第14話  イリシウム

 ――翌日、天気は快晴


 彼らは、目的のイリシウムに向けて、太陽が顔を出すとともに出発した。イリシウムまでは三日の道のりであり、その間は何もなく到着することができた。イリシウムはここダシンクール侯爵領の中心の町であり、シルバーヘイブンより少し大きな町である。彼らは、検問を終えると町の中へと進んでいった。レノンはフォージャーズのみんなに言った。


「ここまで、護衛ありがとう。帰りの依頼も出すから、もしタイミングが合えば受けてほしい。この後俺は冒険者ギルドで、依頼完了の手続きをするから、明日にでも報酬を取りに行ってくれ。本当に助かったよ」


 それを聞いてカイルは言う。


「みんなを代表して、元メンバーの俺が言うのも変だけど楽しかったよ。タイミングが合えばぜひ受けるよ。それじゃ、また会おう」


 フォージャーズはレノンに対して、挨拶をした後、町の中の人込みへと消えていった。その後レノンは、商人用の宿をとった後、馬車とガラハドを置いて冒険者ギルドへ向かった。初めての町ということもあり、少し道に迷いつつ、道行く人に教えてもらって冒険者ギルドへと着いた。彼は受付の女性に声をかける。


「すいません。私はレノンと言います。依頼の完了報告をしに来ました」


 彼は受けて家の女性に、シルバーヘイブンの冒険者ギルドで貰った木の板を渡す。


「少々お待ちください」


 受付の女性は、受付から離れてどこかへ消えた。暫らくしてから、女性が帰ってきて言った。


「護衛依頼。シルバーヘイブンからイリシウム。この内容であっていますか?」


 彼女は木の板に書かれた内容の確認を促した。それをレノンは一通り目を通してから言う。


「内容の間違いはありません」

「それでは、この依頼の完了報告の手続きは終わりになります」

「もう一つ聞きたいんですが、魔物の素材はどこで購入できますか?」

「それは、あちらの受付ですね」


 その女性は、別の受付の方に手を向ける。


「ありがとうございました」

「いえいえ。またのご利用をお待ちしております」


 レノンは、受付に行く前にどんな依頼があるかを確認することにする。依頼の確認をすることで、狙っている素材があるかが基本的に把握できる。そこには、いくつかの討伐依頼が並んでいて、採集の依頼も確認することができる。レノンは内心思った。


『これなら、自分が狙っている三種類の魔物の素材のどれかが手に入る可能性が高い』

 ※以下三種類

 ①ミノタウロスの毛皮

 ②ミスティコブラの霧皮革

 ③シルバースポアムの銀繊維


 依頼の確認を終えたレノンは、素材販売の受付へと向かっていく。


「魔物の素材の購入希望で来ました」


 受付の男性はレノンの言葉に反応する。


「購入希望者か。商品の指定はあるかい?」

「ミノタウロスの毛皮・ミスティコブラの霧皮革

 ・シルバースポアムの銀繊維のどれかが欲しいと思ってます」

「なるほどね……少し待ってくれよ」


 男性は、在庫の確認を行った後、レノンに言った。


「今のところ、在庫を見る感じだとすぐに購入できるものはないな。すでに予約が入っているから」

「それじゃあ、予約したらいつ頃買えるんでしょうか?」

「正直それが分からないんだよな。実はこの町の近隣の森で、凶暴な魔物の目撃情報があったから、B ランク以上の人間じゃないと森の中に入れないんだ。それにその魔物の討伐依頼を出しているんだが、そこまで人が集まっていなくて、いつ討伐できるかも目処がたってないんだ」

「そんな……」


 レノンは自分の置かれた状態に絶望を感じる。そんな彼を見た受付の男性は言う。


「兄さんおそらく商人になるんだろうけど、今回は諦めて別のものを選択した方がいいと思う。待つのは自由だが、あんたが言ってたものが入荷されるかも確定していないから」


 レノンは無言で受付を立ち去り、宿の布団で目を閉じる。彼は絶望と焦りに襲われていた。


『一体どうしたらいいんだ。こんなにうまくいかないなんて。何もやる気が起きない』


 彼は夜まで睡眠をとり、起きた後、酒を飲むために酒場に向かった。その日彼は、浴びるように酒を飲んだ。ただただ先を飲み、自分の負の感情を忘れようとしていた。


 そして翌日、再び冒険者ギルドへ行き、受付で討伐依頼の進捗状況を確認し、全く前進してないことを確認すると、夜に酒場へ行き、酒を飲む。彼はそんな生活を5日の間続けたのだった。



 レノンは、半ば自暴自棄のような状態であったが、自分の目標である、大金を稼ぎ不自由のない生活を送ることを達成するために、今のような酒を飲むだけの生活ではダメだと思い出した。彼は、その日の足で商品になりそうな物を探すことから改めて始めることにする。そこで、この日から、商人や冒険者が多く入り浸る酒場を訪れることにした。


 レノンはまず、商人が多くいそうな酒場に入り、適当な人間に声をかける。


「こんばんは」

「どうしました?」

「自分は商人をやっているレノンと言います。実は、シルバーヘイブンから来たんですが、森で凶暴な魔物が現れたらしく、素材の購入が行えなくて困っていまして……」

「そういうことですか……自分はマラッカと言います。実は私も同じような状況なんですよね。狙っていた素材が全くギルドから買い取れなくて」


 少しマラッカは笑いながら言った。そしてレノンは本題を切り出す。


「私はそこまで、お金に余裕があるほうではないので、出来ればよさそうな商品を探していまして、何か良いものはあったりしますか?」

「自分は、ここから魔物の素材で生計を立ててる身だから、あんまりそれ以外に対してアンテナを張っていないんだよね。商品には関係ないんだけど、この町の注意点を少し教えようか?この町は初めてだろ?」

「そうですね。ここに来たのは初めてです。是非聞かせてほしいです」


「この町には多くの冒険者がいるから、いろんな人間もいるんだ。特に注意しないといけないのは、この町に詳しくない商人に素材を売り込みするタイプの冒険者だ」

「話を遮る形になってすいません。商人に素材が届くには、冒険者ギルドを通すのが、必須じゃなかったでしょうか?」

「そう。冒険者から商人に素材が渡るのは、冒険者ギルドを経由しないといけない決まりになっている。けど、これは完全に予防することはできていないんだ。冒険者は自分で討伐した魔物の部位を自分のものにできる権利があるからね。でもそれを他人に売ることは許されていないだろ?」

「そうですね」


「けど、悪質な奴らは、魔物の素材を自分たちで保管してそれを直接売ることで、異常な価格で販売したり、中抜きを防止して金を稼いでるタイプのやつらがいる。そういうやつから一度素材を買ってしまうと、そこに付け込んで脅しなんかをして、何度も素材を買わされて破産している人間がそこそこいるんだよ。まあ、商人側が好んで買っている場合もあるけどね」

「そういうタイプの人間がいるんですね……実際今の森への制限なんかも気にせず、素材集めを行っていそうな連中ですね」


「実際そういうやつらはいるだろうね。冒険者は半分自己責任だし、森も入り口が一か所じゃないから、完全に制限するのは難しいからね。てことだから、そういうタイプの冒険者に話しかけられても、断ったほうがいいから。話しかけてくるやつらには警戒したほうがいい。商品に関しては、助けに慣れなかったけど成功を期待しているよ」

「ありがとうございました」


 レノンはマラッカとの話を終えた。その後、少しの間エールを頼んで、2人の人間の話を盗み聞きしてみる。

「知ってるか? なんでも、メディ家の当主が亡くなったらしいぞ。当主の候補が二人いるらしくて……」

「こりゃポーションの流通に影響が出るかもな。でも距離がなあ。コストが悪すぎて……」



 彼は、その内容を聞いていると一人の人間が、入店してくる。それを見て、話しかけやすそうで、優しそうな男性なので、話しかけに行くことにした。


「こんばんは。商人の方ですか?」

「そうだよ。もしかしてなんか情報が欲しかったりする感じかな?」

「そうですね」

「ということはこの町は初めてということかな?簡単に自己紹介しておこう。私の名前はストーだ。商人を初めてから20年近く経過しているよ。よろしくね」

「よろしくお願いします。ストーさん。私はレノンと言います。つい一月前に商人を志し、現在初めての行商を行っています」


「これはびっくりだ。まさか初めての人か。正直、私が君から得られるものはなさそうだね。とはいえ、これも何かの縁か。いくつかの君の質問に答えてあげるよ。そうだなあ、とりあえずワインを一杯おごってもらっていいかな?」

「ありがとうございます。アドバイスがもらえるなら、是非」


 レノンは、従業員を呼び、夜の輝きという高級なワインといくつかのつまみになりそうなものを注文する。


「ありがとう」


 ストーは彼に言った。レノンは彼に訊く。


「それでは質問の方を始めてもいいですか?」

「もちろんさ。今は待つことしかできないからね」

「それではまず初めに、この町の特産品についてお聞きしたいです」

「この町の特産品か。まあ、それは君もわかってると思うけど、魔物の素材に尽きるね。加工品なんかは、悪くはないんだけど、やっぱり別の町の方が作り手が良い気がする」

「ということは、この町でもし買うなら、素材一択ということになりますか?」

「正直そうなるね。もし他のものを探すなら、別の町に行く方がいい。これは間違いない」


「これは質問とは違うんですけど、現在、ここの近くにあるミストの森では、凶暴な魔物の出現により、冒険者の入場が制限されていることは知っていますか?」

「もちろん」

「では、なぜこの町にいるんでしょうか?」

「それは、この街で魔物の素材を買うためだよ」

「自分が冒険者ギルドに行った時には、購入の予約が殺到していて、すぐには買えないだろうと言われたんですが……」


 レノンは渋い顔をする。それを見てストーは、彼に助言をする。


「自分は、比較的時間に余裕があるから、予約を待っている感じだね。時々今回みたいな制限がかかるときがあるから、魔物の素材を狙う時は、余裕をもって望むものだよ」

「余裕を持っていても、場合によってはかなり長い時間待つことが予想されると思います。それは凶暴な魔物がもうすぐ討伐されると考えていたりするんでしょうか?」

「まあそんなところだね」

「根拠はあったりしますか?」

「ノーコメントで」


 レノンはそれを聞いて少し難しい顔をする。一方で、ストーの表情に変化は見られない。


「では、次の質問を。もし別の町に行くなら、どこへ行かれますか?」

「そうだなあ。レノンくんの状況が知りたいから、もし行くならどのぐらいの日数許容できるかい?」

「正直2日ぐらいが好ましいですね。」

「2日か。ないね。正直この近辺は、ここイリシウム。補うような特徴の町が多い。例えば、北なら食料だし、西なら建材みたいなね。ところでどこから来たんだ?」

「シルバーヘイブンです。ここから東に向かったところにある」

「なるほど。かなり遠くから来てるってことか。やっぱり単価がいいものがいいよね〜」


 ストーはブツブツ言いながら考え始める。その時店員がワインやおつまみを持ってきて、机の上に並べていく。レノンは、彼が考えてる最中、自分用のワインを飲んだり、おつまみを食べたりしていた。彼は唐突にレノンに質問する。


「馬車の大きさはどのくらいなんだ?」

「中型という風に聞いてます」

「そうか」

「今回は2日という制約を無視させてもらうよ。そうしないと回答が出せないから。まあ参考だと思って聞いてくれ」

「ここから北に4日行ったところに粘土の産地がある。そこでは陶芸が盛んで、非常に価値のあるものが多い。次に南に3日行ったところに寄木細工が有名な街がある。ここから目指すならその2箇所がいいかもしれない」

「ありがとうございます」


 レノンはそう言ってその情報を紙にメモした。するとストーはレノンに言う。


「その紙は羊皮紙と違う材質をしているね。それについて教えてほしいんだけど」

「これですか……これは、シルバーヘイブンに出張できていた商人が売っていたもので、かなり東の方で作られているらしいと聞きました」

「東なのか……ありがとう」


 再びストーは考え始めた。レノンは店の中の時計で時間を確認すると、なかなか遅い時間になっていた。そこでレノンは彼に言う。


「代金をここに置いておくので、これで支払ってください」


 それを聞いてストーは驚いた表情で彼に言う。


「いや、お金は大丈夫だよ。その紙の話が非常に有益だと思ったから、ここは私のおごりで大丈夫だよ」

「ありがとうございました。それでは、どこかでお会いしたらよろしくお願いします」


 レノンは彼に一言言った後、宿へと帰って行った。宿への帰り道で彼は紙についての情報は、そこそこの情報交換の材料になりそうだという風に感じたのだった。

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