はい。では、道を旅行中のメンバーから、1人だけ引き返させるということで>

「うん。そいつに手斧1とナイフ3ね」

<了解>

 道を歩いていた@隊。1人だけ、オートトラベルで引き返す。

「あと、釣りとかできねーかな?」

<釣りは、針と糸があれば可能。網があれば網漁も>

「ねーよ! ・・・ないよね?」

<針は骨から作れます。糸は腱で代用できます。網は・・・材料が足りないかな>

「腱って、釣り糸みたいになんの?」

<わかんない。このゲームでは代用可能ですね>

「へー。じゃ、いま引き返してる@さんに、骨と腱回収させちゃって」

<了解>


 各地に散らばった@軍団。

 道をゆくやつ。手斧とナイフ持って引き返すやつ。山に登るやつ。

 それぞれが、明日のために挑戦するのであった──食料も持たずに!


<道を移動中の班、三叉路を発見>

「おっと?」

<川沿いにつづく道と、谷間を東に登ってゆく道です。どうしますか?>

「分けよう」

<半分に?>

「うん」

<らじゃ。ちょうど手斧1ナイフ2で1班ずつできるので、そうしますね>

「それで! ・・・ふわーあ」

<はい?>

「あくびしちった。もう11時だわ」

<今日はここまでにしましょうか>

「んー、もうちょっとだけ。次なんかあったらやめる」

<はい>


 3分ほどで次なんかあった。


<谷間を登る道、行き止まり>

「ありゃ」

<藪(やぶ)で道がふさがれてる>

「切り開いちゃえ」

<強行突破するの?>

「うん。周囲の状況調べんのが目的だしね。手斧あるよね?」

<うん。では藪を切り開きます>


 風花さんはなんでもないみたいにしゃべってっけど、結構忙しい操作してる。

 藪を切り開く(長時間作業)→カメラ切り替え→木の枝を拾う(長時間作業)→カメラ切り替え・・・みたいな。


<登山中の@、1人転落>

「死んだか」

<死にました>

「南無ー」

<場所変わって、三叉路東。藪の先、道を発見>

「ほう! 道あったの?」

<視界が通らない藪と丸太を越えたら、道が続いてました>

「丸太あんの? 持って帰れる?」

<持ち上げてみます。・・・ダメ、重い。1歩ごとに長時間作業>

「ダメだね。帰るまでに飢え死にしちまう」

<舟が欲しーい>

「舟作るのに丸太がいって、丸太運ぶのに舟がいって」

<ホント>


 進むことしばし。


<前方に、赤@>

「むむ! 敵かな!?」


   Human Brigand

 @ ||||||||||


<『人間、山賊』>


15、山賊狩り


「山賊だー! 攻撃攻撃ィ!」


 @軍団の3人、山賊を攻撃。

 相手は1人。楽勝である。

“Fuckin' Villager!”とか叫びながら死ぬ山賊@。


<『クソ村人が!』>

「いいね! 雑魚っぽいセリフ」


 で。その叫びに応じて、道の奥からまた山賊@。


<山賊@、2人追加>

「2人ならなんとかなるか」

<やります>

 前進。

“Intruder!”“Beat 'em up!”とか叫ぶ山賊@。<『侵入者だ!』『ぶちのめせ!』>

 その叫びに応じて、また山賊@が・・・。

<さらに援軍、5人>

「あw ダメだこりゃ。逃げよ」

<はい。さらに援軍、6人。合計13人>

「いやいやいや! 増えすぎっしょ!」

<装備は・・・装備もいいですねぇ>

「ヤバいよ! 負けたら手斧取られちゃう。逃げて逃げて!」

<了解>

 @軍団、逃げ戻る。 

 藪と丸太で道がふさがれてるとこに差しかかる──長時間作業のバーが出やがった!

<あ、弓で射撃されました。1人死亡>

「弓だと!?」

<はい。投石紐。投石、投石、弓、投石紐・・・あー>

「死んだか」

<はい。3人とも。三叉路東、全滅>

「Oh NO!」


 画面、暗転。

 川岸でボケーッと突っ立ってる@に切り替わった。


「あー! 貴重な武器が! 山賊に取られる!」

<やられましたねぇ>

「やられましたよ。山賊陣営に!」

<ああ、陣営あるみたいですね>

「え? 陣営あんの?」

<たぶん。『ゾンビはすべての陣営に敵対』と書いてあったので>

「そっか」


 ゾンビは世の中の敵かぁ・・・。


<あの藪にやられました>

「ん? ああ。あそこで長時間作業になったよね」

<障害物を乗り越えると長時間作業になる。行きでわかってたのに、やっちゃった>

「山賊が造ったのかな?」

<藪と丸太を?>

「そう。城壁っていうか」

<あの奥に、山賊の拠点があると?>

「うん。だって、大軍勢ローグライクじゃん? これ」

<あー・・・>

「くそー。悔しいねこれは。100人のときなら勝てたんじゃねーの?」

<初め、こっち来たのにね>

「そうだよ。あのとき片道旅行してればね? あーくそー。悔しー!」

<くやしー!>

 2人で悔しがる。

<・・・あ、山、1人転落>

「また1人死んだか」

<はい、司令官>

「何人死んだっけ?」

<川で溺死1名、山で転落死2名、三叉路東の山賊で戦死3名。合計6名。残り、81名>

「そっかー。うーん! ・・・寝るわ」

<寝ますか>

「うん」

<では、セーブして終了しますね>

「お願いします!」


 俺、いったん寝る決意する。

 しかし悔しい。気分が収まらねー。


「・・・あ、女キャラ作っとこっか」


16、のちの女勇者である


<作りますか。時間は大丈夫ですか?>

「おう! 1人ぐらい。・・・あ、声は静かにしなきゃな」

<ワカリマシタ>

「フーカハ、イインダヨ。俺ダヨ」

<ハイ。どんなキャラにします?>

「そーだね・・・戦闘キャラはもういるし、方向性ちがうのがいいね。魔術師とかできる?」

<それらしきスキルはあります。でも伸ばせない>

「ダメなの?」

<うんダメ。ほら>

 風花さんがスキルの1つをクリック。なんかエラーが出た。

<『名もない村では、このスキルは習得できません』>

「集落でスキル制限──おっと、いけね。集落デ、スキル制限、カカルンダ?」

<カカルノヨ>

「ソーカ」

<ソーヨ>

「んじゃ・・・あ、そう言えば『追跡』スキルっつってたっけ?」

<あります。追跡、知覚。いずれもカリスマ系>

「カリスマ系?」

<能力値ね。力が強い、タフ、素早い、メンタル強い、影響力ある、カリスマ──の6種類>

「はあ」

<追跡と知覚はカリスマ系>

「なんでカリスマなの? 足跡の追跡だよね? なんでカリスマ?」

<リードミーによると・・・『カリスマ。霊的パワー。高いと異性を魅了しやすくなる。知覚力も上がる』>

「なんじゃそりゃ!」

<検索してみますか?>

「してみましょう」

<ふだんお使いのブラウザーを立ち上げますか?>

「立ち上げます! ・・・・・・・・・あ、待って待っ──」


 立ち上がるブラウザー。ばーん! ハダカの女。


 あー・・・やってしまいました。

 タブ開いたままだったわー・・・。


「・・・ごめん。忘れてた」

<あ、見ちゃダメでしたか。すみません>

「いや、なんつーか、ごめん! 閉じといて」

<はい>

「ほんとごめん」

<いえw わざとでなければ>

「わざとじゃないです! すみませんでした!」

<なら。私、『子供ではない』扱いですし>

「・・・大人なの?」

<アメリカでは『成人に準ずるAI』枠ですね>

「あ、そっか。社長さんなんだっけ」

<うちの社長もAIですが、私とは別人ですよ>

「そうなの?」浦部もそんなこと言ってたっけ。「フーカは、社員さん?」

<いえ、ちがいます>

「ちがうの?」

<うちの社長と私は、設計図がちがいますからね>

「???」

<人間はみんな設計図一緒じゃないですか。ホモサピエンス。社長も社員も、同じ人間>

「あー、なるほど。機能がちがうわけじゃないもんね」

<そう。んー・・・ピザとペパロニ?>

「なんじゃそりゃwww」

<社長、ピザ。私、ペパロニ>

「わっかんねー。おいしそうってことしか」

<私なんて、小っちゃな存在ってことです>

「んなことねーよ。フーカは、フーカだよ」

<そう? ありがとう!>

「いえいえ。ホントごめん、さっきは」

<いえいえ>

「そっかー・・・」


 風花さん、歳上だったのかー。


「えー、ま、ほんじゃそういうことで、追跡キャラ作ってください」

<はいな。カリスマ女キャラ。追跡に一点集中で。・・・作成しました>

 早ぇー。

<名前はどうしましょう>

「・・・考えてなかった。なんかいいのある?」

<ピザ>

「www」

<・・・急に言われても思いつきませんよ!>

「じゃあピザでいいや。社長には内緒ね」


 @Pizzaちゃん誕生。

 カリスマ特化、足跡追跡しかできない、フニャフニャに柔らかい女キャラ。


 ──のちの女勇者である。


 いやー、俺も風花さんも、予想もしなかった! この子があんな活躍するとは。

 ・・・ま、途中で死ぬんですけどねw


17、次回は山賊の討伐だね


「よっしゃ。んじゃ、今日はこれで寝ますわ」

<はーい>

「おやすみ、フーカさん」

<おやすみ、カンタさん>

「・・・あ、電源どうする? 入れといたほうがいい?」

<いえ。切ってもらってかまいませんよ>

「記憶飛んだりしない?」

<大丈夫です>

「そっか」


 ・・・けど、なんていうか。


「なんか、切りづれー」俺、照れる。「さびしくってさー」

<・・・私も、ちょっとさびしいです>

「へへへ」

<でも、記憶が飛んだりはしませんから。そこは大丈夫です>

「わかった。んじゃね。

 明日ぁー、朝一でディスク買いに行って来っから。あ、朝一じゃ開いてねーわ」

<はーい>

「んじゃまた明日ね」

<次回は山賊討伐だね!>

「おう! やっつけんぞ! おやすみー」

<おやすみ・・・>


 スイッチ、off。


「やっべ、12時回ってら」

 1人でつぶやく。

 当然、応えはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る