第11話 ストームハウル①

 彼らが見たのは、2匹の狼型の魔物に襲われている行商人と護衛の冒険者であった。レノンは、その魔物を見て、顔の血の気が引いていく。過去の魔物に追われ死にかけた経験が頭をよぎる。そんな彼を知らないミリア・サラ・ドレイクの三人は、加勢に加わるために馬車から離れて行った。


 ドレイクは戦闘中の彼らに声をかける。


「幸いにもパーティーが二つあるから、一匹ずつ担当を受け持とう。そっちの方が確実だ。商人の方は馬車の中に隠れてください」


 既に戦っていた冒険者のリーダーらしき人物がその指示を聞いて言った。


「分かった。さっき加勢に来た兄ちゃんの方へ行ってくれ」


 カイルは、その狼型の魔物であるストームハウルの攻撃を受け止めている真っ最中だった。ドレイクは土魔法により、無数の岩石を魔物に向けて放ち、ミリアもそれに続いて矢を射る。攻撃が届きそうといったところで、ストームハウルの周りに風が巻き起こり、岩石や矢を跳ね返してしまう。ドレイクは呟く。


「これは……めんどくさい相手をひいてしまったみたいだな」


 カイルは、一度距離をとってから、全速力で魔物に斬りかかる。それに対応するように魔物は牙を使ってカイルの大剣をはじく。その隙に裏をとったドレイクが斬りかかると魔物は尻尾を振り払い、ドレイクを退ける。


 ストームハウルはフォージャーズから少し距離を取り、その毛並みが逆立ち、魔法の発動時特有の光が現れる。それを見たカイルがミリアと更に合流するように走りながら言う。


「どんな攻撃かは分からないけど、俺の後ろへ」


 そこにドレイクも呪文を唱えながら合流し、彼が剣を地面に触れると、地面が隆起して、岩の壁が生成される。


 ストームハウルはかまいたちのような風魔法をその岩に放つ。かなりの厚さのあった岩壁は吹き飛び、フォージャーズの皆は、体勢を低くすることで、その破片から逃れる。少しの砂埃が一面に広がった。


 ストームハウルも馬鹿ではなかった。その視界の悪さを利用して、先程と同じ方向に対して魔法を放つ。


 ――ドンッ


 視界不良のなかカイルは感覚を頼りに大剣を振りかぶり、かまいたちと相殺させた。その衝突により、辺りを俟っていた砂埃はカイルを中心に吹き飛び、視界がクリアになる。


 ミリアはダメ元で再び矢を射った。その矢は、ストームハウルを捉えることはなかったが、魔法により跳ね返されることはなかった。それを見たドレイクは言った。


「攻撃を誘い出せれば、弓は有効なんじゃないか?」


 サラもカイルに回復魔法をかけながら言う。


「この魔物も無制限に魔法使えるわけじゃないかもしれないってことね。安心したわ」


 彼らが少し注意を逸らした隙に、ストームハウルは、ミリアに距離を詰めにかかる。それを見たカイルは俺じゃ間に合わないと思いながらも足を動かす。一方ドレイクは、再び魔法で岩を放ちながら、魔物の右足に斬りかかる。


 しかし、ストームハウルの体の周りに再び風が巻き起こり、岩やドレイクは吹き飛ばされる。


 ――この突進を止める術はない


 ストームハウルは跳躍し、ミリアの顔をめがけて突進する。ミリアはその攻撃を地面に飛び込むような形で体勢を低くして避けたあと、キレイな受け身を取り、彼女の側方を過ぎていった魔物の後ろ左足に渾身の矢を放った。その矢は、次第に勢いを増し、狙い通りに突き刺さる。その瞬間、ストームハウルの体が強張った。


 そして、カイルはそれとほぼ同じタイミングで顔をめがけて、体験を振り降ろす。矢に意識をそらされていたのか、魔物の反応が少し遅くなったことでカイルの攻撃が魔物に届く。


 ――クソッ


 カイルは渋い反応をする。剣でついた傷は浅かった。それは、反応が遅くなりながらも魔法を発動させることで、カイルの攻撃の勢いを殺したからだった。それの影響で、追撃を目的としたミリアとドレイクの攻撃も透かされてしまう。


 ストームハウルは全員を視界に収められる場所を取り直す。ドレイクが言う。


「とりあえず、タイミングをずらしながら攻撃をしよう。これが合わせる側に回る」


 他のメンバーも声を出す。


「了解」


 その後、ミリアが直ぐに矢を構え、ストームハウルへと狙いを定める。ドレイクとカイルが魔物の両側面へと走り出す。ミリアの矢は、魔物の顔をめがけて飛んでいく。ストームハウルは彼らの攻撃の中で、カイルを最も危険と判断し、その矢を受け入れた。そしてカイルが斬りかかると同時に魔法で吹き飛ばし、カイルに追撃のかまいたちを飛ばす。カイルはその攻撃を避けるすべはない。


 ――ドンッ


 鈍い音が響き、鎧を貫通してカイルから血が流れ出す。それとほぼ同時に、ドレイクは再び呪文を唱え剣を地面に触れる。


 ストームハウルの真下の地面が槍となり隆起して、腹部に突き刺さる。魔物の口から血が流れ出す。ミリアは急所になるであろう目に矢を放ち、ドレイクも顔にめがけて斬りかかる。

 ストームハウルは、小さな鳴き声を上げるも、抵抗すること無くそれらの攻撃を受け入れた。


 フォージャーズは勝利を確信したものの、カイルは気を失っていた。サラが駆け寄り、錠剤の止血剤とポーションを取り出し、カイルの口に入れてから水を革袋から流し込んだ後、回復魔法をかける。


「助けてくれーー」


 大きな声が響き渡る。彼らがその声の方を見ると、護衛メンバーの一人がもう一匹のストームハウルに今に噛みつかれそうな状態であった。


 次の瞬間、その人の首から上は無くなり、その体は崩れ落ちる。彼らの残りは三人で、動けているのは一人だけだった。ドレイクは言った。


「サラ、カイルを連れて馬車の方へ。俺とミリアは、向こうに加勢する。出来れば、負傷者も少しずつ運べたらいいんだが……」

「分かったわ。出来る限りのことはやるから」


 その言葉を聞いて、ドレイクとミリアは攻撃をし始めた。サラは、レノンの馬車までカイルを引っ張っていく。御者席には、呆然としているレノンが視界に入る。


「レノンさん、あなた大丈夫なの?」


 レノンの目には、意識を失ったカイルが目にはいる。


「カイルは……カイルは生きてるのか?」

「死んでないわ。少しだけ、回復魔法をかけたら、また離れるからカイルをよろしく。貴方も大丈夫じゃないのは目に見えて分かってるつもりだけど、人手が足りないの」


 レノンは頭を抱える。


『また、魔物から逃げなきゃいけないのか』


 彼は恐怖に支配され、体に力が入らなかった。そんな状況ではあるが、サラは彼らの下へ走り出した。


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 次回

 ストームハウル②

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