第12話 「 」
最期、君は笑っていた。
これから死ぬと言うのに、間違いなく僕の方を見て微笑んでいた。
その笑顔が瞼にこびり付いて離れない。
今まで一緒にいて、一番寂しそうな笑顔だった。
「 」
アナスタシアの口が動いた。
民衆へ向けてではない。僕に何かを伝えようとしている。
僕は更に近付いて、アナスタシアの口を読もうとした。
a、i、i、e、u-
「あいしてる」
「あ……っ、アナスタシア……僕も、君のこと、愛して―」
その時、アナスタシアに火が放たれた。僕の想いは、声は虚しく、炎が木を燃やす音に掻き消されてしまった。
燃え盛る炎の中、彼女が何を考えたのか、僕には一生解らない。
けれど、笑顔が痛みに歪んでいくのだけは見えた。
辛かっただろう。苦しかっただろう。
何故、この国の民はこれまでに惨いことが出来るのだろうか。
勿論アナスタシアの身を案じてくれた人は沢山いた。それは知っているし、すごく感謝している。
でも、今ここにいる奴らはどうだ?
全員、この魔女狩りを楽しんでいる。
これを娯楽だと思っているクソな民衆だ。
自分は手を借りたことが無いから関係ないって言うのか?
赤の他人なら、魔女ってだけで、処刑してもいいのか?
もし自分の肉親、親友が同じ目に遭っていたら泣いて止めてくれと懇願するくせに。
美しい彼女の顔を歪めたのは誰だ。
お前らだ。
彼女には笑顔が似合うんだ。
花が咲いたような、周りまでつられて幸せになってしまうような笑顔が。
彼女の苦しそうな顔なんて見たくない。
許せない。
制裁を下してやる。
彼女が受けた苦痛には見合わないかもしれないけど、それでも。
今日お前らがここにいて楽しんだことを後悔させてやる。
お前らの思い通りになってたまるか。
彼女は死んでいない。
彼女は死んでいない。
―今日からは、僕がアナスタシアだ。
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