第15話 アンケート

 翌日彼は、イリシウムの町を散歩していた。散歩の目的には2つの理由があった。1つ目は、この町にどんな店があるのかということを改めて調べるという目的。

 2つ目はあわよくば、売れそうな商品を見つけられる機会になればよいという理由。


 彼はまず市場に行き、この町の住人目線でこの町の特産品や有名な職人の聞き込みを始めた。彼が改めて感じたのは、人の少なさだった。彼は適当な人に声をかける。


「すいません。少しだけお話聞いてもいいですか?」


 声をかけられた男の人は、少しだけびっくりしながらも彼に言う。


「ええ、もちろん」

「この町に私は初めて来たんですけど、この町の特産品だったり、有名な職人さんのお話を聞きたいなと思っているんですが」


「特産品か。この町は、ミストの森で採れる山菜やきのこ類の加工品が有名なんじゃないかな。魔物の素材の加工品は、たくさんあるけど、そこまで人気じゃない感じはする。食べ物を作る人に対して職人というのは変な気はするけど、山菜食堂という店は、販売もやっていて、加工品を買うことができるよ」

「ありがとうございます。ところで、話に聞く、この町の印象と比べて人が少ないように感じるんですが、どうしてですか?」


「あー、そういうことか。それは最近、ミストの森で凶暴な魔物が出た影響だね。なんでも森の入場にランク制限を設けたから入れない人が一時的に町から出て行ってるんだ。まあ、ランク制限が終わればまた人が帰ってくると思うよ。時々あることだし。ところで、まだ泊まる場所が決まってなかったら、宿屋をやっているからうちで泊まらないか?」 

「すでに泊まる場所は決めているので、お話ありがとうございました」


 レノンは、市場に来る人に対して数人程度話しかけて、特産品などを聞いたが、昨日のストー以上の情報を得ることはできなかった。そのため昼に山菜食堂に行ってみることにして、その食堂付近をふらふらと歩くことにする。食堂は少し町の外れにあった。そこで、彼はあまり人が入らなそうな路地を歩いて、隠れ家的な職人の工房を探す目的で歩いてみることにする。


 案の定路地裏ということで、工房らしい場所を見つけることはできなかったが、人が吸い込まれていく場所を彼は見つけた。彼は入り口にいる人間に話しかけた。


「すいません、ここはどういう場所ですか?」

「ここは、物を売っているところだよ」

「入っても大丈夫ですか?」

「問題ない」

「レノンは入り口から中に入っていく」


 そこは、四方を建物に囲まれていて、外からは想像できないほど中は広かった。中には、たくさんの露店が開かれていて、多くの人が露店の商品を見て回っていた。彼は入り口から、少しだけ脇にそれた店の店主に話しかける。


「すいません、ここに初めて来たんですけど。ここはどういう場所ですか?」

「どういう場所って……見てわかるだろう?市場みたいなものさ」


 店主は笑って彼の質問に返答した。その後、店主はレノンに言う。


「どうだい?これはミノタウロスの足の肉を燻製にしたものだよ。日持ちもいいから、冒険者なんかに持ってこいだと思うんだよね」


 店主はレノンの体格が良かったため、冒険者だと考えて売り込みを始めた。レノンはそれに関して、訂正する必要もあまり感じなかったので、そのまま話を続ける。


「確かにうまそうだ。ところで値段は?」

「1kg で150ゴールド」

「それだと少し高くないか?」

「今は、肉が少し入荷が難しいのは分かってるだろ?だから少しだけ金額高くしないと割に合わないんだ」


「それもそうか。それも分かるんだけど、今手持ちが少ないから、1kg を140ゴールドで売ってくれない?」

「あんたが10kg買うならそれでも構わないけど」

「まあそれなら買わないことにするよ。もし欲しくなったらまた来るとするよ」


 レノンはその後も店の散策を続ける。そこで一つとても気になる店を見つけた。そこには魔物の素材が売ってあり、彼が元々目をつけていたシルバースポワムの銀繊維だった。彼はそれを見て、とてつもない驚きを感じる。


「なんでここに……」


 レノンはその店主に訊く。


「このシルバースポアムの銀繊維はいくらですか?」

「1kg あたり100ゴールドだよ」


 レノンはこの時思っ た。


『相場がキロ70ゴールドなので、少し高い。だけど、量次第では買ってみるのもありだ』


「ここに置いてあるものは、見本として置いてあるような形ですか?」

「そうだね。とはいっても、今はあんまり入荷できるような状態じゃないから、在庫はほとんどないんだけどね」


「どのくらいあるんです?」

「今は、100kg ぐらいのはずだよ」

「どうやって入荷してるんです?」

「冒険者から買ってるのさ。わかるだろう?」


 レノンはこの時、この男の発言のおかしさを感じた。


『店主の発言から考えるに、これは非合法な取引によって売られた商品だ』


 レノンは店主に言う。


「今手持ちがないから、また来るよ」

「そうか、残念だ」


 レノンはその後も、露店を見て回ったが、ここには今市場にあまり出ていないような魔物の素材が多く存在していることを確認した。また、ここの不自然な点として、ここに来ている客の服装が、全員一般的な服の人のみで、商人だったり、冒険者のような格好をしている人はいない。


 レノンは、ここをすぐに立ち去ることを決めた。この闇市を出る時に入り口で話しかけた門番のような人間に簡単に持ち物検査をされた後、山菜食堂に向かって歩きだした。


 彼は食堂に到着して、店の中に入ると従業員から籍を案内される。そして、壁にかけられているメニュー表を見て、注文を行う。


「この森の山菜定食を頼んでいいですか?」

「一つだけ言っておかないといけないことがありまして、最近森にあまり入れていないので、少しだけ別のものをを混ぜる形になってしまうのですが、大丈夫ですか?」

「問題ありません」


 レノンは至る所に森に入れない影響が出ているという風に感じた。そして、彼はあの市場でのシルバースポアムの銀繊維のことを思い出していた。体の奥底から少しずつ湧き出てくる、買ってもいいんじゃないかという気持ち。


彼は、シルバーヘイブンでの下調べから、量さえあれば、値段が少し高くても確実に利益を上げられるという確信を持っていた。彼は届いた定食を食べた後、金額の支払いの際に店員に質問をする。


「ここで、山菜やきのこの加工食品を買えると聞いたんですけど、おそらく買えないですよね?」

「そうなんです。定食分程度の量しか集めることができていないので……」

「美味しかったです。ありがとうございました」



 その後彼は宿に戻って、夜になったら、次は冒険者ギルドに併設された酒場は冒険者が多くいそうなため、行くことにする。夜までの間、彼は別の町に行くかどうか検討することにする。


 昨日聞いた話から、ストーの話を参考にして、陶芸や寄木細工がどのぐらい売れるのかという問題を解決しなければいけなかった。そこで彼は、とりあえずこの街でどのくらい需要がありそうか?というところを調べることにした。


 そこで、彼が取った方法は、市場でのインタビュー形式でそれらの需要を聞いて回ることにする。対象は100人の人間を無作為に選んで行うことにした。


 彼は市場でインタビューを3時間程度行った後、宿屋を戻ってきた。実際に彼が質問した内容は対象者の職業と年齢と陶芸や寄木細工に対して興味があるかをとても興味がある、興味がある、興味がないの3段階に分けて聞いた。


 ―――――――――――

 職業:


 商人: 20人

 工匠: 30人

 冒険者: 10人

 その他: 40人

 年齢:


 20代: 35人

 30代: 25人

 40代: 20人

 50代以上: 20人

 陶芸に対する興味:


 とても興味がある: 15人

 興味がある: 45人

 興味がない: 40人

 寄木細工に対する興味:


 とても興味がある: 10人

 興味がある: 30人

 興味がない: 60人


 備考

 冒険者やその他の職業の人ほど興味が薄い傾向にある。

 ―――――――――――


 彼は実際に現物を持っていたわけではなかったので、購入するかどうかに関しては聞くことは控えた。


 シルバーヘイブンはこの街よりもおそらく冒険者や商人の割合が少なく、その他や職人の部分が多いと考えられる。結果自体はあまり感触の良いものではなかったので、在庫を抱えることをリスクに考えたレノンは別の街に行く選択肢が薄れつつあった。


「やばい。このままでは、宿代だけが消えていく。どうすればいいんだ」


 彼はどうしようもできないこの状況に対して絶望を感じつつあった。そこで今日の午前中の出来事が再び頭をよぎる。


「あそこで魔物の素材を買うのもありなのかもしれない。実際に、利益が出ない金額じゃない……確実に儲けることができる。でも、この町から出るとき、検問をうまく抜けられるかどうか……」


 宿にいたレノンは、外が暗くなってきたことに気づいた。そして予定通り冒険者ギルドに併設された酒場へ彼は向かっていくのだった。


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