第7話 ミステリウムへ

 レノン達は今日の目標であるミステリウムの町へと向かっていた。基本的に先頭をカイルが歩き、馬車の近くをサラ、ミリア、ドレイクが護衛する形になっていた。道は一本道であり、シルバーヘイブンを出た直後は、農地に囲まれていた。

 レノンは特に現状、考えることもないので、彼らに話しかける。


「斥候的なポジションの人間がいないのは少し珍しいな」


 それを聞いて、サラが言った。


「斥候は母数が少ないからなのか、中々見つけることができないんですよね。うちのパーティは出来てから新しいほうですけど、元々Dランク以上の出身から構成されいて、初心者はほとんど入れるつもりないですから」

「それでDランクまでもう到達してるんだな」

「斥候、絶賛募集中なので、知り合いがいたら是非」

「俺の知り合いはカイルと被ってるから」

「そうですか……」


 彼らが雑談をしていると、道の周りから農場が消えていく。レノンは、周囲の景色の変化を認識して、緊張感が増していた。


「昼までに2回は休憩をとるつもりだ。俺は基本的に座ってるからそこまで体力の問題はないけど、しんどいと感じたら自己申告を頼むぞ」


 彼らはその言葉を聞いて頷く。周りの景色は人の手があまり加えられていない林に変化する。季節も影響して、緑色の草は少なく、茶色へと変化をしている。林からは時々、ガサガサと音が聞こえてくるが、道に飛び出してくる獣は見受けられない。その音が鳴るたびに、レノンの鼓動は早くなり、精神的な疲れが彼を襲っていく。それを見たサラはレノンに訊く。


「私、少し疲れたので、そろそろ休憩したいなーなんて」


 それにレノンが目の前に見える大木を指さして答える。


「少し早いけど、あそこの木の下にスペースがあるから休憩しよう」


 レノンの声を聞いたミリアが、馬車を離れてカイルにその言葉を伝える。カイルは後ろを向いて、レノンに承諾を示すようなリアクションをした。カイルはそのスペースへと一足先に入っていく。レノンが到着して、馬車に積んだ水の入った樽から、皆がコップを使って水分補給を行う。カイルがレノンに訊く。


「昼休憩の時間はどのくらいとるつもりなんだ?」

「そうだな……抽象的な答えになるけど、長めにとるつもりだ。俺はあんまり、簡易的な食べ物が得意じゃないから、時間はかかるけど料理を作って食べたいと思ってる」

「時間的に問題はないのか?」

「ああ、問題ないはずだ。変なことがなければな」

「流石に、その辺は昔と変わってないな」

「まあな」


 レノンが休憩を経て少しずつ、リラックス出来ているのをサラは確認していた。彼らが休憩している間に何度か馬車が彼らを追い抜いていった。

 休憩を始めてから、ある程度時間が経ったので、レノンがみんなに言った。


「それじゃあ、そろそろ行こうか」


 その言葉を皮切りに、皆が休憩していたスペースから動き出し、先ほどの陣形を作って再び道を進みだした。それから、彼らは周囲を警戒しながらも林を抜けた後、一度休憩を挟み、開けた平野を進んでいった。レノンは自覚をしていないものの、林を抜けてからは普段の余裕を取り戻すことができていた。ロジャーから渡された地図を参考にして休憩のおすすめスポットである。小川の近くのスペースを彼らは目指した。


「もうそろそろ休憩に入る。この川を剃って進んでいくとちょうどより。休憩ポイントがあるらしい」


 レノンはフォージャーズの皆に言った。それにミリアが反応する。


「午前中は意外とあっさりとした感じでしたね」


 それを聞いてドレイクが言う。


「何もないことはむしろいいことだろ」

「それはそうだけどさ……」


 話を遮ってサラが言う。


「昼ご飯は誰が作るか決めてないですよね?」


 レノンが答える。


「そういえば決めるのを忘れていたな。個人的には最初は料理が一番。うまい人が作ってほしいものだけど」

「じゃあサラね」


 ミリアとドレイクの2人が言う。サラもその言葉を自覚していたようで、サラに料理当番が決まった。レノンは、休憩スペースに到着したことをカイルに伝え、彼らは昼休憩を始める。


 サラは料理の準備を始める。料理道具などは他社に積んであるので、必要なものを手分けして、彼らは準備した。その後、レノンはガラハドを小川に連れて行き、水分補給をさせると共に彼に昼ご飯を提供する。残りのメンバーは自分たちの武器の手入れを行った。レノンがドレイクに言う。


「ドレイク魔法で日陰を作ってくれよ」

「魔法だって使える限度ってもんがあるんだ。そんなことのためには流石に使えない」

「冗談だよ。冗談」


 彼らは馬車の日陰に移動して休憩を行っていると、サラはみんなに声をかける。


「ご飯が完成したわ。みんな集まって」

 

 その声を聞いて、他のメンバーが彼女の近くに集合する。そして、配膳された料理を彼らは食べ始めた。ご飯を食べ始めると、ドレイクが言った。


「今日もサラの飯は上手いな。」


 皆も、その言葉に賛同する。

 レノンは皆に言う。


「ここ最近、俺は料理してないから、俺の時は期待しないでくれ」


 ドレイクがそれを聞いて言った。


「サラ以外はどんぐりの背比べだから、気にしなくてもいいぞ」 

「それはよかった」


 彼らが休憩しているスペースの横の道を多くの噂が通り過ぎていく。レノンはそれを見て言う。


「長時間休憩するもんじゃないのかもな」


 ミリアはそれを聞いて彼に言う。


「休憩時間がたくさんある方が楽でいいですよ。肉体的に」


 カイルもレノンに言う。


「まあそこは依頼者の好みな感じはするけどな。レノンもわかってると思うけど、正直ここまでしっかり休憩するタイプの依頼者は珍しいんじゃないか?」


 その言葉にフォージャーズの面々はうなずく。


「緊急時に疲れていたら判断ミスだったりが起きやすいから休憩を取ってるんだよ」


 レノンのことを聞いてカイルが言う。


「そういうとこも昔と変わらんな」

「昔って……半月しか経ってねえよ」


 彼らは、雑談をしながら休憩を行う。全員がご飯を食べ終わったのを確認すると、レノンは一度皆に地図を見せながら午後の予定を説明する。


「今のところの予定だと、あと4時間ぐらいで到着できるはずだ。あの丘を超えるとミステリウムの街が見えるはず」


 その後、彼らは再び道を進み出す。しばらくしてミステリウムの街が見えたところで、レノンは彼らに尋ねる。



「どこかで寄り道して、獣でも狩っていくか?」


 カイルは言った。


「宿代はこちらが負担だから、何か狩っていきたいな。日没までには時間もあるし、町も見えてるからね」


 サラは訊く。


「どのくらいの重さなら乗せられますかね?」


 レノンが答える


「100kgは無理だろうな。頑張っても80kgくらいじゃないかな」


 ミリアがそれを聞いて言う。


「小さいイノシシとかウサギや鳥の複数羽が理想ですかね」


 ドレイクは言った。


「すばしっこい奴なら、俺かミリアだろうな」


 カイルが言う。


「そうだな、ドレイクとミリアで狩れそうなものを探してきてくれないか?イノシシや魔物なら一度ここへ戻ってきてくれ」


 それを聞いて、2人は馬車を離れていった。特に何も起こらず、太陽が少しずつ沈んでいく。レノンとカイルとリリアンは雑談をしながら2人を待った。すると、ドレイクとミリアの二人が2羽のうさぎと2羽の鳥を持って帰ってきた。


「血抜きはもうやっておいた。すまないが、馬車に乗せさせてもらう。その前に、道の草を切ってくる」


 ドレイクは獲物を一度カイルに渡して、道のわきを剣で切ってから、馬車の空きスペースに敷き詰めた。そして、獲物を受け取って、そこに並べた。


「レノン、出発してもらって構わない。かなり待たせてしまってすまないな」

「まだ日があるから、問題ないよ」


 レノンは、ドレイクの馬車への配慮に感謝した。彼らは、そのまま日があるうちに、今日の目的のミステリウムの町に到着した。


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