第14話 天国の君(Everything With You)

 毎朝、鏡に映る俺の瞳が「hey、この糞野郎。さっさと働け」と呟いてくる。


 大人になった人間は「金を集めろ」としか言われなくなる。


 俺は大人だが金が無い。収入源は障害年金や単発バイト、それに親の金銭的援助。


 俺なりに質素な生活を送ってるとはいえ、実家じゃなくてアパート住まいだし、酒・タバコは毎日やってるし、欲しいものは買ってるし、好きなバンドのライブにも行く。数日前にパソコンを新調した。


 よく「金じゃ買えないものの方が大切」という意見を耳にする。それも一理ある。


 だが「金じゃ買えない大切なもの」を維持する為には金が要る。


「金」というのはある意味、その人の社会的な存在価値を示すファクターみたいなものだ。最低限、大人になったら自分で金を稼げるようになることが人間としての評価基準になる。(それが全てとは言わない)


 俺がいつまでもだらけた生活を送ってたら、そのうちみんなから愛想を尽かされる。


 世の中金が全てとは言わねえが、実際、この糞みたいな生活の維持には金がいる。


 ちなみに工場で「1円」を製造するには「3円」も費用が掛かるらしい。まめちしき。


 ◆


 最近涼しくなってきた。さっき窓を網戸にしたら、緑色の木々の葉っぱの向こう側に青い空と白い雲が見えた。あの青い空の向こう側に、亡くなった俺の友達は居るだろう。俺はベランダから天空に向かってアイコスの煙を吐くが、煙に乗せた俺の想いはその辺で霧散した。遠い未来で君に会った時、恥ずかしくない人間でありたい。会いたいよ。毎日は思い出さないけど、割と頻繁に君のこと思い出すよ。あんたは天国でも酒とタバコに溺れて死にたいとか言ってるのかな。会いたい。


 俺は今日また一つ歳を取ったが、あなたはもう二度と歳を取らない。それが少し羨ましくもあるが、やっぱり一緒に歳を重ねてみたかった。もう二度とくだらないおしゃべりができないのが寂しい。


 俺は生きてる中で「親友」と呼べるような奴に会ったことがなかったけど、もしかしたら俺とあなたは親友って呼んでもよかったのかな。


 そいつが亡くなった今となっては分かりません。どうでもいいや。安らかに、楽しくやってくれてたらそれでいい。いつか必ず会いに行くから、遠い未来で待っててくれ。親友よ。


 あなたが大好きだったバンドが去年出したアルバムを、あなたは聴けない。最高のアルバムだった。ライブにも行った。「うつして」という曲のラストのギターソロに俺は感動してめっちゃ泣いた。おれもあそこのギターだけは練習したから弾ける。


 syrup16gの曲は、ギターを弾きながら歌うのが難しい! 俺はギター上手くないから。


 ◆


 関係ない話だが、やっぱりアイコスはメンソールに限る。俺はセンティアのブラックなんとかを吸ってる。


 元々俺は酒もタバコも早く死ぬ為に始めたのだが、タバコに関してはアイコスにした。少し健康志向になった。それに色んな店の中で紙タバコは吸えないけど加熱式タバコならOKって店が多いから、アイコスにした。


 そもそもあまり外出しないけど。金に余裕があるときは一人で居酒屋で飲んだり一人でカラオケ行ったりする。その時にタバコ吸うにはアイコスしかない。


 ◆


 本当はこの世界のことも自分のこともどうでもいいのだが、それでも俺は勝手に年を取り、大人になる。そして死にたくてもなかなか死ねない。だから生きるしかない。


 ダメ人間でも、人生はまだまだ続くみたいだ。俺は神の存在に懐疑的だが、神は俺に「生きろ」と言っている。と勝手に俺は思っている。だからこれまで何度も自殺が未遂に終わってきたんだ。


 首を吊ろうが高所から飛び降りようが俺は死ねなかった。


 メンタルは貧弱なくせに、体は無駄に頑丈にできてやがる。


 俺は頑張って生きたい。


 俺のことだ。きっとどれだけ頑張っても大層な人生は送れないけど、そんなのは元々望んでない。しいて言えば、彼女が一人いればそれでいい。


 俺はきれいな花畑を知っている。彼女をそこに連れて行って、感動させてやりたい。本当に奇麗なんだ。


 まあどうでもいい。


 今日は空が青くて気持ちがいい。





 続く

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