第24話 エピローグ
レノンは雨の影響で魔道具が壊れたこともあり、いくらかのワインを持ってシルバーヘイブンへと帰った。帰り際に4月にワインを買いに来てほしいと言われていたため、それまで何度か行商へ行くことに決めた。また、魔道具の壊れた馬車を修理に出した。
レノンは、次にロジャーの家へ報告を兼ねてワインを持っていく。彼が扉の鐘を鳴らすが、反応はなく留守だということに彼は気づく。そのため、一度宿に戻った後、木版工場へと訪れる。彼が扉の鐘を鳴らすと中から男の子が出てくる。
「おはようございます。1月前に会ったけど覚えているかな? 木版の作成を依頼していたのだけれど、進捗はどうなっているかの確認をしに来たんですが」
「わかりました。一応、依頼内容を書いた木札に名前があるので教えてもらってもいいですか?」
「レノンだ」
男の子は木札の名前を探し始めた。1〜2分程度で、彼はレノンの依頼内容を書いた木札を発見する。
「え~と、依頼内容は木版一枚で、価格は1万ゴールドですね」
「それだと思う」
「進捗は……未記入なので、親分を呼んできます」
男の子は、ゴシックを連れて来た。そして、彼はレノンに言う。
「おお、久しぶりだな。予定より早く来たな。実は既に木版を完成させたから、すぐに渡すことができるぞ。金額は1万ゴールドといったところか」
「すぐに受け取りをしてもいいですか?」
「いいぞ」
ゴシックが男の子に何かを言うと、木版を取りに工房へ走っていく。そしてレノンは、木版の取引を終える。
「ありがとうございました」
「こっちもこれが仕事だ。また、頼むよ」
レノンは、木版工房を後にした。そして、完成した木版を宿に持って帰ると、どこで木版印刷をするべきかを考えていた。彼は、これからも行商に行く予定なので、どこか安い場所を借りることにした。
彼は、不動産ギルドに到着する。受付に自分の名前を言うと、番号の書いてある木札を渡される。暫らく待つと、魔道具で番号を呼ばれるので、彼は受付へ向かう。
受付の女性はレノンに訊く。
「初めまして。早速ですが要件から訊いてもよろしいでしょうか?」
「初めまして。実は、木版印刷をするスペースを探しているんです」
「なるほど。家を借りるか買うかで言うとどちらになりますか?」
「借りるしかないですね。お金がないので」
「場所の希望はありますか?」
「そうですね....今は安く借りられればいいかなといった感じですかね」
受付の女性は、机の上に一冊の本を開く。そこには住居の情報が載せられている。
彼女はそれらの情報がどのようなものかを、一度レノンに説明する。
「それでは、安いものですと....これですね」
彼女は本をめくるのを止めて指をさす。
レノンはそのページに書いてある情報を読む。
「小屋。徒歩1時間。広さ15m^2。築50年。物置スペース多少有。月500ゴールド」
彼女がレノンに言う。
「こちら、非常に安くなっています。そこそこの広さもありますし、どうでしょうか?」
「防犯対策とかあるんですか?」
「こんな金額ですよ。あるわけないじゃないですか」
「一度見に行くことはできますか?」
「大丈夫ですよ。その場合、明日の10時にここに来ていただければ、担当の人間が連れていきますので。ところで、他の場所は見なくてもいいんですか?」
「これより安い場所があれば見たいけど、ないですよね?」
「まあ、これより安いとこはないですかね」
「分かりました。それでは、明日よろしくお願いします」
翌日、彼は再び不動産ギルドまで、内見のために来ていた。
彼は、受付の人間に名前を言うと、担当の女性が出てくる。その女性は黒く長い髪の女性であった。
「レノンさん、本日はありがとうございます。本日担当するエリーナです。片道1時間くらいかかりますので、よろしくお願いします」
レノンは、彼女の先導の元、目的の小屋へと向かっていた。
「どこを見渡しても、畑ばかりですね」
「そうですね。この辺りは、野菜を作っているそうですよ」
「内見も大変ですね」
「まあ、こんな街中以外の場所にある建物はあまり多くないので、実際はそんなに大変じゃないですよ」
「そうですよね」
2人は道の横に広がる畑を馬や農機具を使って耕している光景を横目に目的地へとたどり着く。そこには、レノンが顔の見知った少年が立っている。その少年は、レノンが塾に通っているときに何度か話したことのあった。
「レノンさんじゃないですか。もしかしてこんなボロ小屋を借りようとしているのもレノンさんですか?」
「久しぶりだなフレッド。もしかして、この建物の所有者は親族なのか?」
「そうですよ。だから、自分が任されるわけですよ」
フレッドはため息をついた。
それを見ていたエリーナは言った。
「お知り合い…… のようですね。それでは、簡単に建物の説明の方をお願いしても大丈夫ですか? フレッドさん」
「分かりました」
フレッドはそのぼろい小屋の鍵を開ける。
「元々ここは、農具なんかを仕舞っていたんですが、馬を使うようになってから、別の小屋を建てたので、全部そっちに移しちゃったんですよね。だから、たいして掃除もしていません。見てもらえれば分かりますが、棚があるくらいですね」
レノンはドア越しに部屋を見る。中には棚があるものの、蜘蛛の巣が張っているような状態であった。
「広さは十分のような気がするな」
レノンは呟く。それを聞いたフレッドが訊く。
「何しようとしてるんですか?」
「木版印刷するスペースが欲しかったんだ」
「レノンさんそんなことしてたんですね。人手は募集していますか?」
「あって困るものじゃないが、どうだろうな……給料を払えないかもしれないな」
「へぇ。興味があるので、見るだけでもいいから何をするか見てもいいですか?」
「大丈夫だけど、時間とかは大丈夫なのか?」
「多分大丈夫だと思います」
「連絡手段もないから、時々ここに身に来た時にいたら適当に見学でもなんでもしてくれ」
「分かりました」
雑談をしている二人をエリーナは横目に見ていたため、その視線に気づいたレノンは、話を戻す。
「まあ、ここを借りようかな。一番安いらしいから」
エリーナは、レノンの言葉を聞いて言った。
「それでは、内見は終了ということで大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「それでは、簡単に契約をしてもらうので、不動産ギルドへ戻ります」
フレッドと別れた2人は、不動産ギルドへ戻り、契約書を作成する。彼女はレノンにペンを渡して、羊皮紙の空欄に書くように促した。
「代筆も可能です。それと、契約書の読み上げもしましょうか?」
「いや、俺は自分でどちらもできるので」
「そうですか」
レノンは契約書を読んでから自分の名前を記入した。それを彼女は確認してから、あの小屋の鍵を彼に渡す。
「一応、大家さん側も鍵を持っているのですが、緊急事態の時以外はこちらのギルドから何かをするということはありません」
「分かりました、それでは」
レノンは契約を終えて、不動産ギルドから退出した。その後、今日もロジャーの家に行くことにする。彼の家の扉の鐘を鳴らすと、ロジャーが顔を出し、レノンを確認すると、家へ挙がるように促した。2人は談話室で話を始める。
「レノン、初めての行商はどうだった?」
「そうですね……予定していたイリシウムでは、タイミングが悪くて、目的としていた魔物の素材を買うことができなかったんです。それで、結局シルバーヘイブンに帰る途中で雨が降って……」
レノンはロジャーに、今回の行商の出来事を思い出しながら話をした。自分が悪事に片足を突っ込んでいたことは、話すことは無かった。それらの話を聞いて、ロジャーは言った。
「なるほどな。いいことばっかりじゃないのは、経験としては良かったと思うよ。中々商品を決めるっていうのは難しいと思うから、私の伝手で何個か運搬の依頼を受けて見てはどうだい?色々な町に金銭的なリスクは少なくいけるだろうから」
「是非お願いしたいです。今回は、お金を稼げない焦りみたいなものを強く感じていたので……」
「分かった。じゃあ3日後にうちに来てくれ。知り合いを当たってみるから」
「ありがとうございます」
――2週間後
レノンはロジャー経由で斡旋された運搬以来のために、町と町を繋ぐ道を進んでいた。馬車の近くには、数人の護衛がいる。斥候をしていた一人が前方から、馬車の方へ戻ってくる。
「レノンさん、複数の魔物が出ました。馬車は下がってもらってもいいですか」
「分かった」
レノンは馬車を少し離れたところに置いて、馬車に積んでいた盾と剣を装備すると、彼らが戦闘しているところに加勢をする。
――魔物撃退後
「レノンさん、そんなに強いなら、冒険者やってる方が稼げるんじゃないですか?」
「昔はやってたんだけどな。今は商人として物を運んだりすることの良さを見つけられたんだ。だから、冒険者をやることは無いよ」
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