第20話 復興②
翌日彼らが仕事をしていると、突然日陰ができる。不思議に思った人たちが空を見上げると、そこには複数の魔物が大きな荷物を持ってやってきていた。
先頭にはグリフォンがおり、その後ろをドラゴンが追っていた。その魔物は広場に物資を降ろすために高度を下げる。その光景を宿から見ていた子供たちは、急いで坂を下りていく。セバスはミラーにお礼を言った。
「物資の方ありがとうございます。ミラーさん」
「基本的に必要な物をまとめています。主に食料ですね。家なども損傷があると思うので、大工の方などを連れてこられればいいのですが、町の方も被害が出ているので少し先になるかと思います。また一週間後に物資を持ってくるのでよろしくお願いします」
到着した子供たちは目を輝かせながら、魔物に騎乗している人達に対して質問攻めを行った。忙しいにもかかわらずミラーたちは彼らに丁寧に対応していた。
一方で、親たちは魔物の近くにいるわが子を見て、気が気でなかった。ミラーたちは再び、空へと飛び上がり、町の方へと戻っていった。ドレイクは言った。
「空輸はコストがすごいと聞いたが、ダシンクール侯爵はよほど人格者のようだな」
セバスは言った。
「あの人はとてもいい人なんだ。だから私たちもこの村で豊かに暮らすことができているんだ」
そして、三日目の作業が終わると、主要な道の除去作業が終わった。今日も、何人かで会議が行われる。
「みんな今日もお疲れ様。今日、主要な道が開通したから、明日は農業用の馬車を使って坂の上に纏めている土を町の外に捨てようと思う」
そこで急にキックは言った。
「私たちは道も開通したので、拠点の町に明日にでも戻ろうと思います。明日の朝に出発します。今までありがとうございました」
それを止められる者はいなかった。キックと護衛のリーダーは、それを言い終わると、会議の終わりを待たずして去っていった。セバスはそれを見て言った。
「少し残念ではあるが……異論はあるか?」
村人の一人が言った。
「畑の様子はどうだった?」
「ダメだ。木の一本も生えてはいるように見えなかった……」
また別の村人が言う。
「うちの家は一回に土砂が入り込んで、めちゃくちゃなんだ。土砂の除去作業を手伝ってくれないか?」
「それはそうなんだが……積んだ土砂が再び雨が降ったときを考えると危ないから優先的にそちらを行いたいんだ。気持ちはわかるんだが」
「具体的にいつからやってくれるんだ?」
「それは……」
その村人は優先順位が低いことを認識して諦めた。本人も家の順位が低いことはわかっていた。
「いや、いいんだ」
その翌日から、土砂を村の外へと捨てる作業とこの村で一番大事な畑の土砂の除去作業とそれ以外の被害状況の確認がおこなわれることになる。宿の横の土砂の除去は一日で終わり、畑の土砂及び木などの除去作業には1週間の時間がかかった。
外壁の確認を行ったメンバーは何か所かの破損を確認したものの、外壁を造るにあたっての素材がないため、後回しする形になった。畑の除去作業が終わると、家の敷地内の土砂の除去が始まり、全ての土砂の除去が終わるまでに2週間程度の日数が経っていた。
この頃にはほとんどの村人は自分の家で生活していて、宿に残っているのは一部の人間のみだった。そして、レノンの馬車の車輪はこの時には、修理が終わっていた。このキリがいいタイミングでレノンは、カイルたちを集めて言った。
「正直復興に対して、俺たちはかなり手伝いをすることができたと思っている。だから、明日にでもこの村を出てイリシウムを目指そうと考えているんだ。みんなどう思う?」
ミリアは彼の意見に賛成した。ドレイクは迷っているようであった。サラは言った。
「私は反対だわ。貴方はシルバーヘイブンに戻るべきだわ」
カイルは別の意見を言った。
「俺はここにまだ留まるべきだと思う。外壁が壊れているこの状況は非常に危ないと思うんだ。いつ魔物が迷い込んできてもおかしくない」
ドレイクはカイルの意見に賛成した。一方でレノンは2人に言った。
「一応この旅の雇い主は俺だぞ? 俺は商人をやるためにここに来たんだ。俺の意見を尊重してくれ」
カイルがレノンに言う。
「雇い主は確かにお前だけど、状況が状況だ。俺はここから動く気はないぞ」
レノンは護衛がいない中で、馬車で移動することは不可能なので、諦めることにする。
「カイルは昔から変わらないな。正直ムカついてるけど、今回はお前の意思を尊重するよ。貸しにしとくぞ」
「それで構わない」
少し険悪な雰囲気が流れた。一方でサラは、レノンと野生の魔物の接触が反対なので、村に魔物が来ないことを祈ることしかできなかった。
それから三日後に、家や外壁を直すための資材が載せられた馬車が何台かこの村にやってきた。彼らは、セバスがミラーに依頼した商人たちだった。
彼らは町の広場の一角にいくらかの石を運び込むと次の物資を届けるために別の町に急いで向かった。レノン達も協力しながら、その日から家の修理と外壁の修理が行われることになった。その日の夜にセバスはレノンに言った。
「今日の夜に私の家で会議があるから、ぜひ来てくれないか?」
そして、夜がやってくる。レノンたちは、セバスの家に到着した。彼らは、アヴァに家の中を案内される。前回来た部屋より一回り広い部屋に着く。そこには、数人の村人がいた。セバスがレノンたちが到着したことを確認して言った。
「本日の議題は被害状況の確認だ。この町の主要産業の要であるブドウ畑は壊滅状態だ。苗木は、今年植え替えを予定していた量はあるが、畑全体としては足りない。
そこで、今年度に収穫できた実から栽培するか、他から苗木を買うか検討したい。苗木を買う場合は、雨の被災地域が確認できるまで、どこから買うかも決められない。そのため、私は、実から栽培しようと考えている。そちらの方がすぐに始められる。どう思う?」
その意見に反対する者はいなかった。
「また、畑が無くなってしまったから、働き先がないことも懸念事項だと考えている。そのための案として、冬小麦の栽培を行おうかと考えている。
近隣で、冬小麦の栽培はおこなわれているから、問題なくできると思う。この小麦は、自分たちの消費に回すつもりだ。どう思う?」
一人の人間が手をあげて言った。
「小麦の栽培はいいんだが、どうやって種を持ってくるんだ?」
セバスがその意見に笑いながら答える。
「ここにいるだろ。護衛付きの商会が」
彼はレノンたちを指さす。そして、付け加えるように言う。
「しっかりお金も出すぞ。当たり前だろ」
レノンは、力強くうなずいた。彼は、この旅で商人の経験値を貯められることが嬉しかった。セバスがまた口を開く。
「ブドウ関連の最後は、ワイナリーについてだ。ワイナリーは幸いにも雨の被害をほとんど受けず、運転可能だ。今年分は何とかなるだろう。しかし、次にブドウが収穫できるのは2〜3年程度かかるだろう。その間、他のところからブドウを買い付けるかを考えたい」
このブドウに関しての議論は白熱した。理由は、伝統と利益だ。ブドウにこだわりを持っている人間とワインを安定的に作って、いち早くこの被害の補填に当てたいという人がいた。その時、カイルが手を挙げた。
「麦作るなら、少し広めに作って、一部をビールに回せばいいんじゃないか? ワインを作れるなら、材料さえ揃えれば、商品になるくらいのものは作れる可能性があるんじゃないか?」
その意見は、村人たちにとって良い意見だったようで、ビールを作ることに挑戦するようだった。その後、会議を締めるためにセバスが言った。
「では、皆よろしく頼む」
その言葉の後、部屋の中から人が消えていった。
レノンは、セバスに訊いた。
「いつ出発すればいいんですかね?」
「とりあえず、家の修理と外壁の修理がひと段落してからで頼む。君たちがいない中で、外壁が壊れている状況は避けたい」
「分かりました」
――――――――――――
次回
魔物と接敵
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