第10話 トラウマ
その翌日、レノンたちが昼休憩をしていると、自分たちが来た逆側から別の商隊がやってくる。その商隊は、レノン達が休憩しているスペースへと入ってくる。
「あの商隊もここで休むっぽいな」
彼らが止まると、レノンは直ぐにそこへ近づいていき、かなり若く見える商人に対して声をかける。
「こんにちは」
「こんにちは。どうかされましたか?」
「久しぶりに自分たち以外の人間に会ったというよりは、休憩のタイミングがかみ合ったので、話しかけてみようかなと思いまして……お時間大丈夫ですか?」
「そうですね……まあ、大丈夫ですよ」
「では、簡単に自己紹介からしますね。私の名前は、レノンと言います。今初めての行商の真っ最中です。よろしくお願いします」
「初めてですか……自分も仕事を始めてからそんなに経ってないので、人に物を教えられるほどじゃないんですよね。お互いに実りがある話ができればという感じですかね……私の名前はヘンリーです。よろしくお願いします」
「ところで、どこから来られたんですか?」
「グラセアからですね」
横から、背中に大剣を持つ男が声をかける。
「ヘンリーさん。どのくらいで次出発するんだ?」
「レノンさんすいません。少し待ってもらえますか? そうですね。次は30分後くらいにしましょう。この砂時計の砂が落ちたらということで」
ヘンリーは、馬車の中で砂時計をひっくり返した。
その男はパーティメンバーに大きな声で言った。
「砂時計をこまめに確認しとけよ。馬車の後ろから見れるからな」
その後、その男は護衛の仲間たちと木の下で食事を始めた。
ヘンリーがレノンの元へ再び戻ってくる。
「レノンさん、戻りました」
「私が、声をかけるのが早すぎましたね。すいません。ところで、料理とかはされないんですか?」
「予定の段階で、ほとんど街を経由するつもりがなかったので、新鮮な食材などないんですよ。本当なら、私たちが来た道の途中で右に半日くらい行くと村があって、寄っていきたい気持ちはあるんですけど。商品の受け渡しの日時が結構厳しくて」
「この先に村があるんですか?私が持ってる地図には載ってなかったはず……」
レノンは自分の地図を広げて道の確認を始める。それを見たヘンリーは彼に言った。
「私がさっき言った村は、道を外れる関係上、あんまり商人が泊まるために使うような場所ではないですから。それに、地図は基本的にその商人が使う場所を中心に書くものですから、使わない場所をむやみに書くということは無いですよ。よその人間に渡すものではないですし」
レノンはそれを聞いて、ロジャーに感謝する。そして、昨日の進み具合から次の中継地点の町にたどり着く時間が当初の予定よりは遅くなりそうだったため、村に行ってみようかと検討する。そして、レノンはその情報をくれたヘンリーに感謝の意味を込めて提案する。
「ここであったのも何かの縁ですし、自分達の食べ物を食べますか?干し肉とかよりはましですよ。先ほど料理をしたので、簡単な物なら作りますよ」
ヘンリーはそれに食いついた。
「いいんですか? もう干し肉やドライフルーツみたいなものばかりで、しんどかったんですよ……」
レノンは一番早くご飯を食べ終わっていたカイルに向かって言った。
「カイル、残りの食材を使って料理を作ってくれ。今日の予定を変更して、近くの村に寄るから、食料の心配しなくていいぞ」
「分かった……けどちょっと人使い粗くね?」
レノンにカイルの悲痛な叫びが届くことは無く、その後先ほどヘンリーに話しかけていた護衛のリーダーであろう男に声をかける。
「ご飯を食べているのに話しかけて申し訳ない。俺の名前はレノンだ、よろしく。それで……聞こえていたかもなんだが、料理食べるか? 簡易的なご飯よりはマシだと思うぞ」
彼はレノンに言った。
「それはありがたい。もうかれこれ7日の間こんな食事をしているんだ。正直、俺も含めてメンバーのみんな飽き飽きしてるんだ。他のやつも呼んでいいか? 自己紹介を忘れていた。俺の名前はウォードだ」
「もちろんさ」
ウォードが声をだす。
「レノンさんが、飯奢ってくれるらしい。俺らもお言葉に甘えよう」
その言葉を聞いて、残りの2人がカイルの元へ向かった。フォージャーズのメンバーとヘンリー達はお互いに自己紹介を始めていた。護衛のメンバーに一人だけ、その輪に加わらない人物がいた。シルエットは男には見えない。レノンはその人のところへ歩いていく。
「初めまして、私はレノンだ。あなたも一緒に昼ご飯を食べないか?」
その人物はレノンを見て言った。
「いいわ」
振り返ったその女性は、美しい瞳、整った顔の輪郭のエメラルドグリーンの髪を持つ驚くほど美人な女性であった。レノンは見惚れていた。そして、その女性は言った。
「わたし、こういう反応されるの、面倒なのよ」
「……申し訳ない。まあ、気が向いたら来たらいいと思うよ」
レノンは彼女にそう言って輪のほうへ歩いて行った。輪の近くに来ると、そこにいるウォードの仲間たちがレノンに向き直り自己紹介を始めた。
彼らの名前は、大剣持ちのリーダーがウォード、少し細めの男がルカス、剣を持つ女性がエレンディラであり、一人でいた女性はレイナと彼は聞いた。レノンはその挨拶に対して、自己紹介をした。ヘンリー達にとって久しぶりの休憩だったため、いつもよりもにぎやかな昼休憩が行われた。そして、話がひと段落するとレノン達はヘンリーたちと別れて、準備をしてから出発した。ヘンリーたちは、皆、手を振りながら見送ってくれた。
カイルがレノンに訊いた。
「なんで、そんなに彼らによくしたんだ? あんまりメリット無いように思うけど」
「商人は信用が大事らしいからな。冒険者も商人も同業と話す機会はそこそこある。俺の名前がいい方向で知られれば、回り回って自分の利益になるだろ、たぶん。正直村のこと教えてくれたのが大きいんだけどな」
「たぶんって。曖昧だな」
とカイルは言った。その後、レノンたちはヘンリーの言っていた村に行くために、道の分岐点を右に進んでいく。その時、道の先から人が叫ぶ声が聞こえる。馬車の少し先を歩くカイルは何かを見つけたようで、全速力で道を進み始めた。レノン達も先ほどの叫び声を聞いてただ事ではないと感じて、行軍速度を早める。
彼らが見たのは、2匹の狼型の魔物に襲われている行商人と護衛の冒険者であった。レノンは、その魔物を見て、顔の血の気が引いていく。過去の魔物に追われ死にかけた経験が頭をよぎる。そんな彼を知らないミリア・サラ・ドレイクの三人は、加勢に加わるために馬車から離れて行った。
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