第19話 復興①

 翌日、レノンは誰よりも早く起きた。その耳には雨音は聞こえない。彼は外の様子を確認するために宿を出る。まだ外は薄暗く、ハッキリと村の全貌は見えていなかった。


しかし、宿の前の道には、宿の裏手にあった山の土が堆積していた。彼はガラハドに餌をあげるために宿の横の建物の中に入る。ガラハドは寝ていたので、レノンは静かに餌を彼の近くに置いてから宿に戻る。


彼が宿に戻ると、女性達は食堂の料理場を使い朝ごはんの用意を始めていた。その音によりいくらかの男性陣は既に起き始める。暫らくすると、太陽の光が村を照らし始める。


元々傾斜のある村なので、日当たりは良い立地なので、男たちは我先にと村の様子を見に行く。レノンもその流れに加わり、改めて村の様子を見に行く。


村の家は、石造りのため、一部を除いて甚大な被害を受けた家は見受けられなかった。道には、山から流れ出た土砂が堆積していた。


そのことから、傾斜の下の方に位置していた畑は絶望的な状況であることを彼らは感じた。一部の村人たちの泣き声がレノンの耳には聞こえていた。


彼らは、宿の中へ戻り、食堂の片づけを行った後、一部の寝ている子供や老人以外はご飯を受け取って、宿の外や食堂でご飯を食べ始めた。


レノンはその時、金を稼ぐためにこの村を訪れて、トラウマになっていた魔物と戦い、土砂降りの中馬車を走らせ、中々目的と異なることをしてきたと感じた。カイルやドレイク達と一緒に朝ごはんを食べる中で、これからのことについて話す。カイルは訊いた。


「レノン、これからどうするんだ?」

「とりあえず、俺じゃ馬車も直すことはできないからな。この町の人間で直せる人に頼むしかないかな」

「じゃあ、とりあえずやれることを手伝う形になる感じか?」


心なしかカイルは村を手伝う時間があることを嬉しそうにしていた。


「馬車が治っても、道がこんなんじゃどうせ馬車も走れないから。復興の手伝いをしよう。準備が整い次第、進むかどうか判断する形にする。時期的に俺が狙っていたものが手に入るかもわからないから」


その決定にフォージャーズのメンバーは頷く。朝ごはんを食べ終わると村の運営を行っている村長を始めとした数人とレノンとドレイクとキック達の会議が始まった。セバスはレノンとドレイクに言った。


「住民の避難の手伝いをしてくれてありがとう。君たちのおかげで、ここに避難することができ、死人が出なかった」


そして、咳払いをして改めて彼は言う。


「これから、どのような行動をとるかに関して議論をしたい。とりあえず、村全体の状況確認を出来る状態じゃないから、まず道を歩けるように堆積した土砂の除去を行うことが最優先事項だと考えるがどうだろうか?」


会議に出席した人間は皆頷いた。


「それで、村の外からきている貴方たちはこれからどうするんだ?」


キックは言った。


「私の護衛は負傷者も体が治りきっていないので、直ぐに行動できないので、手伝える範囲でお手伝いします」


レノンは言った。


「うちも手伝うつもりです。出来れば、昨日馬車が壊れたので、直せる人に直してもらいたいですね」


村長は彼らに言う。


「ありがとう。馬車に関してはある程度道が通れるようになったら、馬車の修理ができる人がいるから対応しよう。それでは、道の土砂の除去を今日は行おう。夜に進捗の確認などのためにもう一度集まってもらうよ」


彼らは解散し、宿の外で土砂の除去作業が始まる。と言っても、道具がほとんどない状態なので、若くて体力のある人間たちが最初に道具を使う形になった。


また泥の運搬には、何個かの麻袋を繰り返し用いる形で行った。この時に一番輝いたのがドレイクだった。彼は土魔法を得意としていたので、人の力でできる何倍もの範囲を一人で除去し、運搬することができた。


少ない道具を動ける人が交代で使用して、出来るだけ効率的に作業を行った。この日は、一番下の村の入口までの主要な道で優先的に作業を行い、主要な道の三分の一ほどの土砂の除去ができた。


夜に彼らは再び代表者で話し合いを行う。今回はドレイクは魔法の使い過ぎで、寝てしまったため、レノンとカイルで出席した。セバスが言った。


「今日は疲れただろうが、明日の話をしよう。とりあえず、村の入口までの道の土砂をどけるのは変わらずやるべきだろう。脇道にはそこまで土砂がたまっていないことは確認できたから、明日から自分の家に行ける人間は一時的に家の確認をしてもらおうと考えている」


レノンは自分たちの扱いに不満を感じて訊いた。


「それだと、外から来た私たちとキック達だけが土砂の除去作業するのか?」

「申し訳ないけど、そのような形になる可能性が高い」


「確かに手伝うとは言ったけど、少し扱いがひどくないか?」

「もちろん報酬も出すつもりだ。だから、力を貸してほしい」


カイルは申し訳なさそうな顔をしている村長に対して言った。


「任せてくれ」


キック達も今日の仕事量を考えてか、少し渋そうな顔をしていた。カイルの言葉に安心したセバスは言った。


「それでは明日は、引き続き道の土砂の除去と家の状況確認を行おう」


――翌日


一部の住人たちは、自分たちの家の確認を行っていた。石造りの家の中で火を焚いて、湿気を飛ばしたり、家具の確認などを行った。


レノン達と残りの住人が土砂の除去作業を行っていると、一羽のグリフォンが空に現れる。彼らは、そのグリフォンに視線を向けた。すると、そのグリフォンが少しずつ高度を下げてくる。カイルは住人に言った。


「早く避難をして」


住人たちは急いで坂を駆け上がっていく。そして、カイルがレノンを見ると彼は、道の上で意識を失っていた。


「サラ、ドレイク。レノンを急いで連れていけ。俺が何とかして奴を止めるから」


ドレイクはスコップを構えて、グリフォンに集中する。すると、人の声が聞こえる。


「逃げないで、仕事でここに来ただけなんだ」


カイルがよく見ると、男性がグリフォンに乗っていた。その男性はカイルに言った。


「村の被害状況確認にここに来たんだ。この村の村長を呼んでほしい。グリフォンで行くと少し騒ぎになりそうだし」


カイルは既に騒ぎが起こっていると思いながらも、その男に言った。


「村長をここに連れてこればいいんだな?」

「そうだね」


カイルは、グリフォンに戦闘の意思はなく、危険はないことを住人に伝えた後、セバスを連れて、男の元に戻った。セバスはその男性を見て言った。


「初めまして、セバスです。この村野の村長をしています」

「私はミラーと言います。ダシンクール領で役人をしています。今回は、この記録的な豪雨の影響の確認と救援物資に関してのお話が合ってきました」

「影響の確認と言っても、私たちは今、道の土砂の除去くらいしかできていないですよ」


「そのようですね。上から見た感じの状況をこちらから報告しておくので、確認に関しては問題ないです。それと救援物資なんですが、明日こちらに運んできてもいいでしょうか?」

「それはどのようにここへ持ってくるんでしょうか? その……道の土砂も除去し終わってませんし」

「大丈夫です。空から持ってきます。村の広場まで除去が終わっているようなので、そこに物資を持ってきますね」

「はあ……」

「それでは、明日の今日ぐらいの時間にまた来ます」


ミラーはグリフォンに乗って去っていった。カイルにとっては一瞬の出来事だった。昼手前だったこともあり、2人は昼ごはんを食べるために宿へと戻った。


レノンがベッドの上で目を覚ます。この部屋には誰もいないが、レノンは内装を見て宿の一室だと認識した。レノンはとりあえず人がいそうな食堂へと向かった。食堂には、数人の子供とサラと何人かの女性がいた。サラはレノンを見て言った。


「グリフォンは、役人が乗っていたそうですよ」


レノンはそれを聞いて、自分が空に浮かぶ魔物を見た後の記憶がないことに気づく。


「あれはグリフォンだったのか。あまり記憶がなくて……」

「レノンさんは気付いたときには気を失ってましたからね。レノンさんの昼ごはんはここにあるので、どうぞ」


レノンは昼ご飯を食べ始める。すると、子供の一人がレノンに言う。


「なんで寝てたの」

「まあ、疲れてたから?」


レノンは、目を泳がせながら答える。


「ちゃんと夜に寝ないといけないんだよ」

「そうだね」


レノンはその子供の言葉を笑いながら聞いていた。そしてレノンがご飯を食べ終わるとサラが言った。


「明日も同様の時間にグリフォンに乗って人が来るかもしれないので、レノンさんは外に出るべきじゃないです。魔物を見て倒れられては、どうしようもないです」

「明日も来るのか……」

「過去に何があったかは聞きませんが、私はレノンさんは商人のような職業に就くべきではないと思っています。貴方を護衛する側の人間の気持ちを考えてください」

「やっぱり、俺はダメなのか?」


レノンのその言葉は彼女に訊いているように見えたが、自問自答しているようであった。


「貴方は、精神的な問題を抱えているように私の目からは見えます。町の中で生活する分には影響がでるようなものではないので、克服する必要はないんです。準備が整ったらシルバーヘイブンの中でおとなしく生活するべきですよ」


レノンにその言葉は聞こえてなかった。彼は、あのここ半年の町の中でのつまらない生活の日々を思い出すと、自分が自分じゃなくなるような気がしていた。


「とりあえず、明日は午前の早い時間に切り上げて、グリフォンが帰ってから仕事に復帰するよ」


レノンは宿の外へ出て行き、土砂の除去作業へと向かった。この日、宿から村の入り口までの主要な道の三分の二の除去作業が終わり、明日には道の除去作業が終りそうだということをセバスが皆に伝えた。


その後、明日、支援物資を運んでくるために、役人が空から現れることと空輸は主に小さなドラゴン系の魔物が使われることを彼らに教えた。


話し合いが終わった後、サラはカイルに言った。


「貴方、レノンさんの友達なら商人を辞めさせるべきよ。今日のこともあったから言うけど、近いうちに彼死ぬわよ」

「でも、あいつはストームハウルの時、ミリアを助けてくれたじゃないか」

「それはそれよ。モンスターを見て気を失うような人間は町の外に出るべきじゃないわ」


「グリフォンは、共生種だけど野生ならBランク冒険者でも厳しい用生ものじゃないか。そんな簡単に出くわすものじゃない」

「万が一って言葉知らないの? さっきも言ったけど、あのままじゃ、遅かれ早かれ死ぬわよ。護衛する側の人間がかわいそうだわ。精神的な問題なんて依頼内容の中に書いてなかったし」


「それはそうかもしれないけど。商売を始めるにあたって。約半年ぶりにあいつが俺に会いに来てくれたんだ。それまで一切、顔を合わせるようなそぶりを見せなかったのに……冒険者辞める直前なんて、抜け殻みたいだったんだ。多分、俺が言ってもあいつは止めないと思う」


「この依頼が終わったら私から言うわ。私は多少医療面にも知識があるから断言するけど、精神的な問題は簡単に解決する問題じゃないわ。あなたもその時は、辞めることを勧めてね」

「ああ……」


 ――――――――――――――――――――

次回

復興2

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