第9話 君を守れた?

 「ぐ……っ……ぁ……」

「へぇ……まだ死なないのか。しぶといな」

「……それは、どうも……っ」

僕は、拷問を受けていた。

あの後、僕はあっけなく城まで連れていかれた。まぁ、抵抗もしなかったから当然なんだけど。

見慣れた城に入って、大広間の前を通って、よく使っていた練習所や休憩所を抜けて、見たこともない部屋に連れていかれた。

恐らくは、処刑部屋。

でも、大広間より広く、豪華で、でも所々にこびり付いた赤黒い塊が妙に生生しくて気持ち悪かった。

強引に突き飛ばされた僕は、ボコボコに殴られた。

抵抗する気もないけど、腕を縛られていたから、抵抗一つも出来ず、僕は一方的にいたぶられ続けた。

「……かは……っ……ぐ……」

血を吐いて、俯いて息を整えていた僕の顎を、剣でくい、と持ち上げたエドアルドは、僕の顔を見てさも愉快そうに笑って、それから急に飽きたように剣を下ろして僕を蹴り飛ばした。

「ぐっ」

鈍く呻く。

「お前も馬鹿だなぁ。何故アナスタシアと一緒に逃げなかった?」

「……、はっ……、分かってる癖に、性格悪……っ」

「ははは、よく言われるよ。……そうだな、お前の考え通り、お前も逃げていたなら、アナスタシアも無事では済まなかっただろうな」

やっぱりな……あの時、アナスタシアだけを逃がして正解だった。

「まぁ、実に愉快なものが見れているからな。アナスタシアは見逃してやってもいい」

「……、ほ、本当に……?」

「ああ。ただ、お前には死んでもらうけど、なっ!!」

ガッ!!!

また蹴り飛ばされる。

 痛みより、殺される恐怖より、アナスタシアは見逃してもらえると言う事実の方が嬉しかった。

後はもう、死ぬだけ。

アナスタシア、君は生きてくれ。

僕は、君を守れて光栄だよ。

安心したせいか、だんだんと視界が狭くなっていった。ゆっくりと意識を閉じようとした瞬間、


バンッ!!!


と扉が開いて、僕の意識は強引に現世に引き戻された。


 「な、なんで……」

「アナスタシア=クロニスです。投降します。その人を、解放してください」


 驚きと悲しみでたっぷりと見開かれた僕の目には、初めて出会った時のように冷酷な表情を浮かべるアナスタシアが映っていた。

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