第3話 出発

レノンはガラハドを伴って、商人道具を入れたカバンと冒険者をしていた頃から愛用している剣と盾を持ち、馬車の受け取りに向かう。彼は時々服装と武器のミスマッチからか、街の人の視線を集めていた。


そして、昨日積み荷を行った倉庫へと辿り着く。馬車を入れた入口の大きな扉はしまっているが、そこには、従業員らしき人物がいることを確認し、レノンは話しかけた。


「一昨日、星屑商会のレノンです。あなたはここの従業員であっていますか?」

「そうです。受け渡しのために待っていました。確認のために商会証明書を見せていただいてもいいですか?」


レノンは、カバンから商会の証明書を彼に見せる。


「ありがとうございます。確認しました。それでは少し待ってください。」


彼は、倉庫の馬車用入口の扉を開ける。扉は非常にゆっくりと開き、頑丈そうなことを感じさせる。扉が開ききると、彼はレノンに会釈した。そして、レノンは馬車に歩いていき、ガラハドと馬車を繋ぐ。その後、御者席に座り、従業員に言った。


「ありがとうございました」


彼はガラハドに合図を送り、馬車は動き出し、大通りを通って、この街の北門に向かった。


彼が北門付近に着くとそこには、人影があった。レノンは彼らを視界に捉えると、ある程度近づいてから挨拶をする。


「おはようございます。少し待たせてしまいましたか?」


ダリウスがレノンに言う。


「たいして待ってねえぞ。そんなことよりさっさと行こうぜ」


ラーラはそんなダリウスを見て、苦笑いしてレノンに言った。


「それでは、今日からよろしくお願いします」


レノンはその言葉に対して言う。


「皆さん、よろしくお願いします。それでは行きましょう」


一つの馬車と5人の護衛は北門を出て動き出した。レノンは歩みを進めながら、彼らに今日の予定を簡単に話しながら、彼らに地図を見るように渡した。レノンは彼らに訊く。


「ところで、皆さんは、モンテルビオへ行った経験はありますか?」


ラーラは彼の質問に答える。


「何度かは経験があるから、安心してほしい」

「それは心強いです。自分はヘイズまでしか行ったことがないので」


オルフェウスは、これまでも北に向かっての移動の依頼を受けていたようであった。そのため、非常に心強くレノンは感じていた。そして、彼は提案を行う。


「9日にわたる旅をするわけですから、ご飯などは出来るだけ作って食べませんか? 時間に関してはそこまで厳しい条件ではないと思いますから」


馬車の前方を歩くユウジンがレノンに言う。


「自分は大賛成ですね。そちらの方が、道中のストレスが少ないので、判断ミスを減らせる気がします」


ラーラもレノンに言った。


「今まで会ってきた商人は、もっと時間にシビアな人間が多かった印象だ。レノンさんは、他の商人と少し考え方違うな」


レノンも言う。


「急いで時間を短縮できるのはいいことだとは思います。でも、休憩時間は取るべきだと思います。ユウジンさんが言う通り、馬車は何に襲われるかわかりませんから。命あっての、商売であり冒険であるので」


 

何度かの休憩を挟みながら、道を進んでいるとダリウスがレノンに訊く。


「その腰の剣、お守りかなんかか? 商人は武器持たないだろ」


レノンは苦笑いをしながら言う。


「これは、冒険者時代の名残ですね。馬車に盾もありますよ」

「実はな、うちのリーダーも別の職業を希望してるんだぜ。こんな偶然あるもんなんだな」


ダリウスはガハハハと笑っている。それを聞いて、ラーラは言った。

 

「私の夢は自分の店を持つことで、そのために今お金を貯めているんだ。もちろん、このパーティーのメンバーには、このパーティーを踏み台にしてもらう前提で組織した。護衛依頼を頻繁に受けている理由は、商人の人と行動する機会が増えることで、店を持った時に有利になると感じたんだ」


レノンはそんな言葉を聞いて、彼らに訊く。


「不満は出ないのか」


しかし、彼らは踏み台にする前提のことをしっかり理解しているらしく、パーティーランクが上がるなら文句はない。モンスター討伐の依頼と違って失敗のリスクが少ないので、かなり儲かっているので、不満はないと言った。


そんな雑談をしながら、平和な道を進んでいく。適度に休憩を挟みつつ、彼らのお勧めの野営地点に暗くなる前に到着する。レノンは訊いた。


「誰か、狩猟が得意な人とかいませんか?」


答えはNOだった。彼らの中で、遠距離攻撃専門はエルシャンしかいない。あまり魔法で狩りをする人間は居ないことが周知の事実である。そのため、レノンは水場で魚釣りをすることにした。彼はユウジンとエルシャンを連れて、その辺の木を折って竿を作った。


そして、針とテラントラという蜘蛛型モンスターの糸をキャンプ道具から持ってきて、木を合体させて釣竿を作る。 彼らは、三人で湖畔まで行き、適当な虫を見つけて餌として、釣りを始めた。一方、ダリウスは既に睡眠を始めており、ラーラとリリアは周囲を警戒しつつ、休憩のような状態をとっていた。日が落ちてから暫らくの時間が過ぎた。


釣りをしていた三人は、5匹の魚を釣ることに成功した。彼らが戻ってくると、女子のメンバーは馬車の中にある食べ物とその魚を使って料理を作る。


彼らは、ご飯を食べ終わると、エルシャンは馬車から今日使わなかった少し大きな鍋を持ってくると、そこに魔法で水を貯める。


「それでは、交代で水浴びしましょう。」


エルシャンがそう言うと、彼らはローテーションで水浴びを行った。レノンは、水魔法に感銘を受けていた。


(正直遠征時に水魔法は便利だな。洗うのにも飲むのにも重宝する)


その後、オルフェウスのメンバーは、夜の見張りの順番を決めるとテントの中に分かれて睡眠を始める。 レノンは、まだ眠くなかったので、最初の見張りのダリウスと共に、焚火を囲んだ。レノンはその間にお茶を用意して、2人で楽しんだ。彼らは特にしゃべるわけではなかったが、町では体験できない、静かな夜の雰囲気を楽しんだ。



翌日も特に問題はなく、前日と同様に何事もなくヘイズにたどり着いた。何度かこの町に来たが観光といった目的ではなかったので、彼にこの町の印象はほとんどない。この町は、彼らがこれから入る森から、時々迷い込む魔物を南へ行かせない役割を持っている。



彼らは、比較的早い時間帯に町に着いたので、食料を買いに行くグループと自由行動をするグループで別れた。食料組はレノンとラーラで、残りのメンバーがこの町の知り合いとご飯を食べに行ったり、武器屋を見に行った。



レノンとラーラは次のカラメスカまでは三日かかるので、残りの食料に多少足す形で購入を行った。また、ここからは森の中へと入っていく道なので、モンスターとの接敵の確率が多くなると考えられるため、ポーションの買い足しを行う。いつものようにレノンは値切り交渉を行ったが、この町では良い成果を得られなかった。



それらが終わると、彼らは2人で、ご飯を食べにラーラのおすすめの店に向かった。その店では、腸詰やパエリアを頼んで、2人でシェアをする形で食べることにした。レノンは彼女に訊いた。


「どんな店をやりたいと思っているんですか?」

「食堂をやりたいと思ってます。あと、敬語無しで話しませんか? 気楽にしゃべりましょう」

「敬語なしは気楽でありがたいな。 ところで、なんで店で働くみたいな形でお金を稼ごうと思わなかったんだ? 冒険者はそういう職業よりは稼げるとは思うけど、店で働く方が近道に感じるんだけど」


「シンプルに開業資金を集めたいという気持ちと、地域それぞれに色んな料理があるので、それを知ることもできるからかな。他にも商人の人とつながりを持つことは、店をやるうえで非常に重要だと思うし」

「納得できる理由だな。せっかくだから、今回の旅で、少し手の込んだ料理を作ってくれよ」


彼女は笑顔で答えた。


「任せて」


彼らが話をしていると、注文していた料理を店員が持ってくる。


「美味しそう。いい香りだわ。皿によそってあげる」


彼女はそれらの料理を見て、テンションが上がる。

レノンは彼女に取り分けてもらったパエリアと腸詰を食べた。


「美味しいな。この店」


レノンが言うと、彼女は笑顔で言った。


「でしょ?この町ではここがおすすめなんだから」



その後、2人は食堂を出た。レノンは彼女を宿まで送ってから、自分が泊まる商人用の宿に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る