第13話 君の代わり

 あれから何年経っただろう。

あまり考えたことはないけれど、多分、アナスタシアが居なくなってから、五回は夏を過ごした。

あの日、アナスタシアが灰となってしまった後すぐに、僕は城から追い出された。

治療も何も施されなかった。

きっとそのまま死ねばいいとでも思ったんだろう。

エドアルドの姿は見当たらなかった。

僕は息も絶え絶えその足であの隠れ家に帰った。

壊れた扉を即席で直し、僕はアナスタシアの生きた証の隠れ家で、泣き続けた。

何もできなかった。

やっと守れたと思ったのに。

僕の嗚咽は夜通し木霊し続け、いつの間にか、止んでいた。

 アナスタシアの最期を知って駆けつけてくれたステラさん達が、僕を治療してくれた。彼女らは何も出来なくてごめんなさいと言って泣いた。せめて生き残った僕だけでも助けさせて欲しいと。その優しさに、僕はまた泣いてしまった。

そんな優しい皆のおかげでなんとか怪我も治った僕は、『アナスタシア』として生活を始めた。

最期にアナスタシアが僕に渡したもの、それは彼女が常に身に付けていたリボンだった。

彼女の服や帽子には、替えがあったけれど、リボンだけは、替えがなかった。

 アナスタシアがそうして肌身離さず着けていたそのリボンを僕は、今まで大切にクローゼットにしまっていた。

けど、今日は、それを身につける日だ。

 着替えをして、帽子を被って、リボンを付ける。

それから、大きな姿見の前に立って、僕は苦笑した。

「はは、なんだかコスプレみたい……似合わないなあ」

 姿見には、髪を腰まで伸ばし、アナスタシアと同じ服を着て苦笑いする僕が映っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る