第12話 ストームハウル②

 ドレイクは、別の護衛メンバーの中の唯一の動ける人間に対して言う。


「こっちは、前衛がやられたんだ。アンタは盾持ちだから、できるだけ耐えてくれ。俺たちで奴を仕留める」


 その男は言う。


「分かった。攻撃を当てるのだけは勘弁してくれよ」


 ――ドンッ


 その盾に対して、ストームハウルの突進が繰り出される。彼は、吹き飛ばされること無く、その攻撃を受け止める。ミリアは即座に魔物に対して攻撃を始める。彼女の矢は先程同様に弾かれる。ストームハウルはバックステップをとることで、一度距離を取り、狙いをミリアに定める。ドレイクは魔法で攻撃するものの簡単に避けられてしまう。


 ストームハウルはかまいたちを盾の男に対して飛ばしたあと、即座にミリアに対して突進を開始する。ドレイクとミリアの攻撃を受けながらもその突進は止まらない。ミリアが回避行動をとろうとしても進路がブレることはない。彼女は、捨て身覚悟で矢を射る大勢をとる。しかし、その腕は震えており、狙いが定まっているようには見えない。彼女の顔が絶望に染まり、彼女は死を自覚する。


「嫌だ」



 死にたくねぇーー


 その時、盾を持ったレノンが大きな声をあげながらストームハウルの脇腹に突進をする。ストームハウルの体勢は大きく崩れレノンとともに吹き飛ぶ。


 ドレイクはそのストームハウルの顔に剣を振りかぶる。その剣は、魔物の目を貫いた。魔物は暴れだす。レノンは全力で魔物から距離を取る。


 ドレイクは現在の状況を確認する。戦意喪失しているミリア。テンションが少しおかしいレノン。そして盾役の男。


『攻撃の手数が足りない』


 ドレイクは、二人に攻撃を受け止めてもらいながら、少しの間魔法で攻撃をした。すると、ストームハウルが撤退を行った。進行方向は村の方角ではない。


 レノンは、自分でもよくわからない感情を抱いていた。しかし行動の原動力は自分のやるべきだと思うことを行うという気持ちだったのは確かだった。


 サラはレノンの行動を見て驚いていた。


「あの状態から動けるなんて……」


 彼女はすぐに負傷者の治療を始める。ドレイクは商人の安否確認を行った。彼らは、死傷者と負傷者を出しながらもこの戦いに勝利したのだった。


 それから、死傷者を弔った後、生き残ったメンバーで、村への道を進み始めた。


 ――――――――――――――――――――――

 それから、日が暮れるまでには、目的としていた村に到着することができた。その村は外敵から守るために外壁で囲まれており、石造りの家が30くらいの小さな規模であった。入り口付近の畑で仕事をして家に向かう村人達は彼らを見て何事かと思っているようであった。


「ヘンリーさんが言っていたのは、村の奥に宿があるんだっけか?」


 レノンは横に座るカイルに言った。


「そう言っていたな」


 少しだけ、勾配のある道を進んでいく。すると、こじんまりとした宿屋の絵の看板がぶら下がっていた。宿の前で、馬車を止めてレノンは中に入る。


 ――中には誰もいない。


 しかし、宿屋の受付は綺麗に維持されていた。

 レノンは宿内で声を出したものの、特に反応はなかった。一度彼は、宿の外に出る。すると、宿屋の横の建物から、一人の女性が出てくる。


「あら、珍しい。もしかして、商人の方? というより負傷者がいるじゃない。さあ入って」


 彼女はレノン達を宿へと案内する。


「代金は後でいいから、空いてる部屋に案内するわね」


 動けるメンバーが、負傷者を部屋へと運び、サラが彼らの治療を行う。一方で、負傷者を運び終えたレノンや商人は、女性と話し始める。


「まずは自己紹介からするわね。この宿屋の運営をしてるマヤです。よろしくね」

「私はレノンです。行商人をしています」

「私はキックです。自分も行商をしています」


 マヤはまず彼らに訊く。


「何があったの?」


 その時、一人の男が宿屋へ入ってくる。


「セバスさん」


 その男は彼らに言った。


「負傷者を載せた場所が来たというから、来てみたんだが……」

「今状況確認しようと思ってたところなの」

「そうか……それなら私も聞かせてもらうよ」


 レノンとキックは、ストームハウルとの戦闘などについて彼らに説明した。


「ここにそんな魔物が出たのか。わたしは村長としてそれらの脅威からこの村を救ってくれたことに感謝するよ。宿代などは私の方から出そう」



 その後、マヤはレノンたちに宿屋の受付を済ませた。レノンは食欲が無く、すぐに眠った。翌日レノンは朝ごはんを食べた後、マヤに訊いた。


「宿の横の建物はなんですか?」


 彼女が答える。


「あれは、ワイナリーよ。この村は、ワインを作っているのよ。ほぼすべての住人がワインづくりにかかわってるの。ここのワインは人気で、この村も潤っているの。村の中の道なんかしっかり舗装されているでしょ? たまに初めてこの村に人が来るんだけど、いつも驚いているわよ。」


 レノンは話をした後、部屋に戻って考える。


「こんなとこに、ワイン作ってる場所があったなんて」


 彼は地図に情報を書き込んでいった。その後、マヤのもとにもう一度向かった。

 レノンはマヤに言う。


「私は、小麦粉を持っているんですが、この村で売ったりできないですか?」

「この村は一回、村長が行商から物を買い取ってから、村民が買うっていう形態をとってるの。おそらく今日も村長が話を聞きに来ると思うからその時に相談してみると良いと思うわ」

「ありがとうございます」


 その後、レノンはカイルを始めとした負傷者の状態をサラに確認した後、少し村の中を散歩する。村は低地には農地があり、比較的高い位置に住居で区画に分けられていた。家の作りも非常に頑丈そうに見え、小さな村と思えないほどであった。


 散歩をしていると、ぽつぽつと雨が降り始めたため、彼は宿に戻った。すると、宿の食堂には、動けるメンバーが集まっていた。キックはレノンに言う。


「もう少ししたら、村長さんが護衛の人間に対して話を聞くために来るそうですよ。自分は話せることがないので、出席はしませんが」

「そうなのか……それじゃあ自分も少し同席しようかな」

 

 そして、セバスが食堂にやってくる。メンバーはミリアとサラとドレイクと盾の男とレノンであった。セバスが最初に口を開く。


「今回は昨日の魔物との戦闘について話を聞きたいと考えている。また、撃退してくれたことに心から感謝する。ありがとう。大まかなところは商人の二人から話は聞いているが、それらのじょうほうとのすり合わせや、その魔物の詳細を知りたい」


 ドレイクがまず言った。


「多分、自分が適任でしょう。ほとんど最後まで戦闘に絡んでいたので。他のメンバーはその補足を行うという形で話をします。皆それでいいか?」


 ドレイクは周りの反応を確認した。みんなその意見に頷いたため、彼はセバスに説明を始めた。



 しばらくして、彼らの話し合いが終了する。

 セバスは彼らに言った。


「少し話しづらいこともあったと思うが、情報提供ありがとう。正式に家の村から冒険者ギルドに討伐依頼を出そうと思うよ。また、今回戦ってくれたあなた達の2パーティには、報酬を渡したい。ギルド経由の場合、評価は貰える代わりに報酬の金額が減るから、直接的に報酬がほしいか間接的に欲しいか選んでくれないか?」


 盾の男は言った。


「うちは直接頼む。死んだやつの家族になるべく多く、お金を渡したいから」


 セバスはそれを聞いていった。


「分かった。その家族のために追加でお金を出すことにしよう。そっちのほうが良いだろう」


 一方でドレイクは考えていた。それを見たセバスは彼に言う。


「どうせ、雨が降ってきたから今日は道が悪くて馬車は走れないだろうから、一度考えてから私の家に伝えに来てくれ」


 セバスは口頭で彼に家の場所を伝えた後付け加えるように少し笑いながら言う。


「もし迷いそうならマヤに連れてきてもらってくれ。まあ、30軒程度の村だから問題ないだろうが」


 彼らの話し合いは終わり、そこにいた人間は立ち上がり動き始める。レノンはそこで、セバスに話しかける。


 ――――――――――――――――――――――――――

 次回

 初めての取引

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