第21話 復興③
――それから2週間が経ち、少し肌寒さを感じるようになってきた頃
外壁の修理は最後の一か所ほど残っていた。レノン達は、万が一に備えて、武器を外壁の修理地点まで持ってきていた。彼らが作業をしていると、突然壊れた壁から体長3m程度のグラズリーウィルドが現れる。村人たちは一目散に逃げだしていく。
レノンは、それを見て身動きすることができなかった。グラズリーウィルドは豪雨の影響で食べ物を食べることができず、たまたまここにたどり着いた。そこで、動かないレノンをこれ幸いと捕食するために捕まえようとする。
そこに大剣を持ったカイルが、鎧も着ないでグラズリーウィルドに対して斬りかかる。その攻撃は、注意力の欠如気味の魔物に対して、しっかりと当たる。魔物の体には、しっかりと傷が作られ、そこから血が流れ出した。
カイルは攻撃の後、暴れることに経過して直ぐに距離をとった。その攻撃に激昂したグラズリーウィルドはレノンからカイルに標的を変えて、突進していく。
カイルは、それに対して正面から受け止める構えをとった。その隙に呆然と立ち尽くすレノンをミリアとサラは二人係で運び、戦いからある程度の距離の場所へと運んで行った。
グラズリーウィルドがもうすぐカイルとぶつかる直前に大きな岩の壁が突然現れ、魔物はその大きな壁に激突する。岩の壁は崩れて消えていく。
その魔物の顔は岩との衝突により傷ができており、所々血で赤くなっていた。カイルは自分の近くに降ってくる岩を避けながら、魔物に対して距離を詰めていこうとする。それに対してドレイクが言う。
「カイルとりあえず防具を付けろ。攻撃を受けたら致命傷になりかねないぞ」
「そうだな」
カイルは冷静さを取り戻し、一度防具を着ることにする。ドレイクは前線の人間がいないことは、少し辛いが、自分の魔法を併用することでうまくこの数分を切り抜けるため、再び気合いを入れる。
カイルと入れ替わりで、ミリアとサラが戻ってくる。グラズリーウィルドは地面の土を爪で抉り取り、フォージャーズの方へと投げつける。すると砂埃が舞って、数秒間視界が悪くなった。
彼らは、より警戒を強める。すると、グラズリーウィルドは一度外壁に上ってからジャンプを行い、空の上からドレイクに対して踏みつぶしにかかる。
ミリアはある意味無防備である状態の魔物に対して、的確に顔を射ていく。一方でドレイクは自身が潰されるのを防ぐために、再び魔法を使う。彼は数本の柱を魔物に当てることで、落下時間を長くし、その間に落下地点から逃げることに成功する。
魔物が地面に衝突したときの衝撃と風が彼らに激しくぶつかる。彼らは、それらを防ぐために顔の前を腕などで防御することで、魔物がいるであろう方向を視認することができない。
その風が吹き止むと同時に、次はミリアに対して、魔物は突撃を開始する。ミリアがそれを避けようと、横に体を投げ出すと、そこで魔物は止まり、その腕でミリアを薙ぎ払う。
ミリアは地面を転がる形で吹き飛ばされていく。彼女は偶々、爪が当たらなかったために、大出血とはならなかったが、腕を強打していた。そこにサラは駆け寄り、魔法やポーションなどを駆使して、彼女が矢を射れるように体の調子を一時的にでも改善させる。
そこに追撃を入れるように魔物は迫ってくる。魔物の頭の中はミリアを捕食することでいっぱいであり、周りに集中力を割けてはいなかった。
ドレイクは短時間で、規模の大きい魔法を使ったこともあり、剣で横から魔物に攻撃を加える。しかし、前へ進む推進力に変化は見られない。
――ドンッ
大きい音を立て、大剣と魔物の顔が衝突する。その突進を鎧を着て戻ってきたカイルが受け止めた。
「ドレイク、なんか魔法で攻撃してくれ」
カイルが叫ぶ。ドレイクは、マジックポーションを飲み込み、剣に集中する。その剣を地面に触れさせると、岩の柱がグラズリーウィルドの真下から勢いよく飛び出す。その柱は、魔物の腹部を的確にとらえ、体内を通り背中へと貫通する。
カイルは剣から伝わる力が弱くなっていくことを感じていた。そして、その力が無くなったことで、モンスターの討伐を確信する。
「皆、お疲れさま。サラは皆に回復魔法をかけてくれ」
「分かったわ」
その時彼らの耳に、最近聞いたような音が耳に届いた。
――レノンが一人別の場所へ連れてこられた頃
村人たちはその場所から避難しており、周りには誰もいない村の敷地内の場所で、彼の冒険者時代に使っていた盾と剣と共に寝かされていた。フォージャーズと魔物の戦いは、激しいようでその戦闘の音は彼の耳に届く。レノンは半年前を鮮明に思い出す。
その時、一匹のストームハウルが彼の元に現れる。それは、少し前に彼とフォージャーズに撤退させられた個体だった。あのときにできた傷は、所々残っていて、偶然彼のもとに辿り着いたようだった。
レノンは目を見開く。彼は、恐怖に駆られるが、急いで近くにある盾と剣を拾う。直ぐにストームハウルは、風魔法を使い、遠距離から攻撃を開始する。レノンは盾を体の前に構える形で、かまいたちを受け止めようとする。
――カンッ
1つ目のかまいたちが盾にあたり、甲高い音が響く。レノンは体に力が入らず、足の踏ん張りが足りなく、吹き飛ばされる。
「痛え」
レノンは思わず声に出す。幸いに吹き飛んだレノンは地面に伸びていたので、彼の上を2発目のかまいたちが通過していく。
ストームハウルはそんな彼を見て、ニヤリとした表情を浮かべた。それは、良い獲物を見つけたと言っているようだった。
レノンは、急いで立ち上がり、ストームハウルを視界にいれる。その瞬間、目の前にはストームハウルの尻尾が振りかぶられ、咄嗟に盾を顔の前に構える。
盾と尻尾がぶつかり、盾を持つ左腕は、その勢いに耐えきれず、あらぬ方向へと曲がる。
「―――ッ」
彼は吹き飛ばされながら、言葉にならない声が口から漏れ出す。ストームハウルはあえて直ぐに追撃をせず、その光景を楽しそうに見ている。レノンにとっては久しぶりの重症だった。彼は、最後にいつ怪我をしたのかを思い出そうとするが、ハッキリと思い出せない。
『自分はなんで、魔物に殺されかけているんだろうか?』
レノンは地面に吹き飛ばされ、盾腕が曲がる痛みに苛まれながらも、何とか立ち上がる。彼の心は強烈な痛みにより恐怖の感情がいつもより少なくなっていた。
彼は、魔物を見たときどのように感じていたのかを考える。過去にグラズリーウィルドから必死に逃げた経験から発生する恐怖、いつ死ぬのかわからないという感情は今でも忘れることなく、鮮明に思い出すことができる。
『では、今はどうだろうか?』
『あの時に逃げていたのは、負傷した仲間から魔物を引きはがすためだった』
『ここで逃げる選択肢は?』
『正直逃げたい』
『なんでその選択肢をとらないのか?』
『ここで自分が逃げたら標的は、今近くで戦うフォージャーズか村の人たちか。それは、見過ごせない』
その時再び、ストームハウルのかまいたちが飛んでくる。レノンは右手に持つ剣でそのかまいたちを受け止める。彼は、足の踏ん張りが機能していた。彼は、魔物を前に力を入れる感覚を思い出していた。
『なぜ、前回ストームハウルに立ち向かへたのか?』
『負傷したカイルを目にして、自分も戦闘に加わるべきだと考えたから。そうしないと全滅する可能性を感じたから』
『今自分はどうするのが最善か?』
『目の前の敵を少しでも長い時間ここにとどめておくべき』
レノンは、恐怖よりも使命感の方が強くなっていた。自分にとってのタスクを遂行するため、彼はストームハウルと目を合わせる。ストームハウルはどのように料理してやろうかと考えていた。レノンは内側に存在する恐怖と使命感を自覚しながら、右手に握る剣でストームハウルに攻撃するため距離を詰める。
この行動は、レノンの無自覚の行動だった。時間を稼ぐこととは反対に思えるこの行動は魔物に大きな動揺を与える。魔物は、攻撃の主導権を握っているのは自分であると自覚していたが、この行動で主導権を握られたと錯覚した。
――ウオォォォ
レノンは声を上げて、ストームハウルに迫る。魔物は体に風を纏わせて、レノンの攻撃を吹き飛ばす選択をとる。これは、明確に魔物が彼の攻撃に対して攻撃ではなく防御を選択したことを意味していた。レノンはその風に吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。
追撃の形で迫ってくるかまいたちをその剣で受け止める。体が吹き飛びそうになるが、何とか足に力を入れて踏ん張る。
『奴はあまり距離を詰めてこない。それは、前回の戦闘による影響なのかもしれない。お前も人間が怖いんだろう』
レノンは敵の攻撃から、そのように魔物の心情を考えた。
――あははは
レノンは突然笑いだす。自分の方がこの場において有利だと感じたからだ。
『攻撃を受け止めるか避けるかをするだけだ。簡単に時間は稼げる』
そこから、彼は時々距離を詰めるそぶりを見せながら、魔物の魔法による攻撃を受け流しつつ、しっぽでの攻撃を受け止めていた。魔物は牙や爪といった部位での攻撃を行わなかった。
暫らく彼らの均衡状態が続いていると、横からカイルの声が聞こえてきた。
「レノン大丈夫か?」
「ああ……」
その声と同時に彼らはストームハウルに攻撃を開始した。その光景を見て、レノンは戦闘の影響のなさそうなほうへと歩いていく。彼は、時間稼ぎのタスクを自分なりに完遂できたと感じた。レノンは地面に横になり目を閉じる。
「疲れたなあ」
――それから数時間後
レノンは宿の一室で目を覚ます。それに少しだけ既視感を覚えた。目を開けると横にはサラがいて、その後の話を聞くことにする。
防戦一方の魔物は、フォージャーズのメンバーによって処理され、二頭の魔物は、村の人間の食料の一部へと変わっていった。
「俺の怪我はどのくらいで治る?」
「そうですねぇ」
「一週間くらいですかね」
「死者は?」
「もちろんいませんよ」
「それは良かった」
レノンはそう言って、もう一度目を瞑り睡眠に入った。
――――――――――――――――――――――
次回
村からの依頼
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