第4話 圧倒

――彼らがヘイズを出発してから3日目


次の目的地のカラメスカはこの日に到着する予定であった。現在、彼らは森の中を進んでいた。道の両側は森に囲まれているためモンスターに出会う機会が非常に多いことが特徴である。町の近くの道と比べて、丁寧に整地された道ではないため、足場が悪いため雨が降ると馬車は過ぎに動けなくなってしまいそうだった。


彼らの隊列としては、馬車の5m先をユウジンが歩いており、馬車の左右をラーラとダリウスが挟んでいるような形になっていた。ユウジンが突然後ろを振り返り合図をする。それを見たエルシャンがレノンに言った。


「音が聞こえたそうです。何かいるかもしれません」


彼の発言から約5秒後、体長4mほどの大きさのイノシシ型のモンスターで巨大な牙が特徴のブルートスクがユウジンに向かって突進を試みる。ユウジンは事前にその気配に気付いており、しなやかな動きで突進を巧みに避ける。


そして、ダリウスとラーラが、次の突進を受け止めるために前に走っていく。リリスも前衛の二人ほど前にとはいかないが、回復魔法をかけられる距離まで前に出る。それを見たラーラはリリスを守るためにも、リリスの側へと位置を取り直し、万が一に備えて身を低くしていた。


レノンは、ガラハドに止まるように、指示を出した後、馬車の後ろから盾を取り出して周りの警戒を行う。このパーティの火力担当のエルシャンは、馬車の前方に歩いていき、魔法を使うために杖に集中する。杖は少しずつ輝きを放っていく。


ブルートスクが空ぶった突進の後に振り返って、もう一度突進を試みる。その視線の先には、先ほど攻撃をあっさりとよけたユウジンではなく、ダリウスであった。


「おい、来てみろよ」


ダリウスはブルートスクに対して言った。ブルートスクはカラっとした音と共に、再び突進の勢いを増し、ダリウスに向けて突き進んでいく。ダリウスは自信に満ちた笑みを浮かべながら、大きな盾を構えた。


そして、その突進が迫る瞬間、ダリウスは迅速に盾を動かし、見事にブルートスクの突進を交わす。彼は少し遊んでいるようだった。それを見たラーラは何か言いたげな顔をしている。地響きのような音が響き、森はその一瞬の間だけ、静寂に包まれる。


ブルートスクはその勢いを利用して、反対側に向きを変えて再び突進を試みた。しかし、今度はダリウスが予測し、大きな盾でその突進を完全に受け止めることに成功する。 同時に、リリスの回復魔法がダリウスを包み込み、エルシャンの魔法がブルートスクに命中する。

 

魔法の光がブルートスクの体にぶつかると、まるで刃物が通ったような跡が現れ、血が流れ出す。ブルートスクは痛みによって動きを止め、その場に佇む。その隙を見逃さず、ラーラは剣を手に取り、エルシャンの攻撃が当たった傷跡に突き刺す。


同時に、ユウジンは素早くナイフを振るい、ブルートスクの目を狙い、視界を奪う。モンスターは痛みと混乱に包まれ、その体勢を崩す。その隙をついて、ダリウスが盾を地面に叩きつけ、背中に背負っていた大きな斧を手に取る。


この一瞬の出来事が、彼らが計画していたかのように進んでいた。そして、ダリウスの一撃が炸裂し、斧がイノシシと衝突し、森の中に轟音を鳴り響かせた。ブルートスクは、ダリウスの斧の一撃を受け、その巨大な体が地に完全に崩れ落ちていった。

瞬く間に過ぎ去った、壮絶な闘い。ダリウスはブルートスクの生死を確かめると、レノンに向かって言った。


「倒したぞ。レノン、安心しな」


レノンもほっと一息ついた後、彼らに言う。


「その死体はどうしましょうか。流石に大きすぎて馬車で運ぶことはできないですね。牙くらいなら馬車に乗せられますけど」


ラーラがレノンに訊く。


「あとどのくらいで、カラメスカに着くだろうか?」

「二時間くらいだと思う」


ラーラが少し考え込む間に、ダリウスはブルートスクの解体作業を始める。彼の強力な斧が、モンスターの体を切り裂いていき、牙を取り出す作業が進行していった。一方で、エルシャンは水魔法を使ってモンスターの体を洗い、ユウジンは周囲の警戒に集中する。ザラが頭を整理し終えると、意見を述べた。


「ここから休憩なしで全力でカラメスカを目指して、そこで応援を求めてから死体を運ぶべきですね。モンスターの死体は一旦道路の脇に置いておきましょう」


レノンもその意見に賛同したので、彼らは牙だけ馬車に乗せ走り出す。ちゃっかり、リリスは肉塊を死体から切り出して、森の中の大きな葉っぱで包んで馬車に乗せた。彼らが走り出してから、1時間半後カラメスカに到着することができた。到着するとすぐに、ラーラは村の中にある一番大きな家の方へ走っていった。


レノンは宿を目指し、他のメンバーは門の前でラーラの帰りを待った。彼は宿に着くと、受付で馬車と馬をどこに連れて行けばいいか訊いた。そして、宿から100m程離れた建物に馬車を持っていき、ガラハドを馬車から放して、餌をあげる。


その後、宿に肉を持って行き、門の方に戻ると、そこには人が一人立っていた。レノンがその男性に声をかける。


「初めまして。私はレノンと言います。本日この村にやってきました。よろしくお願いします。お名前を訊いてもいいですか?」


男性は言った。


「初めまして、私はシリス。この村の村長です。」


レノンはシリスに対して訊いた。


「ここに冒険者パーティーがいたと思うんですけど、もしかして、もう行っちゃいましたか?」

「ザラさんたちのことかな?村から大きめの馬車と馬二頭と数人の村人を伴って、走っていきましたよ。なんでも、ブルートスクを狩ったからって言ってましてね」

「そうですか……質問に答えていただき、ありがとうございます。また質問になってしまうんですけど、食料を買いたいので、場所を教えてもらってもいいですか?」


シリスはレノンを伴って、この村の市場へ歩いていく。市場と言っても店自体は片手で数えられるほどである。シリスは言った。


「ここで食料は一通り揃えられるはずです。私は仕事があるので戻ります」


そして、彼は去っていった。レノンはその背中に対して、「ありがとうございました」と言った。彼は、次の三日間に向けて、食料を調達し終わると、それらを持って宿に歩いていった。


レノンは宿で暇を持て余していたため、部屋で横になっていた。太陽が完全に沈む前に、窓の外から様々な声が聞こえてくる。宿の外には、多くの人々の気配が感じられた。窓の外を見ると、馬車に積まれたブルートスクとオルフェウスの仲間たちが到着したのが分かった。

ザラはレノンの視線に気付いて、微笑みながら手を振ってきたので、レノンも控えめに手を振り返す。



その後、宿の前の広場で、ブルートスクの解体作業が始まる。そして、宿のキッチンでイノシシの肉を使った料理が調理され、広場で村人たちに振る舞われた。村の住人たちは、久しぶりのブルートスクの料理を楽しみ、歓声と笑い声が広がっていた。同時に、オルフェウスの仲間たちは村長からイノシシの肉を対価としていくらかのお金を受け取った。


 

この日はまさに宴会のような雰囲気で、皆が楽しんでいた。レノンは仲間たちに明日は出発が少し遅めになることを伝え、この宴会の主役として村人たちと交流することを提案した。

その提案に応じて、彼らは村の住人たちとともに楽しいひとときを過ごしたのだった。


レノンは、この宴の中で提供された蜂蜜酒の美味しさに感銘を受け、帰りに購入することを心に決めた。村人たちも彼らの明日の旅のことを考えて、日が変わる前に宴会を終えた。


宴が終わると、オルフェウスのメンバーは宿に帰っていった。一応、確認のためにレノンは、明日の出発時刻を伝えてから、各々が寝る準備をした。レノンは、寝る前に馬車の積み荷の確認をしてから、眠りについた。

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