モンテルビオ
第1話 次への準備
季節は2月
レノンがコミエンソ村から帰ってきてから、4か月の時間が経った。この間に彼は、ロジャーから斡旋してもらった仕事や地図を売ることで、少しずつお金を稼いで過ごしていた。
レノンはロジャーと彼の家で、次の仕事の話をしていた。
「レノン、次の仕事はグレースエッジ商会からの依頼だ。内容の詳細は、3日後の昼にシルバーヘイブンの中の支店に来てほしいそうだ。受けるかい?」
「グレースエッジ商会ですか、刃物分野の大手ですね。受けさせてもらいます。この手の依頼は片道分の食費や護衛費が浮きますし、報酬までもらえますからね」
「分かった、私の方から伝えておくよ。ところで、最近地図の売れ行きはどうなんだい?」
「今は、5つの町の地図を売っていて、販売当初より売れ行きが落ちてますね。まあ、何個も買うような物じゃないですしね。とはいえ、この商売はロジャーさんが斡旋してくれた仕事のおかげで、色々な町へ行く機会があったから出来ているので、感謝しています」
「なんだかんだ、私も君からご飯やら何やら貰っている身だ。持ちつ持たれつの関係なのだから、私も感謝しているよ。それでは、3日後の打ち合わせには遅れないように頼むよ。その時に積み込みも行いたいそうだから、馬車で向かってくれ」
「ありがとうございました。それでは、また」
レノンはロジャーの家から市場へと歩いていく。彼は、紙をいつも買っている店へと向かった。店主はレノンを見て声をかける。
「こんにちは、レノンさん」
「やあ、パッペさん」
「今日も紙を買いに来てくれたのかい?」
「そうだよ。300枚買いたいと思ってる」
「毎度。そういえば、うちの店と提携している紙工場がこの町に支部を作るそうなんだ。なんでも、この町の領主から誘致されたとかなんとか。これで、供給効率が良くなるから嬉しいね」
「良かったじゃないか。苦労して何回もここまで、運んできた甲斐があったね」
「そうだね。まあ、レノンさんの安価な紙を使った持ち運べる町の地図の流通が、誘致の要因の一つではあるんじゃないかな」
レノンは2500ゴールドを払った後、500枚の紙を受け取った。
「ありがとう。また来るよ」
彼はそう言ってから、町のはずれの地図を作成するために借りた小屋へと歩き出した。畑で仕事をしている人たちを横目に、目的地へと進んでいく。彼らもレノンも防寒着を着て、この季節の寒さに対応していた。彼は小屋へと到着すると、鍵を開く。
彼が扉を開けると、棚にはいくつかの印刷された地図と白紙の紙が積み上げられている。換気のため扉は、開けたままを維持していた。レノンは買ってきた紙を、未使用の紙をまとめているエリアに置いてから、木版印刷を行う。
いくつかの町の地図を販売はしているものの、結局シルバーヘイブンの地図が最も売れているので、それを考慮しながら印刷量を決めて作成を行う。
二時間程度、印刷作業を行うと休憩のために持ってきたご飯を、小屋の外に置いてある古びたベンチに座りながら食べる。
「やっぱりこの季節は寒いなあ」
彼はぶつぶつ呟きながら、休憩を行った後、再び気合いを入れ直して、木版印刷に取り掛かる。暫らくしてから、扉の方から声を掛けられる。
「レノンさん、塾が終わったので手伝いますよ」
レノンが扉の方を見るとフレッドが立っていた。
「もうそんな時間か……それじゃあ頼むよ」
2人は別々の板を使って、雑談をしながら地図の作成を行う。
「明日は地図を卸に行くから、フレッドも時間があったら一緒に回ろう。親からも巨かは出てるんだろう?」
「許可は貰ってますよ。でも、受験まで一月を切ると流石にもう無理ですけど」
「もうそんな季節か。受験は三月の中旬だったか?」
「そうですよ、王都が楽しみです。レノンさんのおかげで、自由に使えるお金もあるので、お土産でも買ってきますよ」
「それよりテストの方じゃないのか?」
「まあ、三年も塾に通っているので問題ないと思います」
レノン達は今日作る予定だった地図の作成を終えると、レノンが持ってきたカバンに地図を詰め込んでから2人は町の中心部へと戻っていった。彼はフレッドを家まで送ってから、自分の宿へと帰っていった。
――翌日
レノンはちょうど朝と昼の間くらいの時間に起きる。身支度を終えると少し町の中を散歩してから、少しだけ早い昼ご飯を食べた。その後、レノンは冒険者ギルドへと向かった。彼は受付の人間に声をかける。
「すいません、星屑商会のレノンです。地図を販売に来ました」
「レノンさんですか。分かりました。担当のものを呼んでくるので少しお待ちください」
レノンは、近くの椅子で少し時間を潰していると、声を掛けられる。
「レノンじゃん。久しぶりじゃない?」
声をかけてきた女性は深緑色や茶色のタイトなレザーの服を着ており、短髪の金色の髪をしていて、特徴的なエメラルドのような深い緑色の目を持つ女性だった。
「ソフィアじゃないか」
「喋るのは、パーティを解散して以来かな? カイルから時々話は聞いてたよ」
「たしかにパーティー解散ぶりだな。俺もカイル経由でしか元メンバーの話は聞いていないから、お前がいいところに拾ってもらったくらいしか情報を知らないな」
「今日一緒にご飯でも食べようよ。久しぶりに」
「分かった。18時に冒険者ギルドで集合しよう」
「オッケー」
レノンがソフィアとの会話を終えると、彼の元に地図関連の担当をしている人間が話しかけに来る。
「レノンさん、お待たせしました。ついてきてもらえますか?」
担当の人間はレノンをギルドの中の個室へと連れていく。担当者はレノンに言った。
「早速なんですが、グレイスヴェルト、フォーゲルミュント、ミステリウムを100枚ずつ、シルバーヘイブンを200枚お願いします」
レノンは鞄の中から紙の束を取り出しながら、彼に訊く。
「やっぱり、シルバーヘイブンの地図が一番売れているんですね」
「そうですね。それと、最近は冒険者の人間からよく来る意見としては、羊皮紙で作ってくれないかという依頼が来ますよ。なんでも、現在の地図に使われている紙が貧弱すぎて、少しのミスで破れてしまうのが不満だそうです」
「そうですね……中々こちらとしても難しい問題なんですよね。羊皮紙は高価なので……でもその意見を頂けるのは嬉しいですね」
「もし何枚か作られるようなら、うちで何枚か買わせてもらいますので、その時はよろしくお願いします」
「分かりました」
レノンは要求された通り紙を机の上に並べ終わった後、担当者が彼に言う。
「いつも通り一枚15ゴールドで計算しています。全部で7500ゴールドになっています。確認お願いします」
彼らがお互いの提出したものを数え終わると取引が終了する。
「では、また2週間後にお願いします」
レノンはギルドを後にすると、フレッドを拾うため塾の方へ歩いていく。
彼が塾にたどり着くと2台ほどの馬車が貴族の子供の送り迎えのために道のわきで待っている。また、数人の子供たちが塾から出てきており、一人の女の子がレノンの方へ走ってくる。レノンはリリーに声をかける。
「久しぶりじゃないか?」
「そうね。久しぶり、レノンさん。ところで、ここで何をしているの?」
「フレッドを待っているんだよ」
「どうして?」
「最近、手伝ってもらってるんだ。もちろん、ただ働きじゃないよ」
「ねぇ、それなりに活動で来てるってことは、何か買ってよ」
「そこまで余裕ないから。まあ、また今度な。フレッドも来てたし」
レノンの目線の先にはフレッドがこちらに向かっているのが見える。彼の目の前で立ち止まるとレノンに言った。
「お待たせしました。どうして、リリーが?」
「ちょっとしゃべってただけだよ」
リリーはレノンに言う。
「また今度ね。その言葉忘れないわよ。それじゃあまたね」
「ああ……」
彼女はその場を立ち去っていく。その後ろ姿を見ながら、フレッドがレノンに言う。
「まあ、彼女も僕と同様今年受験なので、何とかなりますよ」
「そうだな。まあ、商業ギルドに行くとするか。……その前に宿に追加の紙を取りに行くよ」
「分かりました」
2人は塾からレノンが泊まる宿に向かい、紙を取りに行った後、商業ギルドで同様に販売を行った。そして、レノンはフレッドを彼の家まで送る。
「商人ギルドだとこの町以外の地図の方が売れてるのは、冒険者ギルドとは違うポイントだな」
「そうなんですね。なら、もっといろんな町の地図を作れると商人ギルドなら買ってくれる人が多そうですね」
「材料さえあればって感じだろうな。少なくとも、現段階だと安価な紙が流通しきっていないから難しいだろうけど、時間の問題だろうな」
「僕が王都から帰ってくることには、この国にも安価な紙が主要になっているかもしれませんね」
「使い勝手がいいから、可能性はあるな。その頃には、ある程度の商会になっていたいな」
「続いていたら、僕の第一候補ってことで」
「ああ。勉強している人間はその辺にはいないからな」
彼らはフレッドの家に到着した。レノンはフレッドを見送った後、ソフィアとの約束のために冒険者ギルドへと戻った。
―――――――――――――――――――
次回
依頼の詳細を聞きに行く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます