TAIさんとあそぶ! 大軍勢ローグライク

min(みならい)

幹太とフーカ

1、TAI マイクロクライアント サービス


 2039年、9月3日、土曜日!

 浜之松(はまのまつ)幹太(かんた)、帰宅しました!

 パソコンスイッチON!

 やっ・・・・・・・・・と、遊べる!

 夏休みバイトして買ったやつ。休み中にあそぶつもりだったのに発送遅れやがってよー、ちくしょー!

 あとそう、TAIもね。

 TAIさん。買っちゃったよ。

『絶ッ・・・対、気に入るって! 買えって!』

 って言うから。パソコン部の浦部(うらべ)が。

 しゃべってくれるらしーんだけどね? AIで。

 あ、そうそう、ヘッドセットいるんだった。

 ヘッドセットっても、ボイチャ用の安モンだけどねw

 ──ゲームも浦部に押しつけられたんだよなー。

 大軍勢でローグライク? とかいうやつ。やったことねーんだけど。フリーだからいいけどさ。

 準備OKかな。

 OKだね。あー、そわそわしてきた!


[T] TAI マイクロクライアント サービス


 これだね。

「起動!」


<・・・初めまして。

 TAI マイクロクライアント サービスです。>


「うおお!?」

 ヘッドフォンに、声が!

 ・・・ってびびってると、


┏TAI━━━━━━━━

┃ 音を出さないほうが、よろしいですか?

┃ →はい(TAIは、静かにします)

┃  大丈夫(TAIは、しゃべります)

┗━━━━━━━━━


 モニターにポップアップ出てきたよ。


「え? えっと・・・大丈夫、と」

 ドッキドキしつつ、マウスを持ってっ──

<大丈夫ですか? では、声で会話をしますね>

「うわお!」

<はい?>

「い、いや、まだクリックしてないのに・・・???」

<『大丈夫だよ』と、マイクから聞こえましたので。大丈夫ですか?>

「あ・・・は、はい。大丈夫、っす」

 すげー人間っぽいんだもん。一瞬電話かと思っちった。

「びっくりした・・・」

<驚かせてすみませんでした>

「あ、いえいえ、いいんすけど。うん。ヘッドホンだし」

 やっべ。やっべ!!! ドキドキしてきた。

 耳ゾクゾクしてきた! 安モンヘッドホンなのに!

「えっと、」 

<はい>

 汗出てきた。エアコン付け・・・付けてるよなぁ。

「えーと、あのですね。今日、初めてで。

 一緒にゲームしてーなと・・・してほしいんですけど」

<ゲームですか? いいですね! なんてゲームです?>

「あ、フリーの・・・タイトルなんだっけ」

 ゲーム起動!

「これなんすけど」

<モニターを見てもよろしいですか?>

「ん?」

<見られたら困るもの──たとえば日記とか。そういったデータは開いていませんか?>

「え、えと、机に?」

<いえ。パソコンの、モニター画面に>

「あ、はい」

 そうだよね。なにパニクってんんだ俺。

 つまりアレですね! 男子高校生が見に行きがちな、あんなサイトとかこんなサイトとか! そういう話ね!

「はい。大丈夫です」

<モニターを見てもよろしいでしょうか?>

「あ、はい。どうぞ」


┏TAI━━━━━━━━

┃TAIは、モニターを見ています・・・


2、TAIさんは、こうおもう


┏━━━━━━━━━━

┃ RULED SPIRITS

┃ #.@@~~~~~~~W~###

┃ .@.@@.ZZZ.Z#####

┃ #######.Z..Z.$##

┃ > Create World

┗━━━━━━━━━━


<ルールド・スピリッツ──ですか>

「タイトルからして、なんのこっちゃー? って感じなんすけど」

<そうですね>

「TAIさんはどう思います?」

<私の意見ですか?>

「はい」

<クリアすれば、わかると思います!>

「そうですね!」

 Create World をクリック。

 ゲーム画面が暗くなって、『しばらくお待ちください』的なものと、Tips的なものが出る。

「なんて書いてるかわかります? 英語わかんなくて」

<『死んだキャラクターは、ゾンビになります』>

「おお! 翻訳もできるんですね」

<America生まれですからね!>

「発音がネイティブだ!」

<Sure!>

 ポツーンと光る緑の点が出てきた。

 “Unknown Village”の文字。

「これは?」

<『名もない村』ってとこでしょうか?>

「なるほど」

 クリック。

 ぶわあ! 一気に文字が出てくる。


┏━━━━━━━━━━

┃ Name:?

┃ Race >Human

┃ Bp -

┃ St - Ht - Dx - Mn - Pr - Ch -

┃ Food - Life - Speed - Spell - Channel - Charm -

┃ Weapon:nil Shield:nil Armor:nil

┃ :

┃ [Confirm] [RESET]

┗━━━━━━━━━━


「昨日、ここでやめちゃったんすよ」

<ふむふむ>

「えっと・・・TAIさんわかります?」

<いじってみれば、わかると思います!>

「そっすね」

 ──そうじゃねー! 英語だらけなのが疲れるんだよ!

 俺がマウスをグルグルしてると。

<よければ、私がいじってみましょうか?>

「え?」

<指示があれば、マウスやキーボードの操作もできますよ>

「しゃべるだけじゃないの!?」

<はい。TAIサービスは、パソコン作業を代行するAIですから>

「へえ・・・」

 じいちゃんばあちゃんが喜びそうなサービスだ。

 ・・・でも、勝手にパソコン触られんのはちょっとなぁ。

 浦部お勧めのTAIさんだけど・・・。

「そっすね。じゃ、いじってみてもらえます? 俺、ちょっと電話してくるんで」

<はい。方向性はありますか?>

「ほうこうせい」

<戦士とか、魔法使いとか?>

「ああ。そだね。初めてだし、戦士で」

<了解しました! 戦士を作ってみます!>


┏TAI━━━━━━━━

┃TAIは、マウスを操作しています・・・


3、パソ部の浦部


 スマホ持ってトイレへ移動。電話する。

「・・・あ、浦部? 俺だけど」

『誰だよ』

「俺々」

『名乗れやw カンタか。なんだよ。あ、TAIさんどうよ?』

「ああ、うん。いましゃべったとこ」

『すげーだろ?』

「うん。すげー」

『でしょでしょ! 買って良かったっしょ!』

「うん。マジすげー。いまゲームやってもらってんだけど」

『ええ・・・? 1人でやらせてんの?』

「ああ」

『カワイソーじゃん。1人で作業させるとか。しゃべれよ』

「しゃべっったっつーの。

 いまはちょっとさ・・・大丈夫かな? と思ってさ。セキュリティとか」

『あー』

「TAIさん、全部さわれるわけでしょ? パソコンの中」

『まーね。TAIさん本気出したら俺らじゃどうしようもねーよ?』

「え。恐」

『そりゃおめー、相手トゥルーAIよ? でもね、』

「とぅるーえーあい?」

『え、うん。ホンモノのAI。True AIで、TAIよ。なんせ社長さんだからね』

「はい?」

『OSサービスで下積みしてさぁ、カネ稼いで自分の会社作ったんだって』

「・・・AIが?」

『そう。AIが』

「TAIさんが、社長やってんの!?」

『そう。AI社長』

「おいマジかよアメリカすげーな」

『すげーよな』

「そんなAIがあの値段で売ってんの?」

『本人じゃねーよ!? マイクロクライアントって言ったっしょが』

「はあ」

『言やー、俺らが買ったのは店員さんでさ、その店員さんが本社サービスの仲介してくれてんの』

「はあ」

『要は、野良のAIとかじゃねーよってこと』

「そっか。まあ、うん、あんがと。トイレだしこのへんで」

『うんこかよ』

「ちげーよ!」

『フーン。じゃーな。──あ、声いじった?』

「声?」

『TAIちゃんの声。めっちゃ可愛くできんだぜ? うへへ』

「おめー気持ち悪ぃーよ! どうやんの? うへへ」

『本人に訊けよ』

「あそっか」

『そだよ。TAIさん、話しかけられんの好きだからさ。

 名前もつけてやんなよ? じゃーな』

「あ、うん。──え? 名前?」

『ブツッ』

 切るのはえーよ!


4、TAIさんの声が!


「えー・・・ただいま戻りましたー」

<おかえりなさい>

 やばい。なに。おかえりなさいって。

「えっと。TAIさんって、声変えたりできる?」

<私の声の設定ですね? できますよ。どんな声がお好みですか?>

「え? そ、そーっすね・・・」


『俺好みの可愛いくてエロい女の子で、あと距離感は恋人って感じでお願いします!』

 言えねーよ!


「えー・・・あのぅー」

<男ですか? 女ですか? 現在は『性別を感じない声』です>

「そ、そうですね・・・いや、どっちでも・・・あ、いや・・・」

 なんでこんな緊張すんだろね? 相手AIなのに。いや、AIだからかな。

「じゃ、じゃあ、女で・・・」

<わかりました。では・・・>


<こんにちは! こんな声で、いかがですか?>


「うっ!」

 なんかすごい可愛い女の子の声が聞こえてきた! んだけど・・・。

 同学年ぐらいの女・・・俺、ダメなんだよね。

「んー・・・」

<ダメですか?>

「あ、いや、」

 俺は手を振った。

 ・・・TAIさん無反応。

 あ、モニターに映ってるものしか見えないんだっけ。

 そっか。

「なんつーか、もうだいぶしゃべったんで、最初の声がTAIさんってイメージで」

<なるほど。それでは・・・>


<トーンを元に戻し、声帯を女に近付けました。

 それから・・・個性を少し、足してみました。・・・いかがですか?>


「うおっ!」

 声が!

 かすれてる!

「も、もうちょい。もうちょいしゃべってみてください」

<はい。いくらでも。

 私は、TAI マイクロクライアント サービスです。

 ただいま、声のテスト中です。・・・いかがでしょうか?>


 知らなかったよ!

 俺、ハスキーボイス好きだったみたい!!!


「いい! これで!」

<あ、はいw>TAIさんの語尾に、笑いがくっついた。<じゃあ、この声にしますね>


┏TAI━━━━━━━━

┃TAIは、声の設定を変更しました。


5、幹太とフーカ


「いやー・・・、いいお声ですね・・・」

<ありがとうございます>

 俺、顔真っ赤である。

 落ち着かなきゃ。ゲーム画面見る。

「あ、ほぼ埋まってるんすね。データ」

<はい。スキル制のRPGみたいですね>

「すきるせい」

<経験点で、スキルを別々にアップする>

「へー! 全然わかんなかったんすよ。助かります。すごいね」

<光栄です!>

 カチカチカチ! TAIさんクリックである。

「あ、んで、またTAIさんの話なんすけど」

<はい>

「名前、つけれるんですか? TAIさんに」

<はい! つけれますよ。ぜひお願いします!>

 あれ?

 なんかTAIさん、熱こもってますね?

「名前ね」

<はい!>

「──ちょっと考えてきます!」

<はい!>


 俺、また離席。

 カチカチカチ! TAIさん、キャラいじってる。気のせいか、クリック早い。

 はー。冷蔵庫行って牛乳呑む。ふー・・・。


「『ミルク』とか、どうでしょうか!」

<・・・牛乳呑んでます?>

「あ、はい。ちょっと」

<・・・・・・ところで、このキャラクターの名前、どうします?>

「え? うーん、思いつかねえ。最初のキャラだし、タローでいいや」

<・・・・・・・・・Taro>

「うん」

<で、私はMilk>

「あ、待って。考えます」


 俺、必死で考える。

 ミルク、ミルクAI・・・ミルカイ? いやいや! ミルクから離れろって!

 トゥルーAIっつってたよね? そっからひねろう。

 トゥルーエーアイ・・・ツゥーア・・・フーア。フータ。男の名前じゃん。フーカ。

 あ、フーカでいいかも。『カ』は俺の名前にも入ってるし。


「フーカ!」

<フーカですか?>

「えっとね、字はこう・・・」

 俺、テキストエディタ立ち上げ。あんま得意じゃないけど、がんばって入力、変換。


 風花


<風花・・・>

「気に入った?」

<はい! 気に入りました!

 私は、風花です。どうぞ『風花』とお呼びください>

「うん。俺は、浜之松幹太ね。友だちにはカンタって呼ばれてる」

<カンタさん──もしかして、『カ』の音をくれたんですか?>

「うん」

<うれしいです!>


 あ、これもうダメです。俺落ちました。


<『かざはな』と読めば、晴天の雪・・・素敵です!>

 ・・・あ、そうなの?

「あー、うん。いいでしょ? じゃ、えー・・・、フーカ。遊ぼっか」

<はい、遊びましょう、カンタさん!>


┏TAI━━━━━━━━

┃TAIの名前を『風花』にしました。


6、初プレイ


<Taroは、このデータで行きますか?>

「うん。まずはお試しで」

<はい。ではConfirm>

 カチ。

 名もない村の横に、小っちゃい@が出現。よく見るとTaroって書いてある。

「これがTaro?」

<そのようですね>

「なんで@なの?」

<ローグライクの伝統だからじゃないですかね?>

「そうなんだ」

 画面はふたたびキャラデータに。中身はリセットされてる。

 右下に“Play”ボタンが増えている。

<1人作成したので、プレイできるみたいですね>

「でもキャラデータ画面だよね」

<はい>

「もう1人作れってことじゃない?」

<かも知れませんね>

「やってみましょう。同じく戦士で、ジローね」

<はい。では作成します。・・・作成しました>

「早ぇえ!」

 マウス操作にまったく無駄がねーの。これは人間には真似できねーわ。

 @ Taro の斜め下に @ Jiro が出現しましたね。

「何人作れるんだろ?」

<やってみます?>

「めんどくさくない?」

<めんどくさい作業こそ、このフーカにお任せを>

「おお。じゃ、しばらくお願いします。──えっと、フーカさん、お願い」

<はい。ところで、カンタさん?>

「なに?」

<このゲームの説明書があったら、見たいのですが>

「ああ、あったと思うよ。リードミー。・・・あった、これ」ファイル開く。

<スクロールしてかまいませんか?>

「どーぞどーぞ」


 風花は、まず説明書を上から下までスクロール。

 それから、キャラクター作成の説明らしきところへ戻して、<ここですね>とゲームに戻った。

<名前どうしましょう?>

「番号にroでいいよ」

<全部戦士でいいですか?>

「素早い奴も作ってみよっか」

 ってな会話をして、どんどん作成。

 @、うじゃうじゃ増える。

「なんか・・・害虫みてーだなw」

<ほんとですねw ・・・33人目を作成しました。上限何人なんでしょうね?>

「大軍勢ローグライクらしいからなー。100人目指してみる?」


<これで100人です>

「ほんとにできたwww」

 これもう人間じゃなくてAI向けゲームなんじゃねーの?

 ・・・あ、だから勧めてくれたのか。浦部、やるなぁ! 口では言わねーけど。

「んじゃプレイしてみますか!」

<はい! では、操作お返ししますね>

 ゲーム開始。

 100人の@が画面にぎっしり!

「・・・動けねえ」

 中央のTaroさん、まったく動けません!

<マウスクリックで、操作キャラを切り替えれるみたいですよ>

「クリックね。・・・あ、ホントだ」

 端っこのキャラクリック。

 動かしてみよう。スマホ操作するときのクセで、ドラッグした。

 したら、ぶわーって選択されちまった!

「うおっ」

<ドラッグは、範囲選択だそうです>

「そうなの」

<カーソルの右を押してみてください>

「かーそる・・・」

<十字キーの右>

「ああ。カチっとな」

 ザッ!

 @軍団、一斉に、右へ一歩!

「気持ち悪っwww」

 上! 下! 左! 右!

 なんかパズルゲーみたい!

<カンタさん、木にぶつかってる子がいますよ>

「ほんとだ」

 あっちで@21roが引っ掛かり、こっちで@47roが引っ掛かり・・・。

「・・・なんで背景は絵なの? @は文字なのに」

<そうですね>

「俺さ、キャラはやっぱ人間の絵のほうがいいと思──っと、なんか来た」

 画面の端っこ。

 村の出口かな? @19roたちがいるあたりに・・・

 B という文字が出現した。

 マウス重ねてみる。

 “Brute Boar”。

<ブルート・ボア──『あばれイノシシ』ってとこでしょうか>

「敵かいな?」

 何の気なしにもう一歩動いた、その直後!

 イノシシが!

 突然、@19roの目の前に移動して──


 ズゴン!

 SEが鳴って。


 @19roが、灰色になった。


「は?」

<19ro、死亡したようです。Lifeが-23>

「え、ちょ」

 俺あわててキー操作。

 ザッ。@軍団、無駄に一歩動く。

 ズゴン!

<18ro死亡。Life-14>

「えええ? こ、攻撃。攻撃はどうすれば」

<一般的なローグライクは、相手に体当たりすれば攻撃ですが──>

「こうかな?」

 俺移動。28roがイノシシに攻撃。

 イノシシの反撃。28ro死亡。

「強ぇ! ってか攻撃したのに」

<外れたみたいですね>

「うわー!」

 29ro攻撃。命中。ちょびっとダメージ。

 イノシシの反撃。29ro死亡。

「クソゲー!!!」

<カンタさん、全員をマウスで範囲選択してみてもらえます?>

「お、おう。了解、フーカ」

 マウスでがーっと。全員。イノシシまで入っちゃったけど。

<イノシシを右クリックして・・・>

「はい」

 選択肢が出て来た。

<いちばん上の選択肢“Attack”クリックで、一斉攻撃です>

「おお!」

 @軍団、イノシシを攻撃! 3発ヒット!

 イノシシに反撃され、また1人死亡!

「すごいね。なんでわかんの? 操作」

<さっき説明書読みましたので>

「かしこすぎる!」

<光栄です>

「フーカさん!」

<はいカンタさん>

「操作任せるから、イノシシを退治してくれたまえ!」

<了解です! キーボードも操作してよろしいでしょうか?>

「いいよ!」


┏TAI━━━━━━━━

┃風花は、キーボードを操作しています・・・


7、風花さん、せんとうす


<攻撃します>

 ずばば!

 @軍団の攻撃。イノシシのHPを削る。

 イノシシの反撃。1人死亡。

「1ターン1キルみたいなバランスやめろや!」

<強敵ですね>

 ぼろぼろ倒れていく@軍団。

 しかし、イノシシのHPもマイナスになった。

「やったか!」

<イノシシ、Fury状態>

「ひゅーりー?」

<『激怒』ってとこでしょうか。攻撃力が上がったみたいです>

「HP、もうないよね?」

<はい。イノシシのHPは、マイナス7>

 ブフォ!

 変なSE。イノシシの吠え声・・・なのか?

 ズゴゴン!!

 @軍団、1列まとめて吹っ飛ばされる! 2人死亡、3人HPマイナス!

「アホな!!!」


 @100人 vs B(ブルート・ボア)1頭。

 結果は──

<イノシシ、死亡しました>

 @の勝利である!


「・・・何人死んだ?」

<13人死亡、7人がHPマイナス>


 ──ズタボロだけどね。


8、ローグライクは、はらがへる


「どうしたらいいの? こんなん」

<敵を倒して経験値を稼ぐんだと思います!>

「いや、うん、そうなんだろうけど。

 あ、そういえば、経験点入った?」

<入りました。が・・・たぶん、÷100されてます>

「あー、人数割りかぁ」

<少なすぎて、成長はできませんね>

「くっそー。13人死んで成長もなしかよー」


 腹立つわー。

 せっかく風花と楽しくプレイしようと思ってたのに。

 ・・・。

 ・・・ああ、そうだよな。俺が怒っちゃ台無しだよね。


「ま、いいや! 初めてだからね! 気にせず行ってみよう」

<了解しました!>

「イノシシ来たほう行ってみよっか。村から出れそうだし」

 村の外へ。

 イノシシの死体を踏み越えて。死んだ@を後に残して。

 村の外は、森だった。細い道が続いてる。

「・・・2人しか並べないね」

<隊列が伸びてしまいますね>

 87人もいるんで、画面の外まで列が伸びちゃう。

「見えないのにどうやって操作してんの?」

<『追尾』コマンドがあるので、数珠つなぎに追尾させてます>

「かしこいね」

<よくできてますよね>

 いや、風花のことだよ。


 森をゆく@軍団。


「む! 敵発見!」

 b の字が前方に。風花がマウス合わせる。

 Small Deer。

<小さなシカ>

「倒せそう!」

<やっちゃいますか>

「やっちゃいなさい!」

 前進。しかし。

<逃げましたね>

 こっちが3歩ほど前進するあいだに、シカは画面外へ消えてしまった。

「足速ぇー・・・」

<1マス動くあいだに、シカは2マス動いてました>

「フーカ隊長、これは飛び道具がいりますよ」

<そうですね、カンタ司令>


 さらに歩いてると、なんかメッセージが。


<『Taroは空腹になった』>

「は?」

<Stにペナルティ──力が弱くなりました。攻撃のダメージが低下します>

「食いモンなんてあったっけ?」

<いえ。手持ちにはありませんでした>

「パンとか落ちてなかったよね?」

<はい>

「どーすんの!?」

<説明書には、『村で買ったり、狩りをしたり、釣りをしたり』とありました>

「・・・初めの村で買いものしなきゃダメだったの?」

<かも?>

「引き返しますよフーカさん!」

「はい、カンタさん!」


 Taroの次はJiroが、Jiroの次は3roが、空腹状態に。

 87人の飢えた男共が、村を目指して行進する・・・


「これオチ予想ついたわ」

<なんです?>

「食料が足んねーっつー」


 村には雑貨屋が1件だけ。食料は・・・


<ライ麦のパン、3食分。シカの干し肉、2食分。クッキー、7食分──以上です>

「だよね! こんな村で大軍勢養えないよね!」

 ひとまず、ナンバーの若い順に飯を食わせる。

 パン食うTaroたち12人。何も食えない75人。

「シカが捕れたらなぁ・・・」

<投石紐も販売されていましたよ>

「飛び道具?」

<はい>

「じゃあ買っときましょう。ってか、お金余ってたら全部買っちゃって」

<はい。全部買えます。

 投石紐1、投石紐の弾27、手斧3、ナイフ7、火打ち石1、レザージャケット3。

 食事したメンバーを優先的に武装させます>

「そうなるよねw 世知辛ぇー」

 風花の操作を眺めつつ、次の手を考える。

「シカは逃げるからなぁ・・・向かって来る獣いないかな」

<あばれイノシシ?>

「ありゃー強すぎだってw ──あ。そっか。肉あるじゃん。イノシシ」

<・・・なるほど!>


 飢えた@軍団。さっき倒したイノシシの死体に、殺到である!

 ところが・・・

 ちょうど、イノシシの死体にたどり着いたところで・・・

 @19ro(死体)が・・・


 Zになった。


   Zombie 19ro

 Z |||||||||


「なにこれ」

<19roがゾンビになったようです>


9、決戦! ゾンビ軍団


「あー・・・Tipsで言ってたね。『死んだらゾンビになる』って」

<言ってましたね>

「フーカさん?」

「はいカンタさん」

「これはまずいですよ」

<まずいですね>

「退却じゃー!」

<どこへ?>

「わからんwww」


 ゾンビから遠ざかる@軍団。

 その背後で、@がまた1人、Zになった。

 こっちが1マス動くたびに、1人、また1人、@がZになってゆく・・・。


「どっか逃げ込みたいところだが」

<87人ですからね>

 人数が多すぎて、入れる場所がありゃしねー。

 @軍団、雑貨屋を通りすぎる。

 雑貨屋、“Ahhh!”と悲鳴を上げて店の扉を閉める。ゾンビに反応した?

 Zの群れ、閉まった扉を殴り始める。

「これはいかんwww」

<村で唯一の店が>

「フーカさん、雑貨屋さんを助けますよ!」

<了解です、カンタ司令!>


 @87人 vs Z13体。

 結果は──@の勝利である!


<死者なし。軽傷者17名>

「お見事!」

<手斧を買ったのが正解でした>

「あっちハダカだったもんね。

 ・・・ってことはさ、死んだら装備回収しないとダメってことだねw」

<そうなりますねえ>

「このゾンビ、復活するんかいな?」

<さー?>

 風花さん、ゾンビの周囲に手斧戦士を並べる。

 イノシシのほうには、ナイフ持った腹ぺこ@どもを向かわせる。

 そうして何ターンか消費したところで・・・


 灰色になっていたZの1体が、消えた。

 代わりに、半透明の光みたいなものが現われる。


 淡い光は、画面上方へ、吸い込まれるように飛んでった。


「・・・なに? いまの」

<なんでしょう>

「人魂(ひとだま)かな」

<素早かったですね>

「カッ飛んでったよね」


 他のゾンビも同じように、消えては光となり、吸い上げられてゆく。

 いまのところ、害はないようだが・・・?


 ともあれ、一件落着である。


10、晩ごはんだよ!


 風花さん、イノシシの解体に取りかかる。なんか、バーが表示された。

<解体は長時間作業になるようです>

「これって、他のメンバーは動かせるの?」

<そのようですね>

「なるほどね。なにしよっか?」

<焚き火とかどうでしょう?>

「あ、そっか。火があれば肉焼けるもんね。じゃあ、それ!」

<薪(まき)はどうしましょう>

「手斧でどうにかなんないかな? すぐそこに森あるし」

<やってみます>風花さん、手斧戦士を移動させる。<できそうですね!>


 手斧班が回収してきた枝に火をつけて(長時間作業)、焚き火スタート。

 余った枝はナイフで削って『串』にする(長時間作業)。

 解体(長時間作業)したイノシシの肉を刺して──

 串焼きバーベキューである!(長時間作業)


「やべえ。うまそう。腹減ってきたぁ」

<焼き上がりました!>

「喰おう!」

<食べましょう!>

 盛り上がる2人。ところがどっこい。


「かんた!!! 晩御飯って言ってんでしょーが!」


 あー・・・、これはいけません。母ちゃんです。キンキン声なってます。

「やっべ。お袋キレてるわ。行かなきゃ」

<はい>

「ごめんフーカ、また後で!」

<はい、カンタさん。また後で!>


┏TAI━━━━━━━━

┃風花は、スリープしています。

┃起こすときは、呼んでください。

┗━━━━━━━━━━

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