ラムネ色に染まった世界に私は辿り着く

想月ベル🌙

ラムネ色に染まった私の世界

 生まれて初めて学校をサボった。

 あの時の私はまだ何も知らないとても若い高校生の頃だった

 私はある都会の有名な進学校に通っていた。中学から勉強はそこそこ得意で一生懸命努力して受験して、合格したのに、女子特有の小さなことがきっかけで私はいつの間にか一人ぼっちになっていた。自分が思い描いていた理想の高校生活と今の現状に吐き気が起きそうだった。私の周りには誰もいない、この孤独をどう埋めればいいのかわからなかった。勉強だって疲れた、なんのために勉強するの?将来のためでも頭にはわかっても私には将来というものが想像できない。けど親にも先生にも相談できない、ただ黙って机に向かいペンを握る。別に強制されることではないが私には反抗する勇気がなかった。どこかで救い求めていた私は・・・

 *

 八月になっても沢山の夏期講習にうんざりした。私はサボって学校の方向とは真反対の電車にいつの間にか乗っていた。生まれて初めてのサボりだった。

 いつもの電車の窓からは違う景色、学校をサボってしまった罪悪感とは裏腹に不思議とワクワクで胸が高鳴っていた。

 ガタンコトンとリズムのいい音と共に外の景色が段々とビル色から山色に変わっていった。スマホを取り出して時間を確認すると沢山の通知に一瞬ヒヤッとしたがその思いを封じ込めるように電源ボタンを力強く長押しした。スマホのバイブル音がして電源オフになったのを確認し、ほっとしたあと、窓を覗いてみると緑一色になっていた。

 ボーっと景色を見ていると駅員のアナウンスが「終着駅」という言葉が聞こえて降りないといけないと席から立ち上がった。

 終着駅に降りたが思ったよりも人がいない。

 田舎とはいえ終着駅にはもっと人がいるもんだと思っていたが誰もいなかった。

 そういえばネット記事で「もし世界にあなただけが生き残ったらどうするか」という心理テストがあったことを思い出した。まさにここは私しかいない世界。

 けど都心の学校には人がいっぱいいて電車や車やバスの雑音が響いていたはずなのに私にとってはただの寂しい静寂にしかなかった。

 でも今は寂しい空間というより心地良い、私しかいないのに自然が味方になってくれていると感じがした。駅から出ると眩しい日差しに目を細める。バッグに入ってある日傘をさす。

 歩きだすとこの季節の野菜を収穫していたり、ガーデニングや田んぼの手入れをしているおじいちゃんおばあちゃんが沢山いた。周りをみてもやはり私と同じくらいの年齢の女子はいなかった。まあそもそもこんな田舎に私と同じくらいの女子なんているはずはないだろうと思った。

少し歩き始めると足元に緑色の塊があった。

「ぎゃあ」

とても人に聞かせられない悲鳴が響く。蛙の死骸だった。

気持ち悪い。それが素直な感想だった。私の住む町では動物の死骸なんて無い。

あってもこの時期では蝉の死骸くらいだろう。初めて見るグロテスクな物に私はふと思う。私の町はつくづく人工的な物で出来ているのだと気づく。

信号を渡ると一本の橋が見えた。外側からみると楕円ぽくみえるような石橋だった。橋の下を覗いてみると下には五メートルくらい先に川が流れていた。速くも遅くもない川の流れをジーっとみていると人が仰向けに流れていたのに気が付いた。びっくりして死体が流れていると思ったが長方形の浮き輪に浮かんでいてた、若い男の人だった。

「あっ」

 たまたまその男の人と目が合ってしまい男の人はびっくりしてザボーンと浮き輪から落っこちてしまった。

 どうしよう、このまま逃げるのも後味が悪いし、行った方がいいよね。

私は不安な思いを抱いたまま走って男の人のいる川へと向かった。

「大丈夫ですか」

「大丈夫、大丈夫」

 男の人は浮き輪を引っ張りながら川から起き上がろうとしていた。思ったよりも爽やかで聞き取りやすい声だった。透けた白いシャツに緑と黄色のネクタイに足の関節までにあげた黒いズボン。言われなくても彼が学生だということを私は一目みて理解した。

「びっくりしたよ、すっごい見てくるからつい体が反転しまったよ」

「すいません」

 私は謝って頭を下げると

「いやいや謝ってほしいわけじゃないよ別にほら顔あげな」

 恐る恐る顔を上げると、自分が思っていたよりもずっと綺麗な顔立ちでつい目をそらしてしまった。

「ていうか見ないツラと制服だな、実家帰りか?」

「あ、いえなんというか・・・」

 サボりだとは堂々と言えずにどう答えればいいか言葉を探していると

「ん」

「?」

 彼の中にラムネがある。何のことか理解するのに少しの時間かかった

「いらねぇのか」

 私はやっと理解した。彼は私にラムネをくれたのだ。

「あ、ありがとうございます」

 反射的にもらってしまったがお言葉に甘えてラムネに口をつけた。

 一口だけ飲み彼を見てみるとまるで銭湯のあとに飲む牛乳みたいに彼はラムネを飲み干していた。

「ぱぁっと、さてと君はどこから来たの?」

 私が住んでいる地名を答えると

「へえ随分と都会の方から来たな、何でこんなド田舎に来たの?」

「・・・」

 私はどう答えればいいのだろう、別に何となく電車に揺られて最後の終着駅がここだったからと答えればいいのだろうか。

「家出か?」

「あ、いえそうではないのですけど・・・なんというか・・・」

「まあ何でもいいや、これからどうする?」

 どうする?、どうしよう別に何の計画もなくここに来たし、ここがどんな場所なのかも知らない、右も左もわからない私は一体なぜここに来たのだろう。頭の中に浮かぶ疑問にもんもんとしていた。

「せっかく俺の地元に来てくれたし、こんなド田舎だけど俺がこの睡蓮町にに案内してやるよ。今暇だし、なんか面白れぇこと起きそうな予感がするわ。」

 スイレンチョウ、この町はスイレンチョウっていうんだ。綺麗な響き。

「遠い遠い、都会から来たシティガールに俺の町を案内してやるよ」

彼が言った言葉に、彼の言葉と同じように、私も何だか今まで私の人生になかった面白いことが、弾けるようなことが起きるような予感がした。


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ラムネ色に染まった世界に私は辿り着く 想月ベル🌙 @yuika0215

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