第3話 魔女というのは
「……そんなこともあったね」
恥ずかしそうに顔を赤く染めながらアナスタシアは言った。
「あの時のアナスタシアはすごい尖ってたよね!今となってはあの頃も悪くなかったんじゃないかなとは思うけど」
「やめてよ、恥ずかしい」
昔の思い出に耽りながら、朝ご飯を食べて談笑していた時、家の戸が叩かれた。
「誰だろ?あ、二コラはそのまま食べてていいよ」
と言いながら立ち上がって玄関に向かうアナスタシア。
玄関の戸を開けると、最近うちに通っているおばあさんの姿があった。
「あら、ステラさん。いらっしゃい」
「アナスタシアちゃんごめんね何回も。今日もお願いできるかしら?」
「ええ。勿論だよ」
「二コラちゃんも、こんにちは」
「うん。こんにちは」
曲がった腰でゆっくり杖をつきながら玄関に上がったステラさんは、僕の姿を見つけて微笑んだ。
アナスタシアは魔女だ。
彼女は治癒魔法を得意とするらしく、病気や怪我を患って生活に苦労している人などの家に訪問したりうちに来てもらったりして、無償で治療をするボランティア的なことをしている。
ステラさんは週に一回ほど家に来ては、軽い治療を受けて帰っていく。
基本はそういうのを求めて来る人が多い。
重い治療をすることもあるけれど、重い病気、怪我を治すという事は、それなりに魔力も消費するし、気持ち的にもプレッシャーになるらしい。
アナスタシアは元々人と話をするのが好きらしいし、現世から取り残されたみたいな森の隠れ家に住んでいるので、軽い治療をするという行為は、最近の話を聞いたり話したりできるとても有意義な時間ともなっているそうだ。
現に今、ステラさんと話しているアナスタシアはすごく楽しそうだ。アナスタシアが笑っていると嬉しい。だってやっぱり、アナスタシアには笑顔が似合うから。
治療しながら談笑するアナスタシアをぼーっと眺めながら、そういえばこういうところに惹かれたんだよなと思った。
アナスタシアは僕にとっては最初はすごく嫌な奴だった。でも僕の事情を話したら少しづつ心を開いてくれたし、きっとこの国が大好きだからこそ嫌っていたんだろうなぁと勝手に想像して今こそはニヤけてしまう。アナスタシアは優しい。国の人たちに尽くしている所とかなんだかんだ言って僕の世話を焼いてくれる所とか……。一緒に暮らしていて、改めて実感する。
そう考えると今は僕に対する風当たりが出会った頃と雲泥の差だ。今朝の夢を思い出して思わず身震いした。
なんて思い出に耽っていると、いつの間にか治療が終わってたみたいで、ステラさんは帰る支度をしていた。
「ありがとうね、アナスタシアちゃん」
「ううん、いいんだよステラさん。でも、もう少し治療が必要そうだから、また来てね」
「わかったよ、もう少し頼むねぇ」
「ええ。じゃあ、そこまで送るよ」
「あら、じゃあお願いしようかな……ニコラちゃんも、またね」
「うん。またね、ステラさん」
パタン。
ステラさんに付き添ってアナスタシアが出ていき、扉が閉められた。
その後ろ姿がなんだか歳相応にとても心許なく見えて、僕は少し不安になった。
それから一週間後。
再びステラさんは僕らの家を訪れた。
その間にもアナスタシアの元には色んな人が訪問して、その度にアナスタシアは親身になって治療をしていた。
老若男女問わず、皆、アナスタシアと楽しそうにお喋りをしていた。
今日もステラさんとアナスタシアはにこやかに談笑している。
だけど。
ステラさんが帰り際、神妙な面持ちで発したその一言で、僕らの顔から、笑顔が消えることになる。
「あのね、アナスタシアちゃん。よく聞いてほしいんだけど…………、また魔女狩りが、始まったんだよ」
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