第16話 分岐点

 レノンは冒険者ギルドにたどり着いた。そして彼は酒場の一角にある席に座る。時間は比較的早かったのか、あまり冒険者は見られない。彼はとりあえず、お酒を飲む前にご飯を食べることにした。


 彼は注文を終えると酒場に入ってくる人間を観察しながら、ぼーっとしていた。酒場に入ってくる人間は、ほとんどの人間が装備をまとった状態で酒場に来ていた。彼はご飯を食べ終えると、しっかりとした鎧を着た男に話をする。


「こんばんは」

「ん、何だ?」

「鎧を着ているということは、どこかに行った帰りですよね?今、森に入っている冒険者の人を探していまして」

「あー、そういうことか……森の状況を聞きたいってことなのか? 俺は今日森帰りだよ」


「そうなんです。森の制限がいつ解除されるかが気になってて、実際森に入っている知り合いがいないので……」

「最近規制にかかって森に入れないやつが、お前みたいなことをよくしてるよ。凶暴な魔物に関してか……正直、俺はわからん。俺は規制自体はクリアしてるが、採集メインのパーティーに所属してるから、実際の討伐に加わってはいないんだ。まあ接敵したら逃げるぐらいの自信はあるぞ」

「そうなんですね。採集状況なんかはどんな感じなんですか?」


「規制がかかっているから、森の浅い部分でもかなり採集がしやすい状態になってる。ほぼ毎日、持ち帰れる最大の量の素材や何やらを持ち帰ることが容易にできる。個人的には、規制を解いてもいいんじゃないかって思ってるんだけどなあ」

「どうしてですか?」


「浅井部分に凶暴な魔物が来るメリットがなさすぎて、正直安全だと思うからだな。やっぱり秋頃は冬に向けてのを商品の素材なんかの需要が跳ね上がって、冒険者ギルドも素材が少なくて困ってるらしいからな」

「話は変わるんですけど、今この酒場にいる人で、討伐に加わっている人がいたりしますか?」



「それならあいつだな」


 その男は、とある4人グループを指さした。レノンはそれを確認して、彼に情報提供のお礼として、100ゴールドを机に置いて、そのグループのところに行く。


 レノンはとりあえず、声をかける。


「こんばんは」


 彼らは、談笑をしながらお酒を飲んでいたが、レノンの言葉を聞いて、彼の方をみんなが見た。その後、杖を持った1人の女性がレノンに言った。


「どうしたの?」

「実はさっき話していた冒険者の方に、あなたたちが討伐クエストに参加しているパーティーだという話を聞いたので、森の状況を教えてもらえないかなと思いまして」

「そんなことか、いいわよ。今は森の中で複数のグループが討伐に動いているの。正直、私たちは自分たちが見た者しか伝えられないから、そこだけは理解しておいて」

「分かりました」


「まあ、討伐依頼の話をすると、正直すぐには終わらないと思うわ。なんでかって言うと、今回討伐対象になっているのは、ゴーレムなんだけど、普通じゃないくらい大きいのよね。それにダメージを受けても、森にあるもので体再生させるのよ。長期戦になってるわ」

「普通のゴーレムしかも見たことないので、そこまでイメージはできないんですけど、なんとなくは分かりました」

「それでゴーレムはどの辺にいるんですか?」


 彼女は不思議そうな顔をして、レノンの質問に答える。


「そんなこと知ってどうするの?と言いたいところだけど、大体森の入り口から2時間ぐらい歩いたところにいるわ」


 その後、彼女の仲間の1人の男性がレノンに言う。


「ここ2週間くらいはあんまり動いていないけど、万が一に備えて、森に規制を入れる判断は正しいと思うな。あいつの攻撃はひとたまりもないんだぜ。兄さんは冗談でも森の中に入るのをやめといた方がいいぜ。まあ、規制を無視して入ってるやつもいるらしいけどな」

「忠告ありがとうございます。まあ、入るつもりはないので安心してください」


 レノンは彼らに情報のお礼として、300ゴールドほど渡した。そして、帰るために酒場の入口に近づいた時に50代ぐらいの男性冒険者に声をかけられた。


「おい兄さん、少し大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。どうしましたか?」

「少し仕事の話をしたいんだけど……」


 その男は一つの机を指さして、レノンについてくるように手を動かす。そしてその男性と一緒に1つの机を使うことになった。


「あんた、冒険者に対して情報量を払うなんて珍しいな。たまに情報量をよこさないからって言って恨むやつがいるからいい判断だと思うよ」

「すいません、何の話をしているんですか?」


「まあ、リスク管理をしっかりしている気がすると言いたかったんだ。それで、実はやってほしいことがある。森に入って、魔物の素材を取ってきてほしい。戦闘しなくても手に入るような、共生種に分類される魔物だから心配しなくていい。それに森の浅い部分で入手が可能なものだ」

「どうして自分にそれを?」


「少し様子を見ていたんだが、森の様子を冒険者に聞くってことは、森に関する何かが欲しいのかと思ったんだ。それに先ほども言ったが、リスクをしっかりと認識しているから、足が残ることもなさそうだしな」

「それは、犯罪の共犯になれっていうことを言っているんだよな?」

「まあ、そうなる。でも、もしお前がお金を稼ぎたいという欲求があるなら、それを叶えられる」

「お金……」


 レノンはその言葉に、心が引き寄せられる。


「俺は、共生種の群生地を何箇所か知っている。こちらも共犯になってもらうわけだから、ただで一箇所だけ場所を載せた地図をお前にやろう。その地図を頼りに一度その場所を見てくるといい。それからお前は判断をしてくれ。3日後のこの時間にここで待っているよ」


 その男性はそう言い残して酒場から出て行った。そして、彼が座っていた椅子にはひとつの地図が置いてあった。レノンは恐る恐るその地図を開き確認する。


「地図を見るにかなり森の浅い部分だ……」


 無意識にレノンは言葉をつぶやいた。レノンはその後、その言葉を誰かに聞かれていないかと周りを警戒し始めた。彼の心は、知らないうちに森に行くことを決めていたのだった。レノンは宿に戻り、一度自分の持ってきた冒険者時代の装備を確認する。


「鎧も盾も剣も問題ないはず。手入れだけはしっかりやっていた。明日は一度行くだけだから、簡単な水と食料だけを買っていこう」


 彼の心は、お金に吸い寄せられていた。



 翌朝レノンは、予定通りに水や簡単な食料を買うため朝市に来ていた。彼はこれから、森に行くことを気にしてか、いつも以上に無意識下で周囲を気にしていた。そのため、いつもは使わないマントのフードを深めに被っており、逆に周囲の目を引き寄せていた。


 レノンは物資を買い終わると、それをカバンに詰めてから、町の出口に到着する。森まで片道一時間程度の道のりであり、地図を見る限り目的の場所は森の端に沿ってを30分程度更に歩くことで到着するようだった。門番による簡単な検問を受けるため、彼は門番に声をかけられる。


「それじゃあ、身分証明できるものを出して貰ってもいいですか?」


 レノンは商会の証明書を提出した。


「ちょっと待ってね」


 レノンは商会の証明書を提出し、門番はそれを受け取り、小屋に入った。しばらくして、再びレノンに話しかける。


「この町に入ってくるとき、馬車で来たようですね。今回の外出の目的は何ですか?」

「えーと……」


 レノンは少し緊張した表情で答えた。


「町の外を散策しようと思っていまして」

「散策ですか……それでは、どうして盾なんか持っているんですか?」

「盾は、もし何かに襲われたときのために持っています。商品を手に入れるのが現状難しくて、町の外にも出ていなかったので、気晴らしに外に出てみるつもりなんです」

「確かに今の森の状況を考えるとそちら方面の仕事は厳しいですからね。まあ町の周りなら魔物に襲われることもないと思いますが、気を付けてくださいね」


 門番はレノンに許可を出した。そしてレノンは、町の外へ出ると、昨日手に入れた地図を頼りに森を目指した。少し朝から時間が経っていることや森へ行く冒険者が少なかったこともあり、彼の近くに他の人間がいるという状況にはならなかった。


 そのような状況ではあったが、他者に顔を見られないようにとフードを深くかぶり、時折町の方を振り返っては警戒を行う。後ろから声が聞こえた場合は脇道に入り、自分が見られないように静かに他の通行者を避けて過ごすよう心がけていた。


 そして、彼は森の入り口付近に到着する。そこには、検問を行う人たちのための仮設住宅があり、その付近には数名の門番のような人間を発見する。門番たちは通行者を検問し、森に入る人々を管理している様子でそれを遠目に確認したレノンは呟く。


「分かっていたことだけど、ここから森へは入れない。森の外縁から入れそうなところを探そう」


 レノンは、少しだけ道を引き返して、道の横に広がる藪の中へと分け入っていった。森と藪の境目はしばらく曖昧で、彼は魔物や他の冒険者に出くわす可能性に神経を尖らせていた。


 地図や周りから見えるものを頼りに緊張の中で目的地へと進んでいく。しばらくの間、藪の中を進んでいたので、そろそろだろうと思い、進行方向を変えて森に向かって進んでいくと、3分程度で藪が消えて木とある程度開けた土地が目の前に広がる。


「ここが、森で間違いないはずだ」


 レノンは、その景色から予定通り森に入れたことを確認した。しかし、地図にある目印が見当たらないことに少し不安を感じる。周囲に大きな木や滝といった特徴的な地形が見当たらない。


「川をたどっていけば目印の滝の近くに行けるはずだ。少し帰り道のために適当な木の実を潰して気にマークを付けておくか」


 彼は、言葉通り目印を作った後に川の上流へと歩いて行った。しばらく歩いた後、大きな水が落ちる音が聞こえるようになり、ここが目的地の地区の目印の一つであると確信する。周りの様子を覗いながら、地図を頼りに進んでいくと目の前に沢山のキノコが見つかる。


「シルバースポアムの群生地……」


 レノンはその光景に言葉を発する。驚きもあるが、周りに見られていないか魔物に遭遇しないかという気持ちの方が強かったので、彼は比較的冷静だった。


「彼の言っていたことは本当だった。これを納品すればお金が稼げるってことか。というか、この場所を見つけられたなら、あの男と協力しなくても自分でシルバーヘイブンまで持っていったほうが利益になるよな……」


 座った椅子でほっと一息つく彼。そして、静かな森の中で魔物の素材をどうやってシルバーヘイブンに運ぶか、考え始めた。彼の計画はシンプルで賢明だった。数日をかけ、まずは森の奥深くにあるシルバースポアムを隠すことに決めた。それから、馬車でイリシウムを発つ時までその場所を秘密にし、帰路についてから素材を回収する―この戦略が彼の選択だった。


 彼はとりあえず、イリシウムへと戻ることにした。滝へと戻ってから川沿いに歩いて、目印を書いた木から藪へと入っていき、道へ出ることに成功する。


「これなら安全に森へ入ることも出ることもできる」


 レノンは喜びながらも、周りの警戒を怠らなかった。彼の次の目的は、素材を隠せそうな場所を探すことであった。しかし、既に町を出てからかなりの時間が経過していて、怪しまれたくない彼は、隠し場所の検討を明日に延ばすことに決めた。そして、出発してから4時間程度経過してから彼は再び町の入口に到着する。門番は彼を見かけるなり挨拶をした。


「おお、商人のお方じゃないですか。かなり長い散歩でしたね。」

「久しぶりに街の外に出たので、長居してしまいました」

「それは良かったです。それでは、確認が取れたのでどうぞ町の中へ」


 レノンは、森に行ったことを怪しまれなかったことに安心していた。そして、これから頻繁に町から出ることを怪しまれないように考えた結果、町の外に、釣りスポットになっている川があるそうなので、釣り竿を買い持ち運ぶことにした。その後、明日の準備をしてから眠った。


 翌日レノンは、朝と昼のちょうど間の人が少なそうな時間を狙って、昨日準備した竿や物資などを持って町の外へと出かけた。 門番とのやり取りはあったが特に言及されることは無かった。とりあえず、森とは別の自分が帰り路に使う側まで、町の外周を歩いてから隠すのに適していそうな場所を探すことにする。


 シルバースポアムは銀繊維のみの場合は容積が大きいので、隠すのに苦労するのだが、今回は分解せずに隠すため、ある程度の大きさの場所さえ見つければ良いと考えていた。


 町の近くに隠せるよさそうな場所はないため、少し来たときに来た道を歩いて、道を外れて進んでいくと大きな木があり、その足元は空洞で物を隠すのに最適な場所だった。


 ここは町を出て直線で30分程度の場所なので、隠し場所を木の足元に決定する。その後、もう一度自分が出るときに使った門側に戻り、近くの川で釣りをして3匹ほど釣ってから町へ戻る。彼は食べる分としては一匹で十分だったので、門番に2匹ほど渡してから、宿に荷物を置きに戻る。


 その後、町の外で冒険者と待ち合わせをすることが可能なのかという疑問を解消するために冒険者ギルドへ訪れて、受付に話しかける。


「自分は商人をしていて、近いうちに護衛依頼を頼もうと思うんですが、町の外で待ち合わせを行うことは可能ですか?」

「はい、別に細かい部分を制限するようなことは無いので、構いません」

「そうですか。ありがとうございました」


 こうして、彼がやることはシルバースポアムを集めて、隠し場所に隠すことのみとなった。


 ――――――――――――――――――

 次回

 再会

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