第4話 魔女狩り
「え……なんで」
あまりにも冗談とは思えない真剣な表情を浮かべたステラさんに、僕は問うた。
「……なんでもね、最近、有名な騎士さんが魔女は処刑すべき極悪人だ、なんて言っているらしくてね、それを信じた人たちがその騎士さんを筆頭に魔女狩りを始めたらしいんだよ」
既にもう都心部にいた何人かの魔女は殺されてしまってねぇ……と辛そうにステラさんは言った。
「だからね、アナスタシアちゃんも逃げた方がいい。この隠れ家は一部の人には知られているだろう?ここまで来るには時間がかかると思うけど、それでもそう遅くない話だと思うんだ。辛いけど、ここを出て行った方がいいと思うんだよ」
私はもう大丈夫だから。とステラさんは言って立ち上がった。
「で、でもステラさんの治療はまだ……」
そう言いかけたアナスタシアの言葉を遮って、ステラさんは言う。
「私はね、アナスタシアちゃんに本当に感謝しているんだよ。だから助けてあげたい。でもね、私一人が魔女狩りに異議を申し立てたところで、殺されてお終いさ。だから、せめて、どうにかして生き延びて欲しいんだ……」
そう言って静かに涙を流すステラさんに、僕らは寄り添うことしかできない。それが悔しくて悔しくて堪らなかった。
ステラさんが帰ってから、僕らはずっと無言だった。ただ、お互いに頭の中では、ステラさんが言っていたことを反芻していた、と思う。
どれくらい経っただろうか。
一時間かもしれないし、たったの十分かもしれない。はたまた、一日経ったかもしれない。
ただただ無慈悲に過ぎる沈黙を破ったのは、アナスタシアの方だった。
「二コラ」
「……何?」
あまりに沈黙が続いていたせいで、お互いに声が掠れていた。
「魔女は、悪い存在なのかな」
「 」
僕はその問いに、すぐ返事が出来なかった。
古来より、魔女は恐れられる存在だ。
能力というものを持たない人間にとって、風を操り、目に見えない存在と喋り、人の怪我を治せる『魔女』と言う存在は、奇怪で恐ろしいものだったからだ。
今となっては魔女も世間に知られるようになり、アナスタシアのように人のために行動するような魔女が多くいることも相まって、魔女狩りはいつしか行われなくなったはずなのに……
「私、昔の魔女狩り時代には生きていないからわからない。けど、どうして、魔女だってだけで、何もしていないのに殺されなくちゃならないの……?」
「どうして今更、魔女狩りが復活したの?どうして皆も、それを信じるの?魔女は、永遠に疎まれた存在として生きるしかないの……?わからない、わからないよ……」
両手で顔を覆い、肩を震わせるアナスタシアの背中を、僕はずっとさすり続けた。
それから僕らの隠れ家は、しばらくアナスタシアのすすり泣く声だけが木霊していた。
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